炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【フォーゼSS】仮面ライダーメテオ/シーン2【スピンオフ】

 果たしてアリシア連邦の空港に降り立つ流星の姿があった。

 空気の匂いも、肌をなでる少し冷たい風も、生まれ育った日本とも、ようやく慣れてきたフランスのそれとも違う。異国に来たことを改めて実感する流星である。

「さて……インターポールからの助っ人が迎えに来てくれる、と聞いてはいるんだが……」

 ひとりごちる流星。ツーマンセルでの任務は珍しくは無いが、基本的には地元に明るい現地出身者の捜査官を相棒にすることが多いのだ。

「そういうスタイルも悪くは無いんだが……そろそろちゃんとした相棒が欲しい所だな」

 例えば、自分と同じくらいの強さの持ち主で、自分の秘密を既に知っているような人間であれば尚善しだ。
 それだけに弦太朗をスカウトし損ねたのは、少々……いや、かなり残念だ。と流星は思う。

 それはさておき、と周囲を見渡すが、それらしき人物は見当たらない。同じ飛行機に乗ってきたほかの乗客が、歓迎を示すパネルや紙を掲げた人を見つけ、合流していき、気がつけば流星の周りには誰もいない。

「……時間、間違えたかな?」

 アリシア連邦の標準時にあわせたばかりの腕時計に視線をやる。と、首筋にちりちりとした厭な感覚がよぎった。

(……殺気!?)

 全身が総毛立つのと、初撃が飛んできたのはほぼ同時だった。それを躱し、流星の視界が襲撃者をの姿を捉える。

 グレーのパーカー、そのフードを深々とかぶり、その表情は知れない。だが、しなやかな肢体と、フードから除く長い髪は、襲撃者を女性であると示していた。

「……ッ!」

 再び襲撃者が肉薄する。近づく拳を、流星はパリィで逸らし、返す刃とばかりに自らも突きで反撃する。しかし、その拳は、先ほど自分がされたのと同じ流れで逸らされた。

(こいつ……)

 できる。と、同時に奇妙な懐かしさを憶え、知らず流星の口元が綻んだ。よく見ると、襲撃者の表情もどこか柔らかい。

「は!」

 突きと蹴りの応酬を互いに繰り出し、その全てを互いに捌く。最後に拳同士がぶつかり合い、その反動で二人の間合いが放れた。

「問う!」

 凛、とした襲撃者の声が流星の耳朶を打つ。

「数多の星に心あるや?」

 その声と、その問いかけに流星はいよいよ核心に至り、応える。

「応! 其、大いなる輪の如し」
「その心……ただ、拳で知る」

 流星の声にそう返し、襲撃者が鋭い突きを見舞う。

「ホワチャァ!」

 その攻撃を逸らしつつ、反撃の拳がフードを脱がせ、その素顔を露にさせる。

「フフ、腕を上げたみたいね、流星?」
「……お互いにな」

 構えを解き、<インガ・ブリンク>が微笑む。差し出した手を流星が握り、弦太朗譲りの“友情のシルシ”を交わし、再開の挨拶とする。

 いつの間にか集まっていたギャラリーに軽く手を挙げて応え、「行きましょ?」と流星を連れ出した。

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 現場へは、インガの運転する車で向かう。手渡された資料を眺めながら、ちらりと横目でインガの顔を見ながら、流星がふと呟いた。

「君が来るとは、少し意外だった」
「あら、私はもともとこの国の生まれよ?」
「そう言えばそうだったな」

 アリシア連邦の、ひとりの天才科学者が生み出した、コズミックエナジーを宿した機械生命体。<宇宙鉄人>と呼ばれるものたちが、人間に反旗を翻した。
 それに端を発したのが、後に【宇宙鉄人事件】と呼ばれるものであり、流星がインターポールにスカウトされるきっかけとなった事件だ。
 ちなみに、彼を推薦したのが、他でもない、インガ・ブリンクその人だ。

 彼女は、宇宙鉄人を開発した科学者・ブリンク博士の娘であり、暴走した父の遺産を自らの手で葬るため、孤独な戦いに自らを投じた。
 そこで流星たちライダー部と出会い、当初こそ互いの勘違いもあり対立したが、後に共闘。事件を終焉に導いた。
 もっとも、その最大の功労者は言わずもがな仮面ライダーフォーゼこと、如月弦太朗ではあるが。
 とはいえ、彼女の動きがあったからこそ、事件が終焉に導けたのも事実なのだ。

「ライダー部のみんなは元気?」
「ああ……といいたいところだが、なかなか連絡の取れないやつらのほうが多くてな」
「へえ、じゃあ野座間さんとも?」
「……なんでそこで友子ちゃんが出てくるんだ?」

 怪訝に眉根をひそめる流星に「何でかしらね?」と含み笑いを浮かべてみせるインガ。

「ところで、事件の内容を聞いてもいいか?」
「ええ。事件、というよりは異変に近いんだけど……」

 インガ曰く、ここ数日の間に、アリシア連邦上空のザ・ホールに異常が見られるようになったらしい。
 もともと宇宙鉄人を開発できる程度には規模の大きなものであったが、どうやら急激に活性化を始めたようだ。

「これは……日本のものより大きくないか?」

 日本で唯一にして最大の、天ノ川学園都市上空のザ・ホールとの比較データを見つけ、流星が思わず絶句する。

「ええ。だからか、怪人の目撃情報も出てきているのよ」
「怪人……ゾディアーツか」

 頷くインガ。しかし、ゾディアーツとてザ・ホールがあるから出てくるわけではない。人間をゾディアーツに変えるスイッチが必要だ。

「スイッチをばら撒いている奴らがいる……ってことか」
「そうね。そして、そいつらがこの異変を引き起こしているのも……」

 しかし、ゾディアーツスイッチを開発していたのはここから遥か遠く、日本にいた天ノ川学園の元理事長・我望光明だ。そしてその我望はもういない。

「ここで考えていても仕方ないわ。それを調査するのが、私たちの任務よ」

 インガにそう言われ、それもそうだと頷く。

「まぁ、君が相棒になってくれるんだ。すぐにでも終わるさ」
「だといいわね」

 互いに軽口を叩き合った所でちょうど目的地に着いたらしく、住宅街の入り口で車が停まった。

「それじゃ行きましょう? ここは私の地元だから、案内は任せて」
「ああ、頼むよ」

 ・
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 自然と家並みが違和感なく融合した、静かな田舎町。
 インガが生まれ育ったというこの町は、アリシア連邦においては唯一のザ・ホールの存在する地点である。

「お父さんの研究所もここにあるの。つまり、ここは宇宙鉄人たちにとっても生まれ故郷ってことね」
 そう呟いたインガの横顔はどこか寂しげである。
 人類に反旗を翻し、父・ブリンク博士をも手にかけた、彼女にとっては忌むべき存在である“彼ら”であるが、見方を変えれば兄弟のようなものだ。その心中、複雑に複雑が絡み合っていることは想像に難くない。

「しかし静かだな……ここに仕事で来たのを忘れそうになる」
「……さっきもだけど、話題転換が下手ね」

 インガがくすっと笑い、流星は視線を逸らす。

「そうね……昔は静か過ぎるのが詰まらなくて、嫌いだったけど……今はこの静けさが大好き」

 胸いっぱいに深呼吸をしたインガが、ふと首をかしげる

「……でも、今日はいくらなんでも静か過ぎるような……?」

 その呟きに、流星も辺りを見回す。先ほどから車はおろか、通行人の一人とも出会わない。家々にも人の気配が感じられず、ちょっとしたゴーストタウンの様相を呈し始めてきた。
 半ば無意識に、流星とインガが背中合わせに立つ。ぞわり、と悪寒が二人の背中を撫ぜた刹那、ありとあらゆる物陰から黒い影が飛び出してきた。

「!?」

 見る間に視界が怪人の群れで埋め尽くされる。二人を取り囲んだゾディアーツ、そしてダスタードの大群は、少しずつじりじりとその包囲網を縮めてきた。

「いつからこの町、ゾディアーツが名物になったのかしら?」
「後で役場に聞きに行く必要があるかもな?」

 驚きと焦りを軽口で吹き消して、二人は呼吸を整える。

「背中は預けたわよ、流星?」
「ああ。任された」

 互いに息を合わせ、同時に地を蹴る。二人の“拳士”が、戦端を開いた。



  ――そして物語も、幕を開く――





 アリシア連邦の位置は原典では具体的に示されてはいませんが、個人的にはロシア連邦のヨーロッパ側付近をイメージしています。
 メテオのデザインコンセプトの一つに、「ソ連」があったりするのも理由の一つですね。

 そしてインガ登場。小説版「天・高・卒・業」で彼女については言及があったのですが、本作では今回が久しぶりの再会と言うことにしています。

 連絡くらいは取っていたでしょうけど。インターポールからのスカウトの話を持ち込んだのは、彼女のはずですし(小説版から読み取り)。

 今回といい前回といい、流星が「話題の変え方がヘタ」という描写がありますが、これ一応、色恋沙汰がらみが前提という体です。普段は多分そんなことない。
 星心大輪拳への思い入れや、次郎のために孤独な戦いに身を投じるストイックさに対して、友子やインガ、芽衣から思いを寄せられても尚あの朴念仁ぶりですからして。
 心情的には“流友”前提ですが、アプローチの強さでは「みんなで宇宙キターッ!」で去り際にキスぶち込んでいったインガが一歩リード、といったところでしょうかねえ。

 ……まぁ「アルティメイタム」でのあのキャッキャウフフぶりを見るに、どう考えても(あの時点で)「お前ら交際してるだろ」ですが。公衆の面前で抱き合ってんじゃねえ(僻み

 さて、一応「これまでのメテオ」が終わり、次回からはプロローグからの続きになります。

 多少無理はありそうなけど、一応ここからプロローグにつなげても違和感内容にはなってる……ハズ?

 次回、星心大輪拳をお楽しみください(違

 青春スイッチ・オン!