炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【オリジナル】白雪姫の事件ノート

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「……え? その時間、ですか?」 廊下の掃除をしていたメイド…仙道まゆみ…に、推定死亡時刻前後のアリバイを問う。 「その時間でしたら…ええと…そう、廊下の物置にいました」 「廊下の物置、ですか?」 省吾の問いにうなづき、まゆみが指を指す。犯行が行われ…

File:1/Scene:10

省吾が提供してくれた機密ギリギリの情報を手早く手帳にまとめる。 「死亡推定時刻は大体午後8時前後…。今から1時間半くらい前ってとこだな」 「つまり、パーティーの参加者ほぼ全てに犯行が可能…?」 「ちょっと大げさだが、まぁそんなとこだな」 その中…

file:1/Scene:9

背後からのノックに、小姫は一瞬びくっとなる。 「……俺だ」 それが知った声であることに安堵し、入室の許可を告げる。 「どうだ、彼女の様子は?」 開口一番、友人の安否を聞いてくる。当然といえば当然だが、自分のことは心配してくれないのか。小姫、心の…

File:1/Scene:8

「―――えー、被害者は瀧田順平、78歳。瀧田重工の現会長。死因は細いワイヤー状のようなものを首に締め付けられての窒息死。死亡推定時刻は―――」 メモ帳を片手に、いかにもベテランといった風格の刑事が、淡々と呟いていく。 「先輩!」 床にへばりつく鑑識…

File:01/Scene:7

「…ん?」 「どうかしました?」 「いや……お嬢さんが見当たらないんだが」 あたりを見回す郁人に、小姫が答える。 「順平氏のお部屋へ向かわれましたわ。パーティにどうしても参加して欲しいと」 「そうか」 生返事を放り出し、注がれたグレープフルーツジュ…

File:1/Scene:6

「…おや、どういたしました? 仙道さん」 瀧田邸、2階廊下。 空になった食器を厨房に戻そうとしていた中年執事が、大きな掃除機を抱えたメイドに声をかけた。 先々月に入ったばかりの新人メイド…仙道まゆみ…は、ちょうど順平氏の部屋に入ろうとしているとこ…

File:1/Scene:5

「着きましたわよ」 生まれて初めて乗ったリムジンがゆっくりと停まった。ドレス姿の小姫が流れるような動作で降りていく。それに続いて郁人も降りた。 「…むぅ」 眼前にしっかりとしたつくりの洋館が立ちはだかる。決して大きくはないが、綿密な造りに匠の…

File:1/Scene:4

―――納得いきませんわっ! ―――貴方がどういう経緯で推理小説を書かなくなったかなんて存じませんが、あれだけのものが書ける腕をなまらせておくなんてなんて勿体無いですわ! ―――この私、雪白小姫の名にかけて。かならず貴方に推理小説を書かせてみせますから…

File:1/Scene:3

―――推理小説なんて書いてたのは昔の話さ。 ―――今は、しがないライトノベル作家ってヤツだな。 ―――まぁ、折角来たんだ。こいつをくれてやるから、とっとと帰ンな。 「…む~っ」 不機嫌に口をヘの字に曲げる小姫の手には、郁人から渡された文庫本。彼の代表作…

File:1/Scene:2

―――七尾郁人は焦燥していた。 モニターとにらめっこしていても一向に文章が浮かび上がらない。 どうやら274回目のスランプのようだ。 書くべきシーンはすでに頭に描いている。が、それを活字に変えることが、急に難しくなった。 時間がない。 今書いてい…

File:1/Scene:1

―――雪白小姫は退屈していた。 学校と自宅を往復するだけの平々凡々とした日々。 部活もやっていない。つまらないからだ。 だからって自室にこもっても何かやるわけでもない。 自堕落…とまではいかないが、空虚すぎる時間を、ひとり過ごしていた。 「…退屈」 …

File:0 あるいは 1.5【予告編】

「退屈…」 溜息交じりの声が宙を舞う。 「退屈退屈退屈タイクツたいくつ~っ」 背後で言葉のトゲが跳ね、俺の後頭部に突き刺さる。 「ええいっ、やかましい!」 机をばんっと叩き、振り返る。 狭い部屋には似つかわしくない大きめのソファに、制服姿の少女が…