炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

File:1/Scene:8

「―――えー、被害者は瀧田順平、78歳。瀧田重工の現会長。死因は細いワイヤー状のようなものを首に締め付けられての窒息死。死亡推定時刻は―――」
 メモ帳を片手に、いかにもベテランといった風格の刑事が、淡々と呟いていく。
「先輩!」
 床にへばりつく鑑識官をかきわけ、短髪の青年刑事がベテランに近づく。
「おう、第一発見者とは話できそうか?」
 ベテランの問いに、青年は首を振って否定とする。
「そうか…まぁ、大好きなおじいちゃんが殺されたんだ。仕方あるまいな」
 とはいえ、話は聞かねばならない。
 困ったように頭をかくベテラン。
「…第二発見者でよければ話しますが?」
 ふと、廊下から声をかけられ、刑事二人が顔を向ける。
「…どうも」
 軽く会釈する郁人の顔を見て、青年の方が驚く。
「お前…七尾か?」
「は?」
「俺だよ俺……林原省吾!」
 省吾と名乗る青年に、郁人も目を丸くした。
「林原!? 中学のクラスメイトだった?」
「そうだよ! いやー、久しぶりだなおい!」
 人懐っこい笑顔をみせ、省吾が背中をばしばしと叩く。
「なんだ、知り合いか?」
 ベテラン刑事が苦笑しながら聞く。
「ええ、俺のタメですよ。あ、じゃあこいつの事情聴取、俺がやっちゃっていいですかね?」
「まぁいいが…あんまり思い出話に花咲かすなよ」
 そう言って、しっしっ、と二人を現場から追い出した。

  *

 事情聴取といえど、終始雑談のようなかたちで当時の説明を終える。
 情報をある程度纏め上げた後、自然に話題は学生時代のことへと移って行った。

「…しかし、ホントに刑事になったとはな。あの時は与太話だと思ったもんだが」
「あ、ひでえな。あの頃からマジだったぜ俺は」
 お互いにカラカラと笑う。
「そういや、お前はどうなんだよ」
「あ?」
「あ? じゃねえよ。なれたのか? ミステリー作家にさ」

 その言葉に、郁人の胸が僅かに痛む。

「……まぁ、作家にはなれた…かな」
「よかったじゃねえか。また今度お前の本読ませてくれよ」
「……ああ、そのうち…な」
 言葉尻を濁しながら、席を立つ郁人。
「さて、事情聴取は終わりだろ?」
「あ? ああ…。どこ行くんだ? 一応ひととおり捜査が終わるまでは出てってもらっちゃ困るぜ」
 わかってるよと、郁人、溜息ひとつ。
「連れの所に戻るだけだ。第一発見者のあの子の様子も見ときたくてな」
 そういえば。
 郁人が彼女からの招待を受けていたことを省吾が思い出す。
「そうか。じゃあ、あの子がなにか話せそうな状態だったら、また声かけてくれ」
 省吾の依頼に、郁人がああ、と軽く頷いた。


  -つづく-


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本当はこのシーンに続けてもう1シーンまとめていくつもりだったんですが、こっちが予想以上に長引いたので一端区切り。
まぁ、結局冗長化することには変わりないんだろうケドね(トオイメ

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キャラクターファイル・Part4

林原省吾/Syogo Hayasibara
捜査一課の若手刑事。郁人とは中学来の友人で、将来の夢を語り合ったこともあるようだ。
少々お調子者な面もあるが、捜査に対してはかなり真面目。

※名前の由来は「白雪姫」の重要な小道具「毒林檎」から。

“林”原省“吾”で“リンゴ”と。
 …うわ、しょうもなっ。

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