炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

File:1/Scene:1

 ―――雪白小姫は退屈していた。

 学校と自宅を往復するだけの平々凡々とした日々。
 部活もやっていない。つまらないからだ。
 だからって自室にこもっても何かやるわけでもない。

 自堕落…とまではいかないが、空虚すぎる時間を、ひとり過ごしていた。


「…退屈」
 溜息交じりに呟く。執事の加々美が淹れてくれるハーブティは相変わらず美味しかったが、それで退屈が紛れるわけでもなく、小姫はテーブルに積まれた本に手を伸ばした。
 飽きっぽい性格で、退屈しのぎに始めたこともすぐに投げ出す小姫が、唯一続けていたのが読書だった。
 ただし、推理小説に限定されるのだが。
 縦横無尽に張り巡らされたトリックを一つ一つ解くのがたまらなく面白い。小姫にとって、最高の娯楽なのだ。

 ただ、クラスメイトには少々受けが悪い。
 先日江戸川乱歩を勧めたらドン引きされてしまった。

「…こんなにも面白いですのに」
 友人に受け入れられないことを疑問に思いながら、文面をたどり、トリックを解き明かしていく。
 ページをめくり、答え合わせ。自分の思い描いたとおりのロジックが展開されているのを確認し、ひとり悦に浸る。
 ストーリーや犯人探しは二の次だ。少々普通の読書の楽しみ方とは異なるが、本人はそれで楽しんでいるのだからいいのだ
ろう。

「さて、次は…っと」
 解き終わった本を放り出し、次の本を手にする。
「…あら?」
 見覚えのない本に一瞬戸惑う。恐らくは加々美が気を利かせて新しいものを仕入れてくれたのだろう。そう解釈して、パラっとページをめくった。

 ・
 ・
 ・

「…なんですの、これ…?」
 裏表紙を閉じ、小姫は大きく息を吐いた。
 ストーリーをそれほど重視しない小姫が完全に世界に引き込まれていた。
 登場人物の言葉がただでさえ難解なトリックをぼやかせ、謎をさらに深めさせる。
 どうにかトリックを解いたものの、幾つかズレも生じていた。
「…悔しい、ですわ…!」
 何度も何度も読み返す。一度解いた作品は二度と読まない小姫が、同じ小説を一片のセリフも、文中に隠れるトリックを余すところなく拾うように読みふけっていた。

 5度目の読破を迎えたときには、夜もとっぷりと更けていた。

「…一体、何処の誰がこれを書いたんですの…?」
 そこでようやく、小姫は表紙に書かれた作者名に目をやる。
「七尾…郁人」
 その名を発した小姫の口元が笑った。
「面白い、ですわね…!」
 座っていたソファから立ち上がると、小姫は携帯で執事を呼び出す。
「私(わたくし)ですわ。大至急調べて欲しい事があるんですの」
 大見得を切る歌舞伎役者のように、長く伸びた髪を指で弾いてキメながら、小姫はこう言った。
「…七尾郁人の、居場所」



   白雪姫の事件ノート
   File:1【暗闇の殺意】




  -つづく-



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キャラクターファイル・Part1

雪白小姫/Saki Yukishiro
…各部門で様々な業績を残す大企業、雪白グループの社長令嬢。
 末っ子で甘やかされて育ったためか、少々(?)尊大。
 退屈が嫌いで暇つぶしに様々な趣味に手を出したが、生来の飽きっぽさが原因で殆ど長続きしない。

 唯一の趣味が推理小説の謎解き(だけ)。偶然読んだ推理小説に強く惹き付けられ、その作者―――七尾郁人にも興味を抱く。


※名前のモチーフはタイトルどおり白雪姫。
 実は企画当初の名前が「咲姫(さき)」だったりします。
 これをうっかり忘れてて「小姫」になったんですが、「チビ姫」なんつーアダ名も同時に生まれたので、これはこれで結果オーライw

 ちなみに、彼女含め、主要人物の名前は全て白雪姫絡みだったりします。

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