放課後の喧騒が遠くに聞こえる。
教室の窓から差し込む西日は、まぶしいながらも、温かく穏やかな空気をもたらしてくれていた。
教室の窓から差し込む西日は、まぶしいながらも、温かく穏やかな空気をもたらしてくれていた。
「…だから、ここにこの式を代入すれば…ね?」
「あ、そうか。先生が言ってたのはこういうことなんだな。なるほど」
「あ、そうか。先生が言ってたのはこういうことなんだな。なるほど」
しん、と静まり返った教室に、少年と少女の声。
ひとつの机に向き合って、数学の勉強中のようだ。
「ありがと、助かったよ荻野谷。ここがわかんないままだと次の期末ヤバいとこだった」
「気にしないで渡辺君。私も復習になったから」
ふわりと微笑みあう二人。
「気にしないで渡辺君。私も復習になったから」
ふわりと微笑みあう二人。
(…………あ)
ふと、少女が何かに気付く。
(………今、ふたりっきり…?)
少女―――荻野谷颯子、勉強会開始から45分と37秒でようやく気付いた事実であった。
ちょこっとヒメ・しょーとすとーりー
ほうかごのこと
彼女が彼―――『渡辺君』のことを意識するようになって幾週間。
これといったアプローチもできず、当の本人は周囲から「おしい」とまで称されるほどの人物。押し秘めた想いなど気付くよしもなく。
そして、そんな状態になってからはじめての“ふたりきり”という状況。
否応なく心臓が跳ね上がってしまう。
(いっ…意識しないっ。意識しちゃだめっ。意識しちゃ…)
平静を装おうと必死になる颯子だが、高鳴る鼓動と、それに連動する顔への血流は抑えることは出来ない。
これといったアプローチもできず、当の本人は周囲から「おしい」とまで称されるほどの人物。押し秘めた想いなど気付くよしもなく。
そして、そんな状態になってからはじめての“ふたりきり”という状況。
否応なく心臓が跳ね上がってしまう。
(いっ…意識しないっ。意識しちゃだめっ。意識しちゃ…)
平静を装おうと必死になる颯子だが、高鳴る鼓動と、それに連動する顔への血流は抑えることは出来ない。
「? どうした、荻野谷?」
「へっ!? あ、え? ううん!?」
かけられた声に、咄嗟に答える。自分で聞いてて恥ずかしくなるほど上ずった声。穴があったら入りたくなる。
「顔赤いけど…風邪でもひいてるのか?」
そんな颯子の心情を知らない渡辺はひょいと顔を近づける。
「だっ、だだだ大丈夫! 風邪とかじゃないからっ。うん、元気、元気」
引きつった笑みを浮かべながら、両腕で力こぶを作ってみせる、ちょっと古臭い元気アピール。
「そうか? なら、いいけど…」
あっさり引き下がる彼に、颯子、内心ほっとし、内心ちょっと残念がる。
「へっ!? あ、え? ううん!?」
かけられた声に、咄嗟に答える。自分で聞いてて恥ずかしくなるほど上ずった声。穴があったら入りたくなる。
「顔赤いけど…風邪でもひいてるのか?」
そんな颯子の心情を知らない渡辺はひょいと顔を近づける。
「だっ、だだだ大丈夫! 風邪とかじゃないからっ。うん、元気、元気」
引きつった笑みを浮かべながら、両腕で力こぶを作ってみせる、ちょっと古臭い元気アピール。
「そうか? なら、いいけど…」
あっさり引き下がる彼に、颯子、内心ほっとし、内心ちょっと残念がる。
なんだか、久しぶりな気がする。
彼を異性として意識してから、こんなに近づいているのは。
彼を異性として意識してから、こんなに近づいているのは。
もともと仲は悪い方ではなかった。猫を飼っているという共通点もあり、莉夕という共通の友人もいる。
最初は彼の方が若干遠慮(というか、緊張?)している部分はあったが、気がつけばいつも近くにいて。
最初は彼の方が若干遠慮(というか、緊張?)している部分はあったが、気がつけばいつも近くにいて。
そして、気付いたら……好きになっていて。
ふわり、と手が自然と髪をなでる。いつか、すれ違いに彼が触れたことがあって。それがすごくドキドキしたのを憶えている。
触って欲しい。ふと、そんな想いがあたまをもたげる。
(……って、私なに恥ずかしいこと考えてるんだろ!? 今のなし、今のなし!!)
耳まで真っ赤になってさっきまでの考えを振り払う颯子。
「……なんか変だぞ荻野谷?」
そんな彼女の様子を見て、訝しげな表情を向ける渡辺。
そんな彼女の様子を見て、訝しげな表情を向ける渡辺。
「な、なんでも…無いから」
そう言って、しゅんと縮こまる。なにやってるんだろう、私。
そう言って、しゅんと縮こまる。なにやってるんだろう、私。
(……帰り、誘ってみよう、かな…)
幾分クールダウンした頭で、ふとそんなことを思いつく。
今までだって一緒に帰ったことが無いわけじゃない。…もっとも、莉夕や朝生とも一緒だったけれど。
今までだって一緒に帰ったことが無いわけじゃない。…もっとも、莉夕や朝生とも一緒だったけれど。
ふたりっきりで、帰路に着く。
これは、小さくとも立派な進展ではないだろうか。
これは、小さくとも立派な進展ではないだろうか。
(…うん、そうよね)
莉夕も応援してくれているのだ。こんなところで挫けていられない。
「あの、渡辺君。今日…一緒に」
「あ、しまった。もうこんな時間か!?」
「あ、しまった。もうこんな時間か!?」
おずおずと絞り出された声は、それよりも大きな彼の声で消し飛ぶ。
「そろそろヒメが戻ってきておなか空かしてる頃だな。急いで帰らなきゃ。…荻野谷、今日は助かった。ありがとなっ」
言うが早いか、鞄を引っ掴み、颯子が止めようとするのも気付かず教室を飛び出す。
「また明日な!」
言うが早いか、鞄を引っ掴み、颯子が止めようとするのも気付かず教室を飛び出す。
「また明日な!」
「あ…うん。また、明日ね」
走り去る彼に手を振る颯子。
教室に静寂が訪れ、傾いた光の代わりに薄闇が支配を始めていた。
「……もう」
すこし頬を膨らませ、颯子は小さく呟いた。
すこし頬を膨らませ、颯子は小さく呟いた。
「……鈍感、なんだから」
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随分前に立ち読みした颯子さんのエピソードがモチーフ。
ホントはそれが収録されているであろう5巻の発売まで執筆を待つつもりだったんだが、発売日が下旬で、執筆どころじゃないだろうと踏んで急遽執筆。連載分のWINGを購入して置けばよかったと全力で後悔。
ホントはそれが収録されているであろう5巻の発売まで執筆を待つつもりだったんだが、発売日が下旬で、執筆どころじゃないだろうと踏んで急遽執筆。連載分のWINGを購入して置けばよかったと全力で後悔。
ちょこっとヒメなのに、ヒメ出てきてない…。
でもキニシナイ!(ぉぃ
とりあえず5巻を購入して、落ち着いたら状況に応じて修正かけるかもしんない。
…まぁ、いつも「修正かける」つって修正かけたためしがないけどね(爆