炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ちょこっとヒメ】しょーとすとーりー@ほうかごのこと【二次創作】

 放課後の喧騒が遠くに聞こえる。
 教室の窓から差し込む西日は、まぶしいながらも、温かく穏やかな空気をもたらしてくれていた。

「…だから、ここにこの式を代入すれば…ね?」
「あ、そうか。先生が言ってたのはこういうことなんだな。なるほど」

 しん、と静まり返った教室に、少年と少女の声。

 ひとつの机に向き合って、数学の勉強中のようだ。

「ありがと、助かったよ荻野谷。ここがわかんないままだと次の期末ヤバいとこだった」
「気にしないで渡辺君。私も復習になったから」
 ふわりと微笑みあう二人。

(…………あ)

 ふと、少女が何かに気付く。


(………今、ふたりっきり…?)


 少女―――荻野谷颯子、勉強会開始から45分と37秒でようやく気付いた事実であった。



    ちょこっとヒメ・しょーとすとーりー

    ほうかごのこと



 彼女が彼―――『渡辺君』のことを意識するようになって幾週間。
 これといったアプローチもできず、当の本人は周囲から「おしい」とまで称されるほどの人物。押し秘めた想いなど気付くよしもなく。
 そして、そんな状態になってからはじめての“ふたりきり”という状況。
 否応なく心臓が跳ね上がってしまう。
 
(いっ…意識しないっ。意識しちゃだめっ。意識しちゃ…)
 平静を装おうと必死になる颯子だが、高鳴る鼓動と、それに連動する顔への血流は抑えることは出来ない。

「? どうした、荻野谷?」
「へっ!? あ、え? ううん!?」
 かけられた声に、咄嗟に答える。自分で聞いてて恥ずかしくなるほど上ずった声。穴があったら入りたくなる。
「顔赤いけど…風邪でもひいてるのか?」
 そんな颯子の心情を知らない渡辺はひょいと顔を近づける。
「だっ、だだだ大丈夫! 風邪とかじゃないからっ。うん、元気、元気」
 引きつった笑みを浮かべながら、両腕で力こぶを作ってみせる、ちょっと古臭い元気アピール。
「そうか? なら、いいけど…」
 あっさり引き下がる彼に、颯子、内心ほっとし、内心ちょっと残念がる。

 なんだか、久しぶりな気がする。
 彼を異性として意識してから、こんなに近づいているのは。

 もともと仲は悪い方ではなかった。猫を飼っているという共通点もあり、莉夕という共通の友人もいる。
 最初は彼の方が若干遠慮(というか、緊張?)している部分はあったが、気がつけばいつも近くにいて。

 そして、気付いたら……好きになっていて。

 ふわり、と手が自然と髪をなでる。いつか、すれ違いに彼が触れたことがあって。それがすごくドキドキしたのを憶えている。

 触って欲しい。ふと、そんな想いがあたまをもたげる。

(……って、私なに恥ずかしいこと考えてるんだろ!? 今のなし、今のなし!!)

 耳まで真っ赤になってさっきまでの考えを振り払う颯子。

「……なんか変だぞ荻野谷?」
 そんな彼女の様子を見て、訝しげな表情を向ける渡辺。

「な、なんでも…無いから」
 そう言って、しゅんと縮こまる。なにやってるんだろう、私。


(……帰り、誘ってみよう、かな…)

 幾分クールダウンした頭で、ふとそんなことを思いつく。
 今までだって一緒に帰ったことが無いわけじゃない。…もっとも、莉夕や朝生とも一緒だったけれど。

 ふたりっきりで、帰路に着く。
 これは、小さくとも立派な進展ではないだろうか。

(…うん、そうよね)

 莉夕も応援してくれているのだ。こんなところで挫けていられない。


「あの、渡辺君。今日…一緒に」
「あ、しまった。もうこんな時間か!?」

 おずおずと絞り出された声は、それよりも大きな彼の声で消し飛ぶ。

「そろそろヒメが戻ってきておなか空かしてる頃だな。急いで帰らなきゃ。…荻野谷、今日は助かった。ありがとなっ」
 言うが早いか、鞄を引っ掴み、颯子が止めようとするのも気付かず教室を飛び出す。
「また明日な!」

「あ…うん。また、明日ね」

 走り去る彼に手を振る颯子。

 教室に静寂が訪れ、傾いた光の代わりに薄闇が支配を始めていた。


「……もう」
 すこし頬を膨らませ、颯子は小さく呟いた。



「……鈍感、なんだから」



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 今回の元ネタは「ちょこっとヒメ
 「ガンガンWING」にて好評連載中の4コマ漫画だ。読め(意味なく高圧的

 随分前に立ち読みした颯子さんのエピソードがモチーフ。
 ホントはそれが収録されているであろう5巻の発売まで執筆を待つつもりだったんだが、発売日が下旬で、執筆どころじゃないだろうと踏んで急遽執筆。連載分のWINGを購入して置けばよかったと全力で後悔。

 ちょこっとヒメなのに、ヒメ出てきてない…。

 でもキニシナイ!(ぉぃ

 とりあえず5巻を購入して、落ち着いたら状況に応じて修正かけるかもしんない。

 …まぁ、いつも「修正かける」つって修正かけたためしがないけどね(爆