シーン5:斬/Swashbuckler
炎刃騎士ゼン……その鎧を猛竜が纏うと同時に、ホラーがその本性を顕わにする。爽やかな紳士のようなシルエットを維持したまま、全体が醜悪な肉体へと変貌していくのだ。
「ルメーズ、つったっけか……」
指令書に記されていた魔獣の銘を呟く。そのホラー・ルメーズが不意に両腕を広げて、ゼンに肉薄した。
「オラァッ!」
義手の鎖がゼンの意思に応じて伸びる。ルメーズに向かい飛び掛る爪を、魔獣が振り払うが、まるで命を吹き込まれたかのように自在にルメーズの妨害をかいくぐった爪が、深々とその体躯に突き刺さっていく。
「捉えたぜ……。とりあえずテメエの陰我、この俺に断ち斬られとけッ!」
猛竜が、拘束したルメーズに突撃する。しかし、余裕の表情を見せるルメーズは、突然その手から剣を飛び出させた。
「そいつァ……!?」
驚愕に目を見開く猛竜の眼前で、その剣により義手の鎖が斬り離される。総ソウルメタル製の鎖をいともたやすく斬れるものは、同じソウルメタルの武器に他ならない。
「魔戒剣を、ホラーが使うってのかよ……」
「ケイリメカノオバ・ネヅムガセゲバリニザアリゲチョル?」
真に“良い物”は使ってこそその真価を知らしめる。と、ルメーズは魔戒語で語る。
「るせェ、人語で喋りやがれ!」
猛竜が吼えながら鎖を振り回す。先端の爪こそ失ったが、それ自体はルメーズの体内に未だ残っている。与えたダメージはゼロではない筈だが、ルメーズは平然としている。
「ヌガゲツン」
無数の銀線が閃き、次の瞬間には全ての鎖がバラバラにされていた。猛竜は己が目を疑う。ルメーズの全身から、ハリネズミの如く、魔戒剣を初めとした武器が生えていた。
「何ィッ!?」
「リサザゲツ……ルクスチリゲチョル?」
魔戒語を不得手とする猛竜だったが、その慇懃な態度からなんとなくニュアンスが読み取れた。人の姿をしていれば、いわゆるドヤ顔を見せていたところだろう。攻撃に備え、使い物にならなくなった義手を、新たな物に付け替える。
「トメゲバ・クジバラアカオノオヨリカガシナチョル!」
ルメーズが飛び掛る。刃の塊と化した全身がゼンを襲い、斬撃の暴風が吹き荒れた。
「んなクソ……ッ!」
魔戒剣で応戦する猛竜だが、手数的に多勢に無勢。攻撃をいなすので精一杯だ。
間合いを取るのが最優先とみた猛竜が、義手の人差し指をホラーの眼前に向けた。
「欲しいもんは、コレか!?」
マズルフラッシュがルメーズの視界を灼き、ソウルメタルの銃弾が魔獣の顔面を強かに打つ。緩んだ攻撃の隙間を縫って、猛竜が再び間合いを取り直した。
「魔戒銃か……なかなかいいな」
オプションで狙撃機能とかつかねえかな?
などと呟きながら、猛竜は再び魔戒義手銃のトリガーを引き絞った。
-つづく-
思いついた小ネタを使おうとすると話が進まなくなるという事案発生。
人それを、自業自得と言う!
(まぁ大半が中の人ネタなのでカットしても無問題なんですけどねー。やりたいから書いてるともいえるのだ)
さてさて。
今回、自作の牙狼SSとしては初めて魔戒語を実装。ホラーの怪異性などが表現できていれば御の字。
訳については、pixiv版掲載時にでもまとめておきます←
なお、今回のオリジナルホラー・ルメーズの元ネタは、泥棒(やってることは強盗ですが)の神様というある意味不憫なギリシア神・ヘルメースより。
そこのあなた、残念ながらメズールではありません(ぇ
続いて、魔戒特殊義手シリーズ紹介。
○鎖爪振子(サソウシンシ)
→指先にマイクロチェーンと、さらにその先端に鋭利な爪が備わった特殊義手。
○魔弾指銃(マダンシガン)
→魔戒銃の機構を組み込んだ特殊義手。装弾数は「闇を照らす者」で莉杏が使用したものより多く、8発だが、一度弾を撃ち尽くすと分解しないと再装填ができないという欠点を持つ。
バトルはまだ続きますよー。