クリスマスイベントが終わり、アイドル達はそれぞれの家路につく。
世の中はさっさと年末モードに移行し、余韻に浸る暇も無い。
もっとも、僕には縁の無いものなんだけれど。
たとえ仕事で、これ以上無いくらいクリスマスというものに関わっていたとしてもね。
「…あ、プロデューサーさん」
最後の戸締りを終え、さて帰ろうとした僕の背中から、誰かが呼びかける。
振り返ると、小鳥さんの姿。
「小鳥さんも、これから帰りですか?」
「ええ。…ところで、これから時間、あります?」
頷く僕に、小鳥さんがにっこりと笑った。
「それじゃ、少し付き合ってくれません? 知り合いが経営してるバーが、今日までクリスマスイベントやってるって言うんで」
思いがけないお誘いに、僕は二つ返事で応えるのだった。
Christmas special Short Story
一足遅れのメリークリスマス
「んーっ、たっのしかったぁ~」
気持ちよさそうに背伸びをする小鳥さん。ほんのり桜色に染まった頬が、普段は大人びている彼女をこころなしか幼く見せている。
柔らかな笑顔が、とてつもなく可愛い。
「あーあ…クリスマスも終わりね…。今年も何事も無く終わっちゃったかぁ」
そんな笑顔のまま、少し寂しげに呟く姿に、思わずドキっとしてしまう。
…くちゅんっ
と、可愛らしいくしゃみが聴こえた。見ると、小鳥さんが肩を抱きしめて小刻みに震えている。
着ているコートがちょっと薄手だからなぁ…。
「コート貸しますよ、小鳥さん」
そう言ってボタンを外していくのを、小鳥さんが手で制した。
「ちょーっとストップ」
「?」
解いたコートの前を開けたまま、僕の動きが止まる。
その隙を突いて小鳥さんがするりと僕の胸元に滑り込んだ。
―――?!
「ふふふ~ん♪」
亜美真美みたいな小悪魔スマイルを浮かべ、滑り込んだ自分ごと僕のコートの前を止めてしまう。二人羽織みたいな感じだ。
僕の目の前には小鳥さんの髪が穏やかに揺れ、柑橘系だろうか、シャンプーの匂いが鼻をくすぐる。
「こ、小鳥…さん?」
顔が熱くなる。早鐘を打つ心臓の音とか、聞かれてなけりゃいいんだけど。
「プロデューサーさん、あったかいですね~…」
「…酔ってます?」
「酔ってないれすよぉ~?」
…いや、めっちゃ酔ってるじゃないですか。
「…たまにはですねぇ…」
「?」
と、小鳥さんの声のトーンが少し沈む。
「たまには…誰かに寄りかかりたい時も…あるんですよ…」
そう言って、小鳥さんが僕に体重を預けてきた。
その表情が、切なげで、儚げで…
僕は、彼女を抱きしめていた。
小鳥さんの身体は、柔らかくて、小さくて…
ちょっと力を入れたら壊れてしまいそうで…
・
・
・
…はっ。
「ご、ごめんなさいっ!?」
我に返った僕は、慌てて腕を解く。
うわぁ…何やってるんだ僕はっ!
「…ふふっ」
あたふたする僕を尻目に、含み笑いを浮かべて僕のコートから抜け出す小鳥さん。
「…嬉しかった、ですよ♪」
ふわりと、小鳥さんは微笑んで見せた。
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あとがき
Merry Christmas!!
昨年に続き、今年もやっちゃいましたよクリスマスSS!
今回のヒロインは他のアイドル候補生差し置いて小鳥さん!
…なんか春香あたりに後ろから刺されそうな気がしますが、キニシナイ!
このペースで行くと次はバレンタインとか書くのか…
いや、どうだろう…?
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