炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼×エグゼイド】プレストーリー/SIDE:Ex-aid

『――これが、現時点における<仮面ライダークロニクル>のゲームオーバーとなったプレイヤー数……つまり、死亡者数だ』

 聖都大附属病院地下にある、電脳救命センター……通称“CR”にて、衛生省のトップ、日向恭太郎審議官の通信からもたらされたデータに、ドクターたちは思い思いに視線を走らせた。

「こんなに……っ」

 その事実に絶句するのは、研修医――今は内科研修中だ――の<仮面ライダーエグゼイド>こと、宝生永夢である。

 あの日、<仮面ライダーパラドクス>によって叩きのめされ、悲痛な断末魔と共に消滅した罪なきライドプレイヤー達の姿は、今も彼の瞼に焼き付いている。

『プレイヤー人口の方はどうなってる? 減ってんのか?』

 CR内の別のモニターから通信を送るのは、花屋大我――<仮面ライダースナイプ>だ。無免許医である彼は部外者だが、協力者ということで今回のミーティングにも参加をしている。その傍らでは相棒の天才ゲーマー“N”こと西馬ニコが腕組みしながら資料とにらめっこしていた。

『やや下方気味の横ばい、と言ったところだな』

 衛生省からの発表で、ゲームの危険性……ゲーム病の発症、最終的に消滅=死の可能性を孕むという事実が公表されたことと、エグゼイドたちに救われたプレイヤーたちがSNS等で情報拡散を行ったことで発売日直後からのプレイヤーはゲームを放棄しつつある。
 しかし、その後に幻夢コーポレーションからもたらされた「ゲームがクリアされればゲームオーバーしたプレイヤーが復活する」という触れ込みで、すでにゲームオーバーになったプレイヤーの身内……家族や恋人などが一縷の望みにすがり手を出す構図が生み出されてしまった。

「その情報の真偽も定かではないというのに……」

 命を何だと思っているんだ。と、<仮面ライダーブレイブ>こと天才外科医・鏡飛彩が憤りを言葉に乗せて呟いた。

『いずれにせよ、クリアさえしてしまえば結末はどうあれ一旦の終焉を見る可能性はある。民間人に協力を求めてしまう形になるのは心苦しいが……』

 そう言ってニコの方をちらりとうかがう日向審議官に、その視線に気づいたニコがまかせなさいと言わんばかりにピースサインをして見せた。
 事実、彼女が一番クリアに近いプレイヤーであり、スナイプのサポートがあるとはいえ、すでにバグスターを撃破し、クリアの証たるガシャットロフィーも幾つか取得済みだ。

『……さて、話を本題に移そう。次のデータを見てくれ給え』

 そう審議官が促して、永夢と飛彩は紙ベースの資料をめくり、大我とニコは別モニターに転送されたデータを閲覧する。

「警察の捜査資料?」
「作成者は泊進ノ介巡査部長……泊さん?」

 かつてともに戦った仮面ライダーの先輩の名を見つけ、目を丸くする永夢に『そういえば知り合いと言っていたな』と日向審議官が苦笑し、内容をかみ砕きつつ説明を始めた。

『数日前の夜の事だ。警察に喧嘩の目撃情報の通報があり、警官が現場に駆けつけると、そこに二人のライドプレイヤーがいた』

 警官たちは当然バグスターの存在を警戒するが、しかし周辺には影も形も見当たらない。どうやら戦闘行為を行っているのはライドプレイヤー同士でのことであるらしかった。

「なんでこっちに通報が来なかったんでしょう?」
「CRに通報がくるのは、それがバグスターとの戦闘であると把握してからか、もしくはゲーム病の発症が確認できてからだろう。人間しかいなかったのなら、喧嘩と勘違いしてもおかしくはないな」

 当日に当直として病院内に留まっていた飛彩が、その時間帯に通報が無かったことを、ゲームスコープの通信履歴を以て日向審議官に報告した。

『それで、警官が改めて二人に接触しようとしたところ、一方のライドプレイヤーの攻撃が、もう一方の致命傷となり、ゲームオーバー……ライドプレイヤーが消滅した』

 消滅……即ちプレイヤーの“死”。
 それがバグスターによるものでなく、プレイヤーである人間同士での戦いの結果行われたという事実に、ドクターたちの間に沈黙が降りる。

『PKプレイヤー……か』

 沈黙を破ったのはニコであった。

『PKプレイヤー?』
「PKっていうのはプレイヤーキル……つまり、敵キャラではなく同じゲームをプレイしているプレイヤーキャラクターを意図的に攻撃するプレイのことです」

 聞きなれない言葉をオウム返しに尋ねる日向審議官に、永夢が説明する。

「大規模なオンラインRPGなんかでみられるプレイスタイルのひとつです。もっとも、お世辞にも褒められたプレイではないですけど」

 事実、完全にオミットしているゲームも存在する。一方で、サーバやエリアで隔離することで可能とするなど、一定の需要があるのもまた事実ではあるのだが。

「俺たち仮面ライダー同士でも戦えばライダーゲージが削られる。ライドプレイヤー間でも同じ、ということか。随分とえげつない機能を残しているな、幻夢も……」

 飛彩が憮然と呟いた。

『肝心のライドプレイヤーについてだが、変身を説くことなくその場から逃走。正体は解らずじまいだ』
『うわ、警察無能すぎ……』
『変身するだけで普通の人間より身体能力が上がるんだ、しょうがねえだろ』

 悪態をつくニコを大我がたしなめる。

『幻夢コーポレーションにプレイログの提出を打診したが、社外秘と個人情報保護を盾にされたそうだ』
『……やっぱ無能だな警察』
「大我さんまで……」

 今度は大我が悪態をついた。

『ともかく。相手の素性が解らない今、君たち仮面ライダーも標的にされる可能性が高い。充分注意してくれたまえ』

 君もね。とニコに視線を向け、日向審議官が通信を終了した。



   * * *



「……ふふっ」
「どうした、楽しそうだな?」

 ――幻夢コーポレーション、その地下。
 上級とカテゴライズされるバグスターたちの本拠となっている場所で、モニターを眺めていた幼げを秘めた青年がふと笑みを浮かべた。

 バグスター<パラド>である。

「ああ、面白いプレイヤーをプレイログで見つけたんだ」

 声をかけてきた精悍な顔つきの男、<グラファイト>……彼もまた、バグスターだ……の方へ振り向き、見ていたモニターを指して見せる。或る一人のライドプレイヤーのプレイログだ。

「こいつ……ライドプレイヤーを殺ってるのか?」
「ああ。それも一人や二人じゃない。明るみになれば連続殺人犯とされてもおかしくないくらいには人間を……同胞を殺してる」

 ははっ、とパラドが口角を上げる。

「一方では命を救うために医療なんてものが発達し、もう一方では命を奪うために武器や兵器が発達した……人間の歴史、文化というのはまさに“矛盾パラドクス”だね」
「フン……まったくだな」

 人間という存在に唾棄するかのように、グラファイトが吐き捨てた。


   * * *


「うわああっ!!」

 派手な音を立てて、褐色の甲冑姿の人影が転がる。――ライドプレイヤー……<仮面ライダークロニクル>のプレイヤーキャラクターが“変身”した姿だ。

 その仮面の内側はようとして知れないが、肩で息をしている様は、明らかに疲労を、生命力の低下を物語っていた。

「なっ……なんで……だよっ!?」

 荒くなる呼吸の合間を縫って、ライドプレイヤーが叫ぶ。その問いかけは彼の眼前にいる敵キャラクターバグスター……

 否、同じライドプレイヤーにんげんに投げかけられていた。

「お前っ……何で…プレイヤーに攻撃……殺す気か!?」
「殺す気かも何も……」

 もう一方のライドプレイヤーは呟きながら、手にした可変銃剣<ライドウエポン>のトリガーを引き、無造作に撃ち散らす。 

「そのつもりでやってたんだが、そうは見えなかったのか?」
「うわっ!? ……はああ!? お前、これがどんなゲームか知って……ッ!」

 激昂するプレイヤーの語尾が途切れる。次いで放たれたライドウエポンの銃弾が、その眉間を正確に撃ちぬいたのだ。

「ああ……よぉっく知ってるよ。ライドプレイヤーおれたちはゲームオーバーになったら消滅……死ぬんだったよな?」
「あ……あ……」

 撃たれたライドプレイヤーの身体の輪郭が希薄になる。今のが致命傷となったのであろう彼の命は、まさしく風前の灯となった。

「ふーん……これぐらいで死ぬのか。漸く感覚つかめたかな。体力ゲージとか見えないんだもんなぁ……」

 面倒だな。と無感動に呟くプレイヤーの眼前で、撃たれたプレイヤーはその甲冑を失い、さらにその生身をも消えようとしていた。

「こっこの……人殺……しぃ……」

 死の恐怖に声を震わせながら涙目で睨み付ける男に、しかしプレイヤーは意にも介さず手の中のウエポンを弄ぶ。

「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ。幻夢の社長が言ってたじゃん。このゲームを……<仮面ライダークロニクル>をクリアすれば、ゲームオーバーしたプレイヤーは全員生き返る、ってさ」

 ――だからそれまで、お休みしてなって♪

 歌うようにそう言った声と、ゲームオーバーを示す電子音声と、悲痛な断末魔が重なった。

 宙に散らばった微細なデータ片を一瞥し、ライドプレイヤーが変身を解く。

「……気が向いたら、クリアしといてやるから」

 そう不敵に嗤う青年の眼が怪しく光る。
 それはあたかも、人ならぬトカゲの様な……

 否――


 ・
 ・
 ・


「……うん?」

 ふと、グラファイトがプレイヤーデータの或る項目に視線を止めた。

「気が付いたか? そう、こいつが感染しているのは……」


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 ・
 ・


「……そういえば」

 大我たちも通信を切り、静かになったCRで、永夢がふとつぶやく。

「思い出したんですけど、<仮面ライダークロニクル>の基になっている10のゲームで、一つだけPKが可能なゲームがあるんです」
「なんだと?」

 どのゲームだ。と問い詰める飛彩に、永夢は小さく息を吐き出してから、そのタイトルを告げる。


  ――<ドラゴナイトハンターZ>です。



 永夢の口から告げられたその名に、飛彩は、白衣のポケットに忍ばせていた黄金色のライダーガシャットを取り出す。

 それは奇しくも、恋人であった小姫の身体と生命を奪い現実世界に現れた宿敵……グラファイトバグスターを司る、因縁極まるゲームタイトル。


 ・
 ・
 ・


「さぁ……それじゃあ“狩りゲーム”を再開しようか」

 青年の、竜の如き禍々しい眼光が、爛々と煌めき……雑踏に紛れた。



   TUTORIAL STAGE/1:狂眼のPlayerkiller!






   -See you Next game-


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 今年も今年とて、マイミクにして我が敬愛すべき義兄弟(無論兄貴分)の小笠原氏よりの依頼にて、夏コミ用の特撮二次創作でござい。

 今回は本編の前に、そこに至るまでのプレストーリーを先行公開というスタイルを取ろうかと。
 ……うん、自分へのケツ叩きも兼ねてね。ここに出しちゃった以上もう落とせねえぞとw

 さて、すでに最新話(32話)現在ではゲームオーバーしたプレイヤーについてにはある程度答えは出ているのですが、本作については、27~28話の間あたりを想定しているので、まだそのあたりについては未知数と言うことにしています。ポッピーピポパポが不在なのもそのため。

 もっとも、作中でニコがすでに幾つかトロフィー獲得済みと言っていますが、27話の時点だと1個だけなんだよなぁ……。
 まあ、一種のパラレルとでも思ってください。牙狼もからむし(何

 次は牙狼サイドのプレストーリーを。今回は比較的クロスしやすい(?)「GOLDSTORM翔」及び「闇を照らす者」からの参戦となります。

 流牙たちの戦いにもお楽しみあれ!