炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【フォーゼSS】仮面ライダーメテオ/シーン10【スピンオフ】

 異形へと変貌したアカツキ……アスクレピオス・ゾディアーツが、大きく深呼吸し、両腕の感触を確かめるようにかるく振り下ろす。
 それだけで漂うネガ・コズミックエナジーが渦巻き、マスクの割れた流星の素肌にピリピリと厭な感触を与えた。

「ふぅむ……シミュレーション上では問題はなかったが……やはり実際になってみるのとは違うものだね」

 悪くない気分だ、とアスクレピオスが嗤う。

「では、この新たな身体の慣らしといこう。実験台は――」

 蛇遣いの人差し指が、指し示した先を睨み付ける。

「お前だ、CD-S1」
「!」

 倒れ伏したCD-S1……タチバナを抱く流星の腕がこわばった。

「私の芸術作品の目録に、出来損ないミスクリエーションは不要なのでね……」

 そう言って歩み寄るアスクレピオスの前に、しかし立ちはだかったのはインガであった。

「邪魔をするのか、インガ。そいつは君にとっても倒すべき対象ではなかったかな?」
「……ええ、そう“だった”。でも今は、大事な重要参考人で……流星の友達よ。破壊されるわけにはいかないわ」
「友達、か……それもゲンタロウ・キサラギの影響かな? リュウセイ君」

 乾いた笑いで問いかけるアスクレピオスに、流星は「違う!」と叫んだ。

「俺がこいつと友達になったのは、俺自身の意志だ! そして、その友達を傷つけようというのなら……」

 インガにタチバナを託し、流星がメテオストームスイッチを掲げる。

「俺はお前を、絶対に許さない!!」


  -METEOR_STORM!/METEOR ON READY?-


 メテオストームに転じ、割れた仮面から覗く怒りの眼差しは再び仮面に覆われる。瞬時にアスクレピオスに肉薄し、振り上げたメテオストームシャフトの一撃がアスクレピオスの胴を打つが――

「はっ!」
「何!?」

 しかし、手に与えられるはずの衝撃は届かず、棍の先端は空を切る。

「流星、後ろ!」

 インガの声と、背後に気配を感じたのはほぼ同時であった。振り向きざまに今一度シャフトを、今度は突きで見舞うが、目の前でアスクレピオスの姿が掻き消え、ただ空を突いた音だけが流星の耳朶に届いた。

『これは……ワープドライブだと?』

 ホロスコープスが一人、乙女座ヴァルゴの特殊能力と同質のものであると気づき、健吾が絶句する。

「驚くことでもあるまい……? 最強のゾディアーツが、全てのゾディアーツの力を使いこなせないと、どうして言い切れる?」

 そう言って、アスクレピオスがスイッチをもう一度押す。と、星の軌跡が形を変え、最輝星のきらめきとともに、蛇遣いは羽を纏った華奢な女性像のような異形へと姿を変えた。

「ヴァルゴに変わった……?」
「無論、ヴァルゴだけではないよ」

 親指が再びスイッチを押しこむ。噴き上がったネガ・コズミックエナジーの靄を切り裂き、鋭い牙をたたえた猛獣の如き異形が飛び出す。巨大な爪の斬撃がメテオストームを斬り裂き、弾き飛ばした。

「ぐあっ……獅子座レオまで……!?」

 かつての強敵を前に、シャフトを振りかざして反撃するが、次いで転じた魚座-ピスケス-のシルエットが泳ぐように回避した。
 スイッチが押し込まれる、カチリと言う音が鳴るたびに、蠍座スコーピオ天秤座リブラ山羊座カプリコーン牡牛座タウラス……と次々と姿を切り替え、思い思いの攻撃を繰り出していく。
 そのたびに戦闘スタイルまでガラリと変わり、対峙するメテオストームは受け止めるだけで精一杯だ。

「厄介な……っ」
「これぐらいで苦戦されても困るねえ。こちらとしては慣らし運転なのだからしっかり身体を動かしたいのだよ」
「勝手なことを!」

 カウンターじみた寸勁が激昂とともに轟くが、即座に水瓶座アクエリアスにチェンジしたアカツキがそのアビリティで傷ついた肉体を回復させた。

「ふむ……知識としては把握していたがアクエリアスの回復能力は驚愕に値するね。やはり実際に試してみないとわからないこともある。研究者冥利に尽きるよ」

 もうひとつ、実験に付き合ってくれたまえ。とにこやかな雰囲気を崩すことなくアカツキが再びスイッチを押す。双子座ジェミニに転じたと同時に最輝星が煌めきを増し、その傍らにもう一体のジェミニが出現した。

ジェミニ・ノヴァ……超新星まで!?」
十二使徒程度の超新星の再現など、造作もない事さ。勿論、それを越えることもね」

 事もなげに嘯く。分身したジェミニはさらに分身を繰り返し、流星の周りを13体のジェミニが取り囲んだ。
 そして、オリジナルを除いた12体がおもむろにスイッチを握り……押し込む。

「ふむ……成功かな?」

 13人のアカツキが“同口同音”に呟く。次の瞬間、流星の視界がとらえたのは13体のゾディアーツに変貌したアカツキ“たち”であった。

「なんてこと……っ」

 眼前で繰り広げられる事態に愕然とするインガ。と、その腕の中で微動だにしていなかったタチバナが小さく身じろぎをした。

「貴方……?」
リュウセイを……助けたい……力を、貸してくれないか? インガ・ブリンク……っ」

 無機質なカメラアイの奥に確固たる意志を、想いを見たインガが、小さくうなづいた。



   -つづく-


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 想定しているシーン数より少し伸びてる気がしますが、特に気にしない(

 13星座占いなどが語られなくなって久しいですが、12星座モチーフのあれこれでへびつかい座が出てくるとイレギュラーな強キャラになるイメージがあります。
 その最たるが「バトルスピリッツブレイブ」の蛇皇神帝アスクレピオーズかなと。

 そんなわけでウチのアスクレピオスも安直な強キャラになってます。
 12星座の力を有したうえでさらにその上を行く的な。
 なお、アカツキ本人に理事長や立神のような特殊体質はないです。まあ一つのスイッチで変身可能なのでそもそもその体質も不要なのですが。

 なお、まだ現時点でアスクレピオス本人の超新星はお披露目してません。次回お披露目予定ですが……はてさて。