炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

第1話/シーン4

 オーシャン・ベースを構成する人工島が展開し、基地が擁する全ての戦闘機が発進体勢をとる。
「ファイターフォースGCS、発進!」
「同じく、テイクオフ!」
「…スタート」
 3機のファイターフォースが各々のパイロットの声に応えるようにアイドリングを開始し、一気に空へと舞い上がる。

「シルエットフォースVFS、発進!」
 次いでコウイチの乗るシルエットフォースが飛び立ち―――
「フィギュア・シルエット…フォームアップ!」
 擬似人型…フィギュア・シルエットへと変形する。
『ロケットランチャーを射出するわね、受け取って!』
 通信機越しにイオリの声が届き、一呼吸置いてジェット推進器を取り付けた巨大な砲身が飛んでくる。
「あらよっ…と」
 ブーストを切り離し、宙に放り出されたランチャーを、シルエットフォースのマニュピレーターが受け止める。
「んじゃ、行って来るぜ」
『ええ。しっかりやって来なさいよ』
「ああ。とっとと終わらせてお前にモンブラン買ってやらなきゃだしな」
『も、もぅ!余計なこと言わなくていいの!!』
「ははは…」
 真っ赤になったイオリをモニター越しに見て、コウイチは先んじて飛び立っていったファイターフォースを追いかけた。


『相変わらず仲がいいんだね、キミタチは』
 ファイターフォースの2番機から通信が届く。
「腐れ縁みたいなモンですけどね」
 軽く笑いながら、コウイチが答える。
『そういえば、いとこ同士だっけ』
「はい。アイツは殆どアメリカにいたから、夏休みとかにたまに遊ぶくらいだったんですけど」

「…あったく、エドもコウイチも緊張感のカケラもねぇのか」
 呑気に会話しているようにしか思えない二人の様子にシンジロウがボヤく。と、彼の乗る1番機に、3番機から通信が入った。
「っと、どうしたアル?」
『…先刻、シンジロウ隊員がいたフライトエリアに入った。気圧の乱れが生じている。突風に注意』
「ロジャー。…おいお前ら聞えたか?台風が近いぜ。気を入れないと吹っ飛ばさ…うおっ!?」
 言ってるそばから突風にあおられ、シンジロウ機が大きく揺れる。とっさに操縦桿を押さえつけ、どうにか姿勢を整えた。
『………』
「ゴ、ゴホン!」
 コウイチにジト目で見られ、咳払いしてごまかすシンジロウ。
「イズミさん、台風は移動してますか?」
 状況を知るべく、オーシャン・ベースのオペレーターに現在の状況を尋ねる。
『いいえ、殆ど移動していないわ。…まるで、自らの意思でそこに居るみたいに』
 こころなしか、イズミの声が震えたように感じた。
「台風に意思なんかあってたまるかよ、なぁアル」
『…しかし、確かに不自然だ。まぁ、それゆえに異常現象、と言えるのだろうがな』
 2番機を駆るエドエドワード・ジョースターが軽口を叩きつつ同意を求めるが、3番機のアルことアルベルト・ヴォルフはつとめて冷静に答える。
『とにかく、俺たちに出来ることはこのミッションを成功させることだ。急ぐぜみんな』
「それじゃ各機、これから高度を上げて行きます。台風の目に確実にGCS弾頭弾を撃ち込むために、成層圏・地上10キロメートル以上にまで上昇してください」
『『『ロジャー!』』』
 コウイチの指示に従い、4つの翼がはるか高みを目指して飛んだ。


 ―――十数分後、面々の眼下に巨大な台風雲が見えてくる。
「あらためて見るととんでもねぇデカさだな…」
「確かに、上陸なんざされたらたまったもんじゃねぇやな」
「そうしないために、俺たちが居るんです。…間も無くミッションエリアに到達します。各機、GCS出力を60%まで上昇させてください」
 ファイターフォースのGCSの出力が上がり、暴風に圧されていた機体の揺れが収まってくる。
「よし…シルエットフォース、GCS出力80%。バランサー制御をセミオートに移行。銃器管制システム、異常なし…っと」
『…すげぇな。俺たちがオートバランサーに頼り切ってるってのに、この暴風の中半自動で扱おうってンだから』
 エドワードが感心したように呟く。
「GCSとは、イオリと同じくらい付き合い長いですからね」
 微妙な操作が必要なときは半自動が丁度いいんですよ、と事も無げに言ってのけるコウイチ。
『コウイチ隊員、台風の目を肉眼で確認』
 アルベルトからの通信に、コウイチが頷いて応える。
「あ、ハイ。こっちでも確認しました。…隊長、こちらコウイチ。ミッションエリアに到達。これより、ミッションを開始します」
『わかった…頼むぞ、コウイチくん』
「ロジャー!」
『…コウイチ』
 と、不意にイオリから通信が入った。
「ん、どーしたイオリ?」
『あ、ううん…なんでもない』
「なんでもないってことは無いだろうが」
『ぃや、その…ちゃ、ちゃんと帰ってきなさいよ!それだけ!』
 そっぽを向くイオリの頬が、心なしか桜色に染まって見える。
「任せろ。俺のウデとお前の技術があれば、どんなことだって出来るさ。…だろう?」
『…うん、そうよね』
「俺は目に向けてGCSを叩き込む。お前はそいつを起動させて台風を破壊する。それでミッションコンプリートだ」
『…うん!』
「上等!」
 モニタ越しにサムズアップを繰り出すコウイチ。イオリも同じくサムズアップで応える。
「よし、いくぜ…ミッション、スタート!」
『『『ロジャーっ!』』』
 シルエットフォースの周囲にファイターフォースが散開し、GCSを最大出力で稼動させる。
「グラヴィティフィールド、展開」
 GCSにより発生させた重力エネルギーが、機体を中心に球状のバリアを生み出す。これにより暴風が抑えられ、コウイチに万全の環境を用意する。
『グラヴィティフィールドは30秒しかもたないわ、急いで!』
「おう!…ターゲット・インサイト!」
 シルエットフォースがロケットランチャーを台風の目に向け、コウイチが操縦桿のトリガーに指をかける。
「GCS弾頭弾…ファイア!!!」
 コウイチの指の動きに合わせ、シルエットフォースのマニュピレーターがランチャーのトリガーを引く。爆音を上げて銃口からGCSを弾頭に収めたミサイルが台風の目に向かって飛んで行く。
「GCS弾頭弾、無風空域への侵入を確認」
 イズミの声が響く。
「今ね…GCS、オーバードライブ!」
 イオリが握り締めたリモコンのボタンを押す。と同時に弾頭のGCSが暴走を始めた。
「各機、ミッションエリアからの離脱を!」
『『『『ロジャー!!』』』』
 ロバートの指示が飛び、4機は最大速度でその場を離れた。
 やがて暴走したGCSは自壊し、その中央から色を失った球状の物体が現れた。
「マイクロブラックホール、発生しました!」
「よし、後は…」
 オーシャン・ベースの面々はモニタ越しに、パイロットたちはキャノピー越しに、今起こっている事態を見守っている。
 発生したマイクロブラックホールはその超重力エネルギーをもって台風の持つ高エネルギーを相殺していく。
「台風が…」
「崩れる…」
 どれくらい時間が経ったのだろう。
 長いような、短いような時間を、TEAM-F.O.R.C.E.はともに共有していた。
「…気圧、正常値に戻ります…」
 イズミの歌うような声が、彼らを現実に呼び戻す。
「終わった…のか?」
 台風を形成していた雲は未だ晴れないが、期待の外で吹き荒れていた風は、いつしか穏やかなものに変わっていた。
「すごい…やったんだ、俺たち!」
「イヤッホーッ!」
「…ミッション・コンプリート…!」
 ファイターフォースの3人が思い思いに成功の喜びを分かち合う。
 そんな中、コウイチは台風の目のあった位置から目を離さないでいた。
『おーいコウイチ。終わったんだからちっとぁ喜べよな…』
「ちょっと待ってください!何か…変です!」
 いや、目を離せずにいたのだ。
『なに…これ…。海中に、高エネルギー反応!台風の目があった場所の…真下です!』
 イズミの語尾が届くか届かないかの瞬間、大きく水柱が立ち上った。
 雲越しに、巨大な影が浮かび上がり…
「な、何だってンだ…!?」
 グルルル…と地響きのような唸りが海原を揺らす。
 一瞬、雲の流れが途切れた。
 そのとき、切れ目から見えた姿を……
 その場にいた4人は、決しては忘れることは無いだろう。
「…怪……獣……!?」
 絶句するパイロットたちの中で、唯一搾り出されたコウイチの声が、突如現れた“異変”を端的に表していた。



  -つづく-





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 台風の雲は、だいたい成層圏、地上10キロメートル以上にの高度まで存在するそうですね。恐らくは今回のような超巨大台風でもそれくらいの高度が限界だと思いますが…
 まぁ、いいか。SFだし(ぉ

 エドとアル、二人のファイターフォースパイロット(通称:ハガレンコンビ(大嘘))の説明は次回で。
 セリフこそ無かったですが、実はちゃんとシーン3の時点でいたんですよね彼らは(笑