ゆっくりと意識が浮上していく。次第に明るくなるインガの視界がとらえたのは、漆黒のメテオの姿であった。
「やあ。お目覚めのようだね。ミズ・ブリンク」
「貴方……ッ」
身じろぎしたインガは、自身が拘束されていることに気付く。焦る彼女を尻目にメテオ・Яが変身を解く。ほどけたネガ・コズミックエナジーの黒い仮面の向こうから、銀色の仮面が現れた。
「なぜ流星を狙うの?」
「キミには関係のないことだ」
インガの問いかけは軽く一蹴される。インガに背を向け、やがて来るであろう宿敵を待ちうける。その背には一分の隙もない。
そう、今まさに彼が対峙する男と同じように。
「……貴方は、一体何者なの?」
我知らずインガから紡がれた過ぎの問いかけには、今度こそ反応を示した。
「……あの男から聞いて知っているはずだ」
「そうじゃない。流星と同じ技、同じ力……それを持っている貴方は……」
「……」
背中が逡巡する。ややあって、白衣の宇宙鉄人は一言「わからない」とだけ呟いた。
「えっ?」
返答の意味を汲み取れず、聞き返すインガに、宇宙鉄人は踵を返し、おもむろに仮面を外した。
「ーー!?」l
インガが目を疑う。その仮面の下にはーーなにもなかった。
否。厳密にはあるべき“顔”がなかったのだ。
眼ではなく、カメラが。口ではなく、スピーカーが。耳に相当する部分には集音マイクロフォンが……かつてインガも目にしたことのある、人工皮膚あるいは装甲を纏う前の、ただ剥き出しの宇宙鉄人の頭部が、そこにあった。
「……ボクには、顔がない。名前も無い。ただ製造ナンバーとして【CD-S1】のIDと……」
仮面を被りなおした宇宙鉄人……CD-S1が構える。
「リュウセイ・サクタの持つスキルと、アビリティを持たされただけだ」
そのさまは、ネガ・コズミックエナジーの影響で鏡写しになっているとはいえど、朔田流星そのものであった。
どこか物悲しさを湛えた口調で呟き、今度はCD-S1がインガに問いかけた。
「ボクは、誰だ? リュウセイ・サクタなのか?」
「違うわ……貴方は貴方よ。流星の技を持っていたとしても、今抱いているその“心”は、意思は貴方自身のものよ」
「名前も顔も無いボクに、“ボク自身”があるとでも?」
かつて人間に反旗を翻したグランラインとスカイダインは、互いを兄妹と呼んだ。XVIIは仮面ライダーフォーゼ=如月弦太朗と友誼を交わすに至った。
意思を持たされず生まれたブラックナイトを除けば、宇宙鉄人たちはいずれもその内に確たる“自我”を持っていた。
それは、単なる意思や感情のみならず、自らを自ら足らしめるものが存在したからだ。
それは名であり、顔であり、目的であった。
そういった意味では、インガを守護するという使命を帯びていたブラックナイトもまた、自我を持ち得ていたのかもしれない。
そのいずれも己が内にない仮面の宇宙鉄人は、アイデンティティークライシスに陥っているらしかった。
「ボクはリュウセイ・サクタを斃す。そうすれば、きっと……」
ボクは、“ボク”になれる。
自らに言い聞かせるようにそう呟くCD-S1に、インガは何も言わず、その無表情な仮面を見つめていた。
-つづく-
一年以上ぶりの更新でありますな……自分自身含め、お待たせしました(
さて、この名無しの宇宙鉄人。一応CD-S1なるIDはありますが、その実<Cosmic Droid S-1>の略称という設定があったり。多分本編で出ないんでここで出しときます(
S-1の元ネタは、ライダーファンならもうお判りでしょうが、スーパー1からのオマージュですね。
そも、フォーゼやメテオからしてスーパー1を意識した面が多いですしね。宇宙ライダーだし。
さて次回、主役が満を持して再び登場!
CD-S1の身の上を聞いてしまったインガは何を思うのか。そして流星はこの戦いで何を掴むのか……