炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼×エグゼイド】プレストーリー/SIDE:GARO

 薄暗い建物の中を、二つの影が音もなくすり抜けていく。

 決して広くない室内には、埃にまみれた大きなモニターを抱えた機械が所狭しと並び、妙にカラフルな壁面には、これまた極彩色のポスターが乱雑に貼られていた。

「ゲームセンターか……」
「ずいぶん前に潰れちゃったみたいだけどね……」

 暗がりの中で、男女の声がする。

 男の名は、道外流牙――魔戒騎士。
 女の名は、莉杏――魔戒法師。

 人の世の陰に巣食いし魔獣ホラーを狩る、“守りし者”たちである。
 
「へえ、レバーガチャガチャするだけのゲームばっかりじゃないのね」

 そう呟いた莉杏の視線の先には、モニターの前にバイクの車体を模したオブジェクトであった。これに乗って、バイクの運転を再現するレースゲームだろうか。

「それにしても、こんなところにもホラーがいるのかな……」

 流牙が呟くと、ふと彼の手元から鈴のような音が鳴る。彼の身に着けている指輪がその音を鳴らしたのだ。
 流牙の手が指輪に触れ、装飾を弄ると、果たして中から髑髏のような顔が現れ、口をきいた。

『ホラーってのは人の世に連れるものだからな。文化の数だけ陰我が生まれ、ホラーもまた生まれるって寸法さ』

 そう言うのは、流牙のパートナーたる魔導輪<ザルバ>だ。
 彼(?)に曰く、ゲームをねぐらにするホラーは決して少なくないらしい。

『人間にイカサマめいたゲームをしかけるヤツや、ギャンブル好きなヤツもいたっけな』
「ふうん……でもこれ、ビデオゲームよ? ちょっと違うんじゃない?」

 莉杏の指摘に、ごもっともと笑ってみせるザルバである。

『ゲーム好きかどうかはわからないが……心当たりは……ムッ!?』

 言いかけた言葉を飲み込み、ザルバの眼光が尖った。

『気をつけろ、邪気が部屋全体に満ちてきたぞ……!』

 その言葉が終わる前に、室内のゲーム機筐体の電源が入り、モニターが一斉に光り出した。
 咄嗟に互いの背中をかばうように流牙と莉杏が並び立ち、備える。
 やがて、モニターから半透明のビジョンが浮かび上がり、見る間にそれは実体を伴って流牙たちの前に現れる。

「なにこれ……ゲームキャラ?」
「来るぞ!」

 流牙の凛とした叫びを合図に、邪気を帯びたゲームキャラクターが一斉に飛びかかってくる。
 迎え撃つは、ソウルメタルの刃と、法力に満ちた銃弾。
 マズルフラッシュを反射し、銀線が閃く。一気に掻き消えていくゲームキャラクターたち。

「ザルバ!」
『ああ、こいつらはホラーじゃあない。ホラーの邪気で一時的に実体を持っているだけだ!』
「本体は別にいるってことね……」

 莉杏が魔戒銃から魔戒筆に持ち替え、索敵に徹する。

「流牙、フォローお願い!」
「ああ!」

 莉杏に向けなだれ込むゲームキャラクターたちを、魔戒剣の鞘に仕込んだ手裏剣がかき回す。
 魔法使いじみたキャラクターが放つ火球を往年の野球選手よろしく打ち返すと、やがて莉杏が隅の方にぽつんと佇むゲーム機筐体に銃口を向けた。

「伏せてッ!」

 その言の葉を言い終わらないうちに、銃弾が放たれる。慌てて頭を下げる流牙のうなじをギリギリのところで掠めた一発が、モニターのど真ん中を撃ち貫いた。

「そっちか!」

 起き上がりざまに魔戒剣を振りぬいて影を一掃し、流牙が一足跳びに件のゲーム機に肉薄する。
 砕けたガラス面の内側で火花が散り、それはやがて大きく膨れ上がって流牙の眼前に飛び出した


「うおっと!?」

 咄嗟に魔戒剣ではじくと、それは小柄な獣のような姿をしたホラーであった。

『逃がすな!すぐほかのゲーム機に潜り込むぞ!』
「わかってる!」
 手近なモニターに飛び込もうとするホラーを手裏剣で止め、反転して襲いかかってきたところを斬り飛ばす。

『間違いないな……<グレムリン>だ』
「莉杏、モニターを!」
「オッケー!」

 再装弾を終えた莉杏がトリガーを引き、モニターを片端から砕いていく。

『奴は他の電気製品にも潜り込めるぞ!』

 正体を看破したザルバの助言で、流牙は鞘の手裏剣を天井のエアコンや照明に放つ。薄暗い中唯

一点灯していた非常灯が破壊され、室内に闇の帳が落ちた。
 行き場を失った魔獣が、総毛立った全身をパチパチと光らせながら威嚇する。
 尤も、その程度でひるむような流牙ではない。

「はあっ!」

 裂帛、振り下ろす刃が魔獣の頭を狙う。

「!?」

 しかし、それは強固な圧力と鈍い金属音に阻まれてしまった。跳び退く流牙の眼前で、魔獣が放つ電撃がまるで職種のようにゲーム機の残骸に伸び、刹那、掃除機のコードリールのように巻き戻っていく。
 次の瞬間、魔獣の身体は、電子基板の甲冑を纏い、青みを帯びた火花が牙をむいた。

「……やるなっ」

 臨戦態勢を整えた魔獣に対し、流牙は手にした剣を天に掲げた。
 返した手首の動きが、切っ先で輪を描く。その円環の内側で、ここではない何処かへと、繋がり――

 転瞬、流牙の身体は、金色の輝きに彩られる。
 その輝きは、最強の証――黄金騎士牙狼・翔の光臨である。

 その豪奢さとは裏腹に、あるいは生身の時以上に身軽に宙にその身を躍らせ、陰我を断たんと金明の刃・牙狼剣を振るう。
 その軌跡が魔獣を捉え、2度、3度の衝撃と同時に魔獣の装甲が剥離していく。

「っは!」

 好機を見出した牙狼の、狼の眼が悪しき獣を狙う。必殺の一閃が振るわれ――

「……っ!?」

 それが届いた瞬間、流牙は見た。
 魔獣の口元が、嗤った。

「流牙ッ!」
『邪気が――ッ!?』

 ザルバと莉杏の声が跳ねるのと、魔獣が爆ぜたのは同時であった。カウンターじみた一撃を貰い、一歩後退した牙狼の、その隙をついてグレムリンは装甲を弾き飛ばし、その礫が四方八方に飛び散る。

「拙い!」

 咄嗟に莉杏を庇う流牙を尻目に、身軽になった魔獣が脱兎のごとく駆ける。追いかける莉杏の魔戒銃の弾丸をかいくぐり、小さくなったグレムリンは壁に突っ込む。
 そこにはネットワーク対戦用に設けられた配線が残っており、ケーブルに滑り込んだ魔獣は光もかくやの速度で壁の向こう側へと消えた――。


 ・
 ・
 ・

「……そうか、厄介なことになったね」

 ――事の顛末を聞き及んだ魔戒法師<リュメ>が大きく息を吐いた。

「申し訳ありません、リュメ様……」
「いや、二人が無事で何よりだよ」

 頭を下げる二人に、努めて明るい声で労うリュメ。しかし、魔獣を野放しにした事実は流牙に暗い影を落とす。

『それにしても、あのグレムリンがあそこまでの力をつけていたとはな』

 嘆息するザルバ曰く、件の魔獣は人間が電気機械という文化を得て、そこから生じた陰我より生まれた、比較的新しいホラーなのだという。

『もともとは機械に入り込んで悪戯する程度で、それほど害もなかったはずなんだが……』
「人間の技術は日進月歩だ。それに応じてヤツも力を付けたんだろうね」

 ともかく、奴を追わなければならない。とリュメは二人に向き直った。

グレムリンの逃げた先だが、ある程度絞り込めた」

 そう言って筆を振るうと、地図が浮かび上がる。

「清空シティ――この街を中心に、あるゲームが流行っているらしい」

 リュメに曰く、そのゲームは現実世界に出現した敵キャラクターをプレイヤー自らが戦って倒すという画期的なゲームとのことである。

「だが、そのゲームで倒された人間は……消滅し死んでしまうことが分かった」
「なんだって……!?」

 ただのゲームらしからぬ仕掛けに、流牙も莉杏も目を見開く。

「誰がどういう思惑を以てこのゲームを創り上げたかは解りかねるが、陰我極まることは疑うべくもない。奴が次に狙うとすれば、そのゲームであり……」
「ゲームのプレイヤー、か」

 重々しく呟く流牙に、リュメが首肯した。

「シティ全域がゲームのフィールドになっているからね。今回は助っ人を呼んでおくよ。きっと君たちの力になる」
「助っ人?」

 すぐにわかるよ、と破顔してみせて、リュメが二人へ出立を促した。



   * * *



「……あん?」

 上着の裾を引っ張られて、蛇崩猛竜が振り返ると、その足元に異形の仮面をかぶった童が立っていた。

「おお、御苦労さん」

 指令書を届けに来た童の姿をした遣い……メメの頭を軽く撫でて帰し、魔導火で封筒を炙る。

「っと……遠征たぁ久々……んっ?」

 浮かび上がった文面の中に懐かしい名前を見つけ、知らず口角が上がる。

「へぇ……こりゃ、退屈しなさそうだぜ」



  * * *



「ふむ……」

 時を同じくして、ボルシティ地下の遺跡で同じ内容の依頼書を眺めていた楠神哀空吏は、内容が

霧散するのもそこそこに踵を返し荷造りを始めた。

「ここの留守は……元老院に掛け合ってみるか……」

 ならば早く出立しないと、とひとり呟き、哀空吏はコートを翻し地上へと向かう。
 その胸中に、任務に対する緊張感とは別に、かつての仲間たちとの再会を嬉しく思う心持が芽生えていることに、誰も、そして哀空吏自身も気づいてはいない。



  * * *



 ――さまざまな情報が、0と1の羅列に紛れて濁流の如く行きかう。

 そんなネットワーク網の只中に……ホラー・グレムリンは居た。

 100年余りの時を経て……尤も、ホラーの歴史からしてみれば雲耀にも満たない時ではあるが

……少しずつ力を蓄えた。漸く人を喰えるまでに成長したところで魔戒騎士の妨害を受けるのは、かの魔獣にとっては不運以外の何物でもなかった。

 まだ幾何か、力をつけなければならない。
 だが、もう待つのは飽きた。一刻も早く、人間を喰いたいのだ。
 それも、ゲームに快感を見出す、ゲーマーと呼ばれる類の人間を。

 ……そう考えていた矢先、ネットワークの向こう側に旨そうな匂いを感じた。自分好みの“陰我”の匂いだ。

 先程まで潜伏していたゲームセンターのゲームたちに似た、それでいて尚強い陰我を感じ取り、グレムリンは我知らず舌なめずりをした。

 往こう。あの先に自分の求む陰我が在るのだ。

 膨大なデータの海を泳ぎ切り、グレムリンはやがて、一本のゲームソフトに出会う。
 伸ばした手がそのスイッチを押し――


   -KAMENRIDER CHRONICLE-


 起動を知らせる電子音声が、谺した。






   TUTORIAL STAGE/2:戯/GAME START



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 前回に引き続き、夏コミで寄稿予定の「牙狼×エグゼイド」に向けてのプレストーリー、第2弾。今回は牙狼サイド。

 読んでいただければお分かり頂ける通り、今回の牙狼はいわゆる「流牙狼」。そういえば二次創作で流牙と莉杏まともに書くの初めてかも知んない。

 時系列については、少なくとも牙狼翔となっているため、「GOLDSTORM翔」の劇場版終了後、あるいはTVシリーズ終了後。
 まあどちらにしても違和感ないので特に言及しません(何

 今回は「闇を照らす者」から猛竜と哀空吏も参戦。GS翔本編でかなわなかった三騎士のそろい踏みがやりたかったのもひとつ、エグゼイドと絡ませるにあたって人数をそろえたかったってのもひとつですな。

 さて、本編に手を付けるときが来ましたよっと。
 今年は間に合うといいのですが…はてさて(