「あ……」
眼前で、タチバナの身体が音もなく崩れ落ちる。抱きとめる流星の視線の向こうには、ブラスターを構えた男の姿。
「ミスタ・アカツキ、貴方……っ」
呆然とインガが男の名を呼ぶ。今回の事件において流星たちをサポートしていたその男は、財団Xの構成員たちが纏うものと同じ白い衣を身に着けていた。
「概ねの予測通りではあったが……やはり君が勝ったか、リュウセイ君」
無造作に伸びていた髪は綺麗に整えられ、凛としたたたずまいのアカツキはにこやかな表情を崩さぬまま、冷え切った声で語りかける。
「しかし破壊はせず、しかも和解をするとはね……反ゾディアーツ同盟の元エージェントは冷徹だと聞いていたが……仮面ライダーフォーゼ、いやゲンタロウ・キサラギの影響かな?」
流星の腕の中で苦悶の声を漏らすタチバナを、そしてリュウセイを一瞥するタチバナ。二人を守るようにインガが立ちはだかり、疑念と怒りの視線を向ける。
「どうして……貴方が?」
「財団Xアリシア連邦支部長……それが私の本当の肩書さ。不思議に思わなかったのかい、インガ? 宇宙鉄人にXVII……君の父上があれだけの芸術品を造り上げるのに、一個人の財力で賄えるものではあるまい?」
口を噤むインガを尻目に、アカツキが「さて……」と倒れ伏したままのタチバナを見やった。
「ご苦労だったCD-S1。お前がリュウセイ君……仮面ライダーメテオとの戦闘を極限まで進めてくれたおかげで、ネガ・コズミックエナジーの運用データをこれ以上ないほど採ることができたよ」
「タチバナを……こいつを造ったのはあんただったのか、ミスタ・アカツキ?」
睨み付ける流星の問いかけに、アカツキは無感動に「そうとも」と首肯する。
「私がブリンク博士と協力体制をったのは、スポンサーとしてだけでなく、宇宙鉄人のノウ・ハウも得るためだ」
「データを全て抹消しただなんて、嘘だったのね」
「嘘ではないさ。彼が遺した、宇宙鉄人に関するデータはすべてこの世から消滅している。だが……人の頭の中までは、どうかな?」
人差し指で自分の頭を指し示し、「人より少しばかり物覚えが良くてね」とアカツキが嘯く。
「もっとも、ブリンク博士と同じ轍を踏むわけにはいかない。だからCD-S1には単独での身体能力を普通の人間と同レベルに落とし、戦闘能力はこちらで操作できるようにメテオシステムを採用したというわけだよ」
『! M-BUSをハッキングしたのも……っ』
そうとも、私だ。と小ばかにしたような口調で、絶句した健吾にアカツキが応える。。
「宇宙鉄人とメテオの力で何をたくらむ……メテオを量産して兵器に転用でもしようっていうのか?」
財団X――世界的にも有名な科学研究財団ではあるが、その実態は「死の商人」といえる 地球の記憶を秘めし小匣や死を超越せし者たちなどへの資金提供を行う一方、その技術を自らも取り入れ、最強の兵士を手に入れようとしているのだ。
「仮面ライダーの兵団か……悪くない響きだが」
興味はない、というようなニュアンスでアカツキが呟く。
「そこで転がってるCD-S1も、奪い取ったメテオシステムも、全ては一つの目的のための捨て石に過ぎない」
「何……っ?」
おもむろに懐から何かを取りだすアカツキ。そのシルエットに、モニターから様子をうかがっていた健吾が気付き、声を上げた。
『ホロスコープススイッチだと!?』
アカツキがブラスターを放り捨て、その手に握ったホロスコープススイッチをかざす。
「通常よりも高出力のネガ・コズミックエナジー……宇宙鉄人とゾディアーツのノウ・ハウ……そのすべてを集約した先がこの手の中にある」
その果ては――
「この地球上……否、宇宙で最も強い力。この力を以てして私は……すべての頂点に立つ者となる」
アカツキの右手。スイッチを握ったその親指が、ボタンに触れる、その刹那。一発の銃声が響いた。
「ぐっ!」
インガの放った銃弾がホロスコープススイッチを弾き飛ばし、アカツキがたじろいだ隙を狙い羽交い絞めにする。
「ミスタ・アカツキ! 超エネルギー悪用の容疑で、貴方を拘束します!」
多少の体格差こそあれど、インガの身体能力は高い。並みの男性であれば無力化は容易であった。
「……邪魔をしないでもらおうか、インガぁっ!」
しかしアカツキが力任せにそれを振りほどき、インガを投げ飛ばしてしまう。
「あうっ!」
「インガ!」
女性とはいえ人の身体を軽々と投げ飛ばし、息の一つも乱していないアカツキに、流星は違和感を覚える。
「……健吾」
『ああ、こちらでも観測した。あの男……自分の身体に宇宙鉄人の技術を組み込んでいる』
サイボーグとなった男は「最強の力を得るために、人間の身体は脆弱に過ぎるのでね」と事もなげに言う。
「さぁ、答え合わせはここまででいいかな?」
アカツキがそう言うと、ホロスコープススイッチがひとりでに彼の手の中に戻る。淀みなく親指がそのスイッチに触れ――押し込まれた。
昏い閃光と、星の煌めきが混ざり合い、星々の軌跡が、やがてゾディアーツの四肢となっていく。
『この星の並びは……!』
流星、インガ、そしてタチバナの目の前で、アカツキであった男はその異形の姿をあらわにした。
『……蛇遣い座』
健吾が、その星の運命-さだめ-を見極め、名を呟いた。
-つづく-
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一年半以上振りに再開しました(ぇ
先日まで夏コミの原稿やってて、モノカキ熱が再燃したってのもありますかね。
同時に新作案もアホみたいに湧いてきてるんですが、とりあえず放置中の作品を消化しようかなと思い立ち。
こっちはクライマックス近いので。
さて、今回。
バレバレの黒幕が変身するのはアスクレピオス・ゾディアーツ。
一昔前は13星座も話題になりましたが、いまやシルバーになってますね(何の話だ
その能力、そして超・新・星については次回以降で。
そしてそろそろメテオの本作オリジナル形態も登場予定……!
はよ出したい……!