炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【必殺!】異伝・仕事人相対/第1場

 流れ流れ、今は昔。
 まだ、東京が<江戸>と呼ばれていた頃のこと。

「……後ろからバッサリ…と言うよりゃ、全身ズタズタにやられてやがる」
 朝霧の残る河原、無惨な姿を晒す死体を前に、歳若い同心が苦々しく呟く。
「手口は一連の辻斬りと同様…下手人も然りですかね」
 隣に控える同い年くらいの同心が眉をひそめる。このご時世、辻斬りもさして珍しいものではないが、ここまで陰湿なやられ方はそうそう無い。
「ホトケさん…そうとう苦しんだでしょうに…」
 刻まれた刀傷のひとつひとつは、直接致命傷にならないものであろうことは、武芸に精通した彼等には見て取れるものであった。単純に殺すだけではない、苦しませたのち死に至らしめる、下手人の残忍さが滲み出ている。

 運ばれていく死体を尻目に、同心……渡辺小五郎は、踵を返し、現場を後にした。


「…あ、ちょっと! 勝手に入ってきちゃダメですよ!」
 相棒の声に、小五郎がふと振り向く。一人の侍が、死体に近づき、その手に触れている。
「なんだ、あの侍?」
 一度訝しげにその姿を一瞥する小五郎であったが、
「…ま、いいか。伝七がなんとかするだろう」
 とさして気にすることもなく、再び歩を進める。


「……この刀傷……“外道”の匂いがする」

 侍の呟きは、小五郎の耳には届かなかった。


   *


 刻は昼時に移る。

 小料理屋<その>は多くの客で賑わい、店を切り盛りする青年…源太と少年…作太郎は調理と配膳に追われていた。

「へいお待ちっ!」
「まいどありがとーございますっ!」

 騒がしい店内の中、その一角だけ、妙に凛と張り詰めた空気。

「…………」
 粋に着こなされた羽織袴。腰にあるは鞘越しにも銘のあるものと窺がえる刀。
 侍が一人、黙々と箸を運んでいた。

 やがて、箸が米の最後の一粒をさらい、茶碗が音もなく卓に戻る。

「………馳走になった」

「あ、ありがとうございますっ!」
 駆け寄る作太郎に、侍は穏やかな笑顔を向ける。
「この料理、おぬしが作っているのか?」
「はい、オイラと父ちゃんで!」
 父ちゃん、の言葉に、土間に目をやる。目が合った源太が照れくさそうに会釈をした。
「そうか。美味かったぞ」
 侍がそう言うと、作太郎の顔がぱあっと笑顔に染まる。
「支払いだ」
 作太郎が、手渡されたものを見て、思わず目を丸くする。小判が二枚、輝いていた。
「こ…こんなにもらえません!」
「構わん。…次は供の者と来る。その時、また美味いものを食わせてくれ」
 その言葉に、作太郎はこくこくと大きく頷き、店を出る侍の背中に、大きな声で礼を叫んだ。

「…随分と気前のいいお侍さんもいたもんだなァ」
 作太郎とともに見送った源太が呟く。
「供の者と来るって言ってたし、ひょっとしてどっかのお殿様かもな」
「なァに言ってんだよ父ちゃん。フツーのお侍様ならともかく、お殿様がこんな小料理屋なんかに来るわけ無いじゃん」
 呆れたように言う作太郎に、「それもそうか…」と深く考えず頷き、源太は再び土間へと戻った。


  -つづく-


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 さて、てなワケで必殺の世界観に移動しますた。
 シンケン勢、必殺勢ともに可能な限り出番を組んであげたいところです。
 ひとまずは必殺より小五郎&伝七、源太&作太郎が。シンケンより殿=レッド、描写はありませんがブルーがそれぞれ。
 次のシーンまででとりあえずメンバー同士のニアミスを済ませ、本番へと持っていきたいところではありますが。はてさてどうなりますやら。