――これが、これまでの「仮面ライダーメテオ」――
仮面ライダーメテオ=<朔田流星>は、かつて<反ゾディアーツ同盟>とよばれる組織に属していたエージェントであった。
その正体は誰にも知られてはならず、そして流星自身の目的もあり、同じくゾディアーツと戦う<仮面ライダー部>の面々との間には、しばしば衝突もあった。
しかし、ある一人の男が、頑なであった流星の心を解きほぐした。
そして、高校を卒業し、それぞれの道を歩む仲間たち同様に、彼もまた、次の道へと向かう。
International Criminal Police Organization……通称ICPO、インターポールとも呼ばれる、国際刑事警察機構の捜査員。それが、今の彼の肩書きである。
ゾディアーツとの戦いのみならず、地球全土を震撼させた「宇宙鉄人事件」を解決に導いた立役者としてその能力を見初められ、弦太朗ともどもスカウトを受けたのだ。
結局、弦太朗は教師への道を選んだので、並び立って戦うということは出来なくなってしまったのだが。
彼の任務は、フォーゼやメテオ、ゾディアーツの使うスイッチの力の源である、<コズミックエナジー>を初めとした、超エネルギーにまつわる事件の調査などが主だったものだ。戦闘などは考慮されてはいない。彼が仮面ライダーであることは、インターポールも知らない重要機密なのだ。
そんな彼の捜査官としての拠点は、インターポール本部を擁するフランスのとあるラボにあった――
・
・
・
「どうだ、健吾?」
『ああ、マテリアライズまでは完璧に成功しているな。ただ……』
「そうなんだ。起動までには至らない」
手の中のスイッチを遊ばせながら、流星がため息混じりに呟く。モニター越しの青年……<歌星健吾>は、送られてきたデータを解析しつつ、見解を述べた。
『調整にも問題は無い。恐らく、起動に至るまでのコズミックエナジー不足だな』
「やはりそうか……」
事の発端は、M-BUSから発見された、新たなアストロスイッチの設計図である。
M-BUSとは、Meteor Back Up Satelliteの略称であり、メテオのシステム全体の根幹を成す人工衛星である。
『タチバナ……いや、江本さんの遺産だ。なんとか形にしたいんだがな……』
「やはりフランスの<ザ・ホール>では限界があるか……」
コズミックエナジーは絶えず宇宙から降り注いでいるが、その全てが地球全土降り注ぐわけではない。特定の場所に存在する穴のような一種のパワースポット……即ち<ザ・ホール>からのみ、その恩恵を得られることが出来るのだ。
日本においては、健吾たちが通っていた天ノ川学園都市上空がそうであり、今流星がいるフランスのザ・ホールの降下地点には、専用の研究機関が設けられ、彼はその一室を借りて研究をしている。しかし、フランスのザ・ホールは日本のそれに比べ遥かに規模が小さく、日本と同様の研究が出来るとまではいかない。
『いや、それが原因でもないだろう。仮に、M-BUSからのコズミックエナジーの直接照射でも恐らく足りないぞ』
「本当か?」
『ああ、このスイッチ、キャパシティがとんでもない。それだけに高いポテンシャルを秘めているのは想像がつくんだが……』
今度日本に持ってくることを提案し、それを受け入れた流星に、ふと健吾が話題を変える。
『ところで、最近……野座間へのメールの返信がおざなりらしいな?』
わざわざ俺に愚痴ってきたぞ。と苦笑交じりにそう言うと、流星も苦い笑みを浮かべて誤魔化す。
「おざなりって……これでも考えて送ってるつもりだぞ?」
『文字数が少なくてそっけないとさ。まぁ、俺もユウキへのメールがそんな感じだから、あまり人のことは言えないんだがな』
そう呟く健吾の視線の先には、宇宙服のヘルメットを抱えて笑う少女の写真があった。仮面ライダー部2代目部長にして、健吾の友人……いや、今は“恋人”である<城島ユウキ>は、宇宙飛行士を目指すべく、遠くNASAにて訓練の最中にいた。
一方、彼の口に上った名前……<野座間友子>も、同じく仮面ライダー部の一員である。一学年下の彼女は、弦太朗たちが卒業後は3代目の部長として仲間を率いてきた。
彼女と流星は、厳密には交際しているとも言いがたい関係ではあったが、互いに憎からず思っているのは自他共に認めるところである。
健吾と友子。共に想い人が海を隔てた先にいると言う共通点を持つ二人は、そういった情報を共有することも多くなっているようだ。
「……そういえば、弦太朗は最近どうだ? 連絡のつかなさで言えば、今はあいつの方がそうだろう?」
露骨に話題を転換させた流星に、再び苦笑する健吾である。
『時々頭から煙吹いてる。まぁ、あの成績でいきなり教師目指そうって言うんだから、しかたないだろうがな』
当人たちに言わせれば“奇跡的に”、健吾と同じ宇宙京大に受かった弦太朗は、卒業式当日に掴んだ夢……教師を目指し、勉強に邁進している……はずである。卒業直後こそちょくちょく連絡を取り合っていたが、ここ1年くらいは音沙汰なしだ。便りが無いのは良い便り、という言葉こそあるが、やはり親友のことである。健吾も流星も心配は心配なのだ。
『たまに大学から姿を消すんだが、多分園田先生のところで勉強を教えてもらってるんだろう。ずいぶんと仲良くなったもんだ』
「ふうん……弦太朗にも遅い春かな?」
ただ、移動手段にフォーゼ・コズミックステイツのワープドライブを利用するのは勘弁してほしい。と健吾が渋面を浮かべ、流星が吹き出した。
「まぁ、元気にしてるならそれでいいさ。……っと」
不意に、ラボの電話がベルを鳴らす。健吾に断りを入れて受話器をとると、流星の表情はすぐさまエージェントのそれへと変わった。
「……Oui, monsieur」
幾度かのやり取りの後、了解の意を告げると、流星は受話器を下ろした。
『任務か?』
「ああ。新型スイッチの製作の続きはまた今度だな」
その新型スイッチを懐に滑り込ませ、流星が手早く支度を整える。
『どこへ行くん……ああいや、機密だったな』
「いや、構わないさ」
本部には健吾のことを、コズミックエナジー関連のブレーンとして報告している。協力者であれば、ある程度は機密も緩むのだ。
「……アリシア連邦。そこで、<ザ・ホール>の不自然な活性化が観測されたらしい」
『なんだって?』
厄介な事件になりそうだな。
そう呟いて、流星はラボを後にする。
残されたモニタ越しの健吾が、『アリシア連邦……確か……』と、かつての事件を思い出しながら通信を切った。
-つづく-
一応、時系列としては卒業から1年ちょい。友子とJKが卒業して少し後くらいを想定しています。
でも言及があるのは基本同級生組。友子だけ例外。
ところで宇宙京大に教育学部ってあるんですかね?
まぁ、ゲンちゃんの場合、健吾とユウキと一緒に受けてるので、同じ宇宙学部(宇宙物理学部?)を受験してると思うんですが……まあいいか。細かいことだ(マテ
さてさてさて。
前回のシーンからいきなり場面転換していますが、コレは自分が多用する展開の一つ「ことの起こりは数日前」的なアトモスフィアです(何
ただ、闇照スピンオフ「ZEN」でもコレつかってるので、流石に連続するのはマズ……いとまでは言わんにしても、なんか悔しいので手法を変えてみようと思い立ったのが、
「テレビシリーズのアバンタイトルナレーション」風。
プロローグにいたるまでのあらすじをシーン1を使って(厳密にはプロローグ冒頭のシーンに行き着くまでにあと1シーン使いますが)、といった体です。
うまくいったればご喝采ってね。
さて次回。アリシア連邦に到着した流星を待つものとは……? 青春スイッチ・オン!