炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

File:1/Scene:11

「……え? その時間、ですか?」

 廊下の掃除をしていたメイド…仙道まゆみ…に、推定死亡時刻前後のアリバイを問う。

「その時間でしたら…ええと…そう、廊下の物置にいました」
「廊下の物置、ですか?」

 省吾の問いにうなづき、まゆみが指を指す。犯行が行われた順平氏の自室がある廊下を、さらに進んだ突き当たりにそれはあった。

「誰か、それを証明できる人は?」

 問いかけるのは郁人。まゆみは少し考え込むそぶりをして、わずかの後、首を横に振った。

「……さっき、お前が怪しいって言ってた連中も、それぞれ別のところにいたんだっけな」
「ああ。自室だな。」

 取り出した鉛筆の先をちろりと舐め、郁人が手帳に簡単な見取り図を描く。

「つまり、全員が全員、誰にも見られずに犯行現場に行くこと自体は可能、か…」
「……私を、疑っているんですか?」

 郁人のつぶやきに、まゆみがおずおずと尋ねる。

「いえ、事情聴取は平等に行われていますので。現時点ではなんとも…いえませんが」
 省吾があわてて取り繕う。

(そういえば、林原はこんな物腰の女性がタイプだったか)

 学生時代を思い出し、郁人が微苦笑した。

「ところで…そちらの方は? 見たところ、警察の方ではないようですが…」
「ん、いや……まぁ、ただの小説家…みたいなものです。今後の執筆の参考にと……いや、失礼。不謹慎でした」
 頭を下げる郁人に、まゆみは、気にしないでください、とフォローした。


「…あ、そうだ」
「?」

 ふと、思い出したようにまゆみが口を開く。

「旦那様が遺体で発見される少し前…大体、10分くらい前でしょうか。私、旦那様のいいつけで、部屋の掃除をしに行ったんです」
「部屋の掃除?」
「ええ。…ですが、旦那様は映画のDVDに夢中になっていらして、声をかけたんですが、気づいてもらえなかったんです。このときは、執事長の三笠さんも一緒にいたので、証明してもらえるはずです」
 そのときのことを思い出したのか、まゆみが小さくため息をついた。

「…つまり、その時点ではまだ順平氏は生きていた、と?」
「…ええ」
 しっかりと、まゆみはうなづいた。
「その後、掃除機を置かせてもらって、いったん部屋を出たんですが、そのあと、ほかの掃除道具を持ってくるのを忘れていたことに気づいて、それで梢さまの悲鳴が聞こえるまでは物置に行っていたんです」

 ふぅむ…と腕組みをして唸る省吾。しばしののち、「ありがとうございました」と頭を下げ、郁人を促しその場を離れた。


   *


「…どう思う、七尾」
 彼女の姿が見えないのを確認し、省吾が小さな声で問いかける。
「…なんとも言えんな。彼女の証言が真実なら限りなくシロに近いと思う。…ただ」
「ただ?」

 一息ついて、郁人がシナモンスティックを咥える。

「…もし、あのメイドさんが声をかけていた時点で、既に順平氏が亡くなっていたとしたら?」
 その言葉に、思わず息を呑む省吾。
「…いよいよもって容疑者連中が怪しくなってきた、か」
「ああ、あのメイドさん本人もな」
 そう呟く郁人に、省吾があきれたような表情になる。
「おいおい、ほんとに疑ってるのか? 殺害方法は説明したろ? 絞殺で、首にそのあとがくっきりと残るほどの力でやられてんだ。あんなか弱い女性にできるわけないだろうが」
 ぐっとこぶしを握り締めて力説する省吾。
「…まぁ、そうなんだがな……」

 がりがりと頭をかき、ため息をつく郁人。

「…しょうがない、現場百辺だ。省吾、順平氏の部屋に入れてくれ」
「お、おいおい…一般人を入れていいわけが…」
「頼む」

 と、省吾の顔をじっと見る郁人。その目のまっすぐさに負け、省吾は目をそらしため息をついた。

「……わかったよ。ただし、5分だ。それ以上は俺も面倒みきれないからな」


   -つづく-


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 気づいたら小姫が出番なかった件(爆

 まぁ、別行動中てことでどうかひとつ(ぇ

 さて、何度も言っていますが、今回の殺害方法やトリック云々は元ネタが存在します。とあるマムガです。
 それで犯人に気づいてもコメントではなく、メッセでこっそりと打ち明けてくださいねw