一方、リュウとメレの戦いは一進一退の攻防となっていた。
突きが、蹴りが、互いの身体を僅かにかすめ、直接的なダメージを与えきれずにいたのだ。
獣拳使いとして、互いの技術はほぼひっ迫していたと言っていいだろう。
ワザのキレに関してだけ言えば、リュウの方に、僅かに軍配が上がっている。
しかし、現在の両者にはそれでは埋めきれない差があり、それは時を追うごとに明確になってきた。
「……ハァ、ハァ…」
身体能力、タフネス、スタミナの差である。
もちろんリュウとて長年修行を続けて来た身である。それらは常人より遥かに秀でていた。
が、片や生身、片や獣人の身体だ。
全力での打ち合いをしていれば、時間が経つにつれ身体能力のポテンシャルが下がっていくのは必至であった。
「息が上がってきたわね…もらった!」
「ちっ!」
メレの脚が肝臓を狙う。咄嗟に庇った腕ごと持って行かれ、リュウの身体が宙を舞った。
「ハッ!」
手にした釵(サイ)が閃く。リュウの上着が×字に切り裂かれ、鮮血が迸った。
「うわっ…」
痛みに思わず、受身を取り損ねてしまう。仰向けに倒れ伏したリュウの動きを封じるべく、メレが馬乗りになった。
「…おおっと、マウントポジションとはね。かわいい女の子相手ってのはいいもんだが、そのナリじゃなァ」
「うっさいわね。あたしだってできるんなら理央様にしてあげたいくらいよ!」
さりげなくアブない発言をしながら、メレは釵をリュウの腕に突き立てた。
「!!」
咄嗟に腕をずらしたものの、袖口を縫い付けられてしまった。
「あぶねーあぶねー。あやうく磔になっちまうとこだったぜ」
「大丈夫よ。すぐになるから…ねッ!!!」
メレのクチが大きく開き、鈍色の舌が鋭利な刃物のようにリュウの喉笛を狙う。
「っぶねぇ…!」
ムリヤリ腕を動かす。派手な音をたてて袖が裂けたが、自由になった両手が舌槍を喉に触れる寸前で受け止めた。
「…チッ、あんたいい加減しぶといわよ!? ちっぽけな虫けらのくせしてさ!」
舌に力を込めながらメレがいきり立つ。
「知ってるか? “一寸の虫にも五分の魂”ってな言葉があってな…」
「なら、虫らしく潰れてなさい!」
メレが地面に突き立てた釵を引き抜き、狙いを定めた。
(……万事休すか)
リュウの背中を嫌な汗が流れた。
「ゲキワザ・貫貫掌(カンカンショウ)!!!」
凛と澄んだ女性の声が響いたと同時に、衝撃にあおられてメレの身体がぐらりと傾いた。
「なっ……!?」
「美希姉さん!」
戒めが解けたと同時に身体を翻し、駆けつけた美希の下に走り寄る。
「まったく…渡したいものがあるからちょっと待ってなさいって言ったのに、先行っちゃうんだから…」
やれやれと呟く美希。
「あれ、言ってましたっけ?」
「言いました。ほんとに、人の話最後まで聞かないのは相変わらずね」
そんなことより、と美希が持っていたアタッシュケースからグローブ型のアイテムを取り出した。
「コレは…」
「ゲキチェンジャーのプロトタイプ。以前あなたにモニターをやってもらってたものよ」
ジャンたちが使っている物とは色違いのそれを、リュウに押し付ける。
「あなた用に調整を施してあるから、あの子たちが使ってるのと性能は同じと思っていいわ」
「なるほどな。ありがと、美希姉さん」
深緑が目にまぶしいプロト・ゲキチェンジャーを装着する。
「ハンっ、カクシターズと同じ力を得たってワケね。少しは楽しませてくれるんでしょうね?」
「…楽しむ暇が、あればだけどな」
軽口を叩いてみせる。
一呼吸ののちに、静かに構え、目を見開く。
全身に激気が漲り、その瞳に炎が宿った。
「唸れ、ケモノの魂! ……ビースト・オン!!!」
-つづく-
----------------------------------------------
当初の予定から遥かにシーン数が増えている気が(滝汗
まぁ、悪いことではないと思うけど。
冗長化しないように気をつけなきゃだよなァ…
と言っている端から、次回は1エピ丸ごと変身シーンに費やす気なのですが(爆
まぁ、短いけどね。
http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabe
↑web拍手だっぜぃ