炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

File:1/Scene:6

「…おや、どういたしました? 仙道さん」
 瀧田邸、2階廊下。
 空になった食器を厨房に戻そうとしていた中年執事が、大きな掃除機を抱えたメイドに声をかけた。

 先々月に入ったばかりの新人メイド…仙道まゆみ…は、ちょうど順平氏の部屋に入ろうとしているところだったようだ。
「あ、三笠執事長。旦那様のお部屋の掃除を頼まれていたのを思い出しまして…」
 三笠と呼ばれた執事長は難しそうな顔をした。
「ああ…だが今は無理でしょう。今、旦那様は映画のDVDを見ていらしてね。熱中なさるタチで、終わるまで何にも反応を示さないほどなんだ。あと1時間くらいは、声をかけても無駄だと思いますよ」
 私も映画の終わる頃を見計らって飲み物を届けろと仰せつかっておりましてね、と三笠が続ける。
「で、でも…とにかく聞くだけ聞いてみます。…あとで怒られるのはいやですから」
 そう言って、まゆみは部屋のドアを開ける。

 半年前に購入したと聞く巨大なホームシアターには、旧きよき時代の名画が5.1chのサラウンドとともに流れている。
「あ…あの、だ、旦那様…?」
 おっかなびっくり声をかける。自分に背中を向け、一人がけのソファに腰掛けた順平氏は、完全に見入っているらしく微動だにすらしない。
「…でしょう? 掃除はご主人様が部屋を出てからにしたほうが良いでしょう」
「…ですね」
 溜息混じりに呟きながら、まゆみは扉を閉じた。
「ところで、掃除以外に特に用事がなければ、食器を下げるのを手伝っていただきたいのですが…」
「あ、わかりました。では、掃除機を片付けてから…」
「いえ、掃除をなさるのならそこに置いておいて構いません。旦那様には私から言っておきますので」
 そう言う三笠にまゆみははい、と頷き、階下へと向かった。


「…」
 ちらり、と三笠が閉じられた扉を一瞥する。僅かに肩をすくめると、再び厨房へと足を向けた。


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用語紹介:チャイナタウンへようこそ!

七尾郁人が連載しているライトノベル作品。
やや小規模なチャイナタウン「新広東街(ネオ・カントンストリート)」の片隅に建つ骨董雑貨店を営む青年店主・龍と、彼を取り巻く一癖も二癖もある住人たちとが織り成すスラップスティックコメディ。

隣の「満漢飯店」の名物看板娘・小花(シャオファ)や常時下ネタ連発の漢方薬店を営む姉貴分・月子、うっかり封印を解いてしまった骨董品から蘇った「窮奇」の化身(と自称する)少女・きゅうをはじめとした個性豊かな面々が繰り広げる騒動をおもしろおかしく描いており、業界でもそれなりの人気を誇っているとかいないとか。
ちなみに作者曰く、人気は「中の上くらい」とのこと。
現在、既刊7巻まで発売中、来月最新8巻が刊行予定。

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さて、こちらもひさびさ。
いよいよ次回で事件勃発予定。…長い(汗


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