シーン4:対/Encounter
“好事家を気取る魔獣、騎士の命を狩り獲る。欲に塗れた陰我を絶ち、魂を取り戻せ”
指令書には、そう記されていた。
「騎士の“命”ねぇ……?」
最近騎士が命を落としたという話は聞かない。僚友に曰く、騎士が武器を奪われた事案が他所の管轄でいくつかあったらしい。つまりは象徴的な意味合いでの“命”というわけだ。
「相変わらずまだるっこしィ言い回しが好きなこったな、元老院ってのはよぉ」
「ってか、魔戒騎士の武器だってンなら、例外なくソウルメタルで出来てるだろうに、よく奪えるもんだぜ」
直近の現場になったとされる場所に向かいながら、猛竜が呟く。こういう時、魔導具の一つでも所持していれば魔獣に関する知識なども即座に仕入れられただろうが、喋るアクセサリーなど面倒なだけだと言う彼にはそういったパートナーはいないのだ。
「さて、と」
ズダ袋から別の義手を取り出し、装着する。全ての指先にはチェーンが付いており、さらにその先端には、ホラーの肉片をソウルメタルで固めて作った小さな爪が備わっていた。
「これの精度はいかほどかねぇ?」
鎖の先端に意識を集中する。ホラーの肉片が、同族の気配を察知し、ゆるゆると動き出した。
「……こっち、か」
爪が指し示す方向に視線を向け、猛竜が歩を進める。ホラー専用のダウジング・ハンドは小刻みにその先端を揺らしながら道案内を続けた。
「便利って言やぁ、便利だがなぁ……」
自らの腕に着けたモノと、そしてズダ袋の中の義手に思いを馳せる。その大半がかなりぶっ飛んだ代物ではあったが、義手そのものとしての能力は高い。もとより義肢職人自体が少数であるとはいえ、彼女の造る物が引く手あまたなのも納得できる。
しかし、どうにもしっくりこない。
決して相性が悪いわけでもないし、手が開いて剣を握れるのは、利き腕を失った身としては得がたい恩恵ではある。
だが猛流は、どうにもあの無骨な義手に、随分過ぎるほどの愛着を持ってしまっていたようだった。
「……む?」
「おや、このようなところにお客人とは珍しい?」
「そのセリフ、そのまま返してやるよ。こんなところで優雅にお茶会でもねえだろ?」
街外れ、最近廃線となった私鉄の駅のホームで、二人の男が対峙する。
「フフ、それは確かに。……ところで」
「?」
「なかなか“良い物”をお持ちのようだ……。どれ、すこし私に……見せていただけませんかね……?」
言い終わるや否や、刹那の間に紳士がゼロ距離に立つ。気圧された猛竜の右腕を取り、着けられた義手を指でなぞった。
「うん。いい仕事をしている……欲しいねぇ」
纏わりつくような視線を見せる目が、人とは違う妖しげな光を帯びる。
「っだらあ!」
猛竜が左手で魔戒剣を振るい、それを振り払って間合いを取り直した。
「悪ィがくれてやるわけにはいかねえな。借りモンだしよ。まぁどうしてもって言うんなら……」
――買取なら応じてやらァ。テメェの命で支払いだがなッ!
柳葉の刃が環を描く。転瞬、緋色に彩られた鎧が彼の全身を包み、咆哮をあげた。
-つづく-
どっちにしろ借り物なんだから応じるなよ。というセルフツッコミ(ぇ
さて、ようやく牙狼SSとしての本懐ともいえる戦闘シーンに突入します。
もーちょいトンデモ義手に振り回される猛竜を書いていたかった気もしますけどね(ひでえ
とりあえず今までに装備した魔戒義手についてちょっと補足。
○拳礫射出(ケンレキシャシュツ)
→内部に魔導火を利用した小型の推進器が内蔵されており、いわゆる「ロケットパンチ」を放つことが出来る特殊魔戒義手。
実際には拳を飛ばす際のロック解除ができず、猛竜の身体ごと燃料切れまで飛んでいった。
○削岩転穴(サクガンテンケツ)
→通常の義手からドリル状に変形する特殊魔戒義手。皮膚・装甲の硬いホラーに対抗手段として考案され、製作者曰く「そこらの岩盤なら触れただけで木っ端微塵」とのことだったが、実際に使用した際には岩盤に食い込み、しかし空転機能を付与していなかったため猛流の身体が高速回転する羽目になった。
○魔導指火(マドウシビ)
→魔導火を使用するライターの機能を組み込んだ特殊魔戒義手。いわゆる「指パッチン」のアクションで人差し指から火が出てくる仕組みになっている。
作中においては数少ない、成功作といえる。
今回登場したダウジング義手「鎖爪振子(サソウシンシ)」については、まだ全機能明かしてないので次回で補足。
次回も、トンデモ義手の応酬が見れる……か?(ぇ