「大丈夫だったかね? リュウセイ君、それに……インガ」
黒塗りのバンからとある邸宅に移された流星とインガは、案内された客間で、彼らを救ったバンの運転手の顔をようやくまともに見ることができた。
「あなたは……ミスタ・アカツキ?」
インガにとっては、見覚えと聞き覚えのある顔と声に、彼女が尋ねると、アカツキと呼ばれた男は「そうとも」と首肯した。
「誰だい?」
「かつて、父の研究に資金援助をしてくれていた人よ。彼自身もコズミックエナジーの研究者で、宇宙鉄人開発の関係者なの」
「もっとも、今はドクター・ブリンクの遺志の元、全ての宇宙鉄人に関するデータは破棄しているけどね。今の私はしがない、いち資産家に過ぎないよ」
宇宙鉄人に関する全てのデータの抹消には、インガも関わったらしい。その後しばらくはインガ自身がインターポールの捜査官として世界を回っていたため、久しぶりの再会と相成ったわけだ。
「だが……宇宙鉄人の全てが消えてなくなったわけじゃなかったみたいでね」
「どういうことですか、アカツキさん?」
インガに手当てを受けながら問いかける流星に、アカツキは数枚の写真をテーブルに広げた。そこには、数体のゾディアーツを従えるかのようにたたずむ、黒いメテオの姿が写っている。続いて見せた写真は、メテオ・Яに変身した仮面の男のものだ。
「……宇宙鉄人、だよ」
その単語に、流星もインガも言葉を失う。黒いメテオ……メテオ・Яに変身した、タチバナと同じ仮面を被った男が、宇宙鉄人なのだという。
「キョーダインの2体や、ブラックナイトのような単独での戦闘能力は持ちえていないようだ。だからこそ、メテオシステムを流用しているのだろうがね」
「そうだ、メテオ……なぜ、奴はメテオドライバーを? それに……」
『それは俺が説明しよう』
二人の会話に、スピーカー越しの音声が割って入る。流星の持つメテオスイッチの通信機能を介し、健吾が声をかけた。
『さっき確認したが、M-BUSのデータベースが、何者かにハッキングを受けた形跡があった』
「なんだって?」
『もっと言えば、メインシステムにもアクセスされた形跡を見つけた。まぁ、メテオシステムの根幹をなす部分だ。セキュリティは万全で、そっちには侵入されることなく終わっているがな』
メテオシステムそのものや、M-BUSの理論、そして新スイッチのデータも奪われていた。と健吾が伝える。
『それともうひとつ……<ネガ・コズミックエナジー>についての研究データもだ』
「ネガ・コズミックエナジー?」
聞きなれない単語を、インガが鸚鵡返しに問う。
「その名の通り、性質を“反転させた”コズミックエナジーだよ」
『元は、江本さんがダークネビュラの研究をしていた中で偶然発見したものらしい』
アカツキが解説し、健吾がそれに続く。
『ネガ・コズミックエナジーは、強力な出力を生み出す反面、システムを介する事無く無尽蔵にゾディアーツスイッチやダスタードをマテリアライズする欠点があった。だから江本さんも、これに関する研究は封印して、我望理事長にも隠していたんだ』
「なるほど、この町にやたらゾディアーツやダスタードが現れていたのはそれが原因か……」
「そして、そのネガ・コズミックエナジーを利用しているのが、あの黒いメテオだ」
「勿論、あの宇宙鉄人の動力にも、ネガ・コズミックエナジーが使用されている」
宇宙鉄人。そして黒いメテオシステムを造り上げたものが、今回の事件の首謀者だろうね。とアカツキが締めくくった。
「私も協力するよ。今はまず、君たちは身体を休めることを優先し給え。」
コーヒーを淹れてこよう、と言ってアカツキが客間を後にした。
『……朔田』
「うん?」
メテオスイッチ越しの健吾の声が小さくなる。と言うよりは、意図的に声のトーンを落としたようだ。
スイッチを耳元に近づけ、流星は健吾の次の言葉を待った。
『君の戦闘データを確認した。恐らくこの一件……<財団X>が関わっている』
「……ああ、それについては俺もうすうす感づいてはいた」
――財団X。
世界中にその支部を置く科学研究財団。しかしそれは表向きの姿。
その裏では、強力な兵士を造りだすべく、様々な組織や個人に援助を施し、自らの力としていく、言うなれば“死の商人”である。
インターポールで超エネルギーに関する事件を主に追う流星にとっても、財団Xは捜査対象のひとつであり、過去にも何度かニアミスしていた。
「あの宇宙鉄人が着ていた服……財団Xの制服に似ていた」
『それに、いくら設計図が揃っていたところで、ある程度以上の設備がなければメテオシステムは造れないはずだ』
「それは、確かにそうよね」
健吾の指摘に、流星とインガが揃って頷いた。
「あら……?」
と、インガが背後に違和感を覚え振り返る。
「どうした?」
「急に外が暗くなって……天気悪くなってきたのかしら?」
流星もそれに倣い振り返る。背中を向けていた窓の外が急激に暗くなっていた。まだ日の入りにも早い時間のはずだ。
「……! 流星、伏せて!」
異変を察知したインガが流星を庇うように飛びつき、転瞬、闇を映したガラス窓が爆ぜた。
「くっ……」
尖ったガラスの破片が二人の身体を傷つける。飛び散ったガラスに次いで飛び込んできたのは、漆黒の体躯であった。
黒いメテオ……否、メテオシェイドがガラスを蹴散らしながら、インガに当身を喰らわせ、気絶した彼女の身体を抱える。
「貴様……インガを離せ!」
飛び起きた流星が突きを繰り出すが、未だダメージの抜け切らない身体の一撃は、容易く躱されてしまう。
「取り返したければ……追って来い」
そして、その時がキミの運命の終焉だ。
そう呟いて、メテオシェイドはバイクに飛び乗り走り去る。
「どうした? 何があった!?」
客室の異変に気づいたアカツキが飛び込む。彼の視界に移ったのは、破壊された壁と窓と、満身創痍の流星の姿だった。
「インガが連れ去られた……! 追います!」
「待ち給え! さっき叩きのめされたばかりだろう……勝算はあるのかね?」
アカツキの言葉に、飛び出しかけた流星が足を止める。
「……あるとは言いませんよ。でも……」
「でも?」
「たとえ勝算がなくとも、インガは取り返す」
“友達”を助けるのに、理由が要りますか?
そう言う流星が、力強く笑ってみせた。
「それじゃ!」
その視線に気付く事無く、マシンのエンジンをフル稼働させた流星が、爆音と共にアカツキ邸を後にした。
-つづく-
はいネタ晴らしー(ぇ
いつもいつもありがとうございますホント(拝
宇宙鉄人であるはずの仮面の男(名前は未だない)がなぜキョーダインのような武装ではなく、メテオ・Яに変身しなければならないのか、そのあたりに関しては次回以降で明らかにさせる予定。
そしてその次回の執筆時期が未定w
(現在この作品を含めた5作品で執筆ローテを組んでいて、ここで一旦「メテオ」がストップなため)
とりあえず、しばしお待ちくださいなってことでひとつ。
まぁ書いてる本人が、たぶん一番続きが気になってるので、早めに復帰するかもしれませんがw