「――ッ!」
「ホワチャアッ!」
空を切る拳。そして足刀。
互いに猛る怪鳥が如き雄叫びが、傍観者に徹するインガの耳朶を震わせる。
-saturn ready?-
メテオ・Яが土星の戦輪を放つ。それに対し、メテオが選んだのは火星の壊撃。
-O.K.MARS!-
飛び交う斬撃の風をかいくぐり、拳にまとった深紅の光球が刃を砕いた。
「……ちっ!」
攻撃をたやすくいなされたメテオ・Яが歯噛みする。あるはずのない焦燥という感情が、電子頭脳を走った。
「ホァァァァッタァッ!」
漆黒のスターライトシャワーが降り注ぐ。拳の流星雨は的確に青いメテオを狙うが、刹那、そのシルエットが掻き消えた。
「……ホァチャアッ!」
背後に回った流星の掌が、メテオ・Яの背に触れる。強烈な寸頚が叩き込まれ、全身を駆け巡る衝撃が、鏡面の戦士に膝をつかせた。
「俺のすべてをコピーしているなら、その隙を突くのはそう難しくない。さっきはお前が俺の手の内を読んでいたようだが、こんどは俺がお前の手の内を読む番だ」
「う……っ」
ダメージを受けたが、さすがに機械の体を有するだけあって、持ち直すのも早い。よろよろと立ちあがるメテオ・Яに向け、流星はその眼前に拳を突きつけた。
「お前は、“いつの俺”だ?」
「な……に?」
「1か月か? 1週間前か? それともつい昨日の俺か?」
「何を……っ!」
問いかけを振り払うように殴りかかるメテオ・Яの手刀は、飄々と躱される。
「たとえ1分前の俺をコピーしたのがお前だとしても、お前には俺は超えられない!」
――それは、前に進むことができるから。
「人は未来へ……その先へ向かって進化していく! 過去の俺のまま踏みとどまっているお前に、もう勝ちの目はないッ!」
「……いや、あるさ!」
メテオ・Яがおもむろにスイッチを手にする。それは漆黒の拳士へと変貌させる鍵。ドライバーへと吸い込まれたメテオシェイドスイッチが、闇色の霧を生み出すと、その向こう側から黒いメテオが現出する。
「ボクが得ているのは、キミのスキルとアビリティだけじゃあない!」
「何!?」
拳を握りしめたメテオシェイドが構える。その姿は、流星も見覚えのあるものだった。
「ボクはキミの会得した星心大輪拳のすべてを識っている! キミの習得していない技もね……」
そう言い放つメテオシェイドが口にしたその技の名は……
“箒星”
「ボクの全身全霊を、全存在を賭けて……この技を以て、キミを斃すッ!」
-limit break!-
「“メテオシェイド・フルバースト”ォォッ!!!」
その名のごとく、一条の箒星と化した必殺の拳が、メテオめがけて放たれる。
その拳が届く刹那、流星はやおら構えを解いた。
「流星!?」
驚愕に目を見開くインガの眼前で、黒き本流が爆ぜる。
「ボクの勝ちだ、リュウセイ・サクタァァァッ!!!」
勝利を高らかに宣するメテオシェイド。次の瞬間、エネルギーを使い果たしたのかその変身が解け、銀色の仮面があらわになる。同時に吹き荒れるネガ・コズミックエナジーも収まり、突き出された拳の向こうでは、流星が倒れ伏している……はずであった。
「……な、に……!?」
しかし、メテオはそこにいた。立っていた。
「馬鹿な!? ボクの持ちうるすべてのエネルギーを、一撃に込めたのに……!?」
「ああ、結構効いたぞ……」
肩で息をするメテオ。その身体をまとう装甲はひび割れ、マスクに至っては一部が砕け散り、流星の素顔を晒していた。
「メテオシェイドのスペックは、ノーマルのメテオを軽く上回っている! なぜ防ぎ切れた!?」
「防いじゃいないさ……“受け止めた”んだ」
その言葉に、宇宙鉄人のカメラアイが初めてその拳の先を目の当たりにする。
強く硬く握りこまれたその拳を、流星の両の掌が、花弁のように開き、包み込んでいた。
「星心大輪拳が“静”の奥義……<星花(ほしばな)>」
「星……花?」
苛烈なまでの衝撃を放ったはずの拳に傷一つないことに気づき、受け止めたと告げる流星の言を、頭より先に、その身が理解した。
「……数多の星に心あり。其れは大いなる輪の如し」
「!」
流星が口にしたのは、彼がその身に宿せし“星心大輪拳”の真髄。
言葉の羅列としては識っていたCD-S1ではあったが、その意味を解することはついぞなかったものである。
「大輪の花はすべてを受け止める。お前の憤りも、苦しみも、痛みも、哀しみも」
拳を交わすうちに感じ取った、宇宙鉄人の行き場のない想い。
それを流星は、奥義を以て、拳ごと受け止めるに至った。
かつて、目の前の宇宙鉄人と同じように、行き場のない感情を振り回した自分を、そうやって受け止めてくれた男を思い出す。
彼なら、この後どうするだろうか。
……ああ、そうだ。
「自分が無いといったな。なら作ればいい」
その下地は十分にある。ベースとなったのが流星だとしても、今目の前にいるのは、流星ではない。別の意志をもって生きているのだ。
「名前が無いとも言ったな。なら、俺が名を贈ろう」
突き出されたままの拳を、流星の手がつかむ。
右手同士が組み交わされ、組みなおされ、一度離れた手は拳を握り、一度、二度、三度と、軽くぶつかり合う。
流星の友が……如月弦太朗が好んで使っていた“友情のシルシ”だ。
「これで、俺たちは友達だ……タチバナ」
「タチバナ……?」
「ああ、今日からそれが、お前の名前だ」
無表情の仮面が戸惑っているのがわかり、割れた仮面の向こうで流星が笑った。
「タチバナ……ボクの……名前……」
「リュウセイ……!」
あふれた感情を言葉にしようとした刹那――
「……!」
凶弾が、紡がれかけた絆を、タチバナの背中ごと撃ちぬいた。
-つづく-
決着!しかし……!
というわりとありがちなヒキ(
今回、企画当初からやりたかったネタの6割くらいがここでようやく日の目を見て、肩の荷どさどさ降ろしまくり。
奥義「星花」は、ライスピでもおなじみ、スーパー1の「赤心少林拳・梅花の型」が元ネタ。
星心大輪拳自体が、赤心少林拳が元ネタということもあって、ぜひ使いたいネタのひとつでありました。
ちなみに“静”の奥義というだけあって、“動”の奥義もちゃんと出てきます。
当然ですが「箒星」含めて二次設定ですので悪しからず。
さてさて。
芽生えかけた絆を、無情にも断ち切ったもの……
それこそが、今回の事件の黒幕であった! はたしてその正体とは……
バレバレかもしれませんが、まて次回!