「ねぇ千明」
「何、ねえさん?」
「何、ねえさん?」
昼の稽古が終わった後、水分を取ろうと台所に向かおうとする千明を茉子が呼び止める。
「ん、ちょっと聞きにくいこと聞くんだけど…」
「?」
「?」
珍しく言いよどむ茉子に、千明の眉が訝しげに歪む。
「…あー、いいわ。単刀直入に聞くから」
と、開き直ったかと思うと、真っ直ぐ向かい合い、じっと千明の瞳を見る。
と、開き直ったかと思うと、真っ直ぐ向かい合い、じっと千明の瞳を見る。
「……え?え?ええ? つか近い! 顔近いからねえさん!」
…というより、睨みつける。
…というより、睨みつける。
「……あなた、ことはのこと好きなの?」
突然の茉子の言葉に、千明は思わず柱に頭を打ち付けそうになる。
「な…ななな」
何言ってんだよねえさん、の一言がなかなか出ない。
「な…ななな」
何言ってんだよねえさん、の一言がなかなか出ない。
「違うの?」
と問われると、千明はんぐ、と口をつぐんだ。
「…じゃあ」
「いやいやいやいや」
ようやく否定の言葉を口に出来た。全力で首を横に振る。
と問われると、千明はんぐ、と口をつぐんだ。
「…じゃあ」
「いやいやいやいや」
ようやく否定の言葉を口に出来た。全力で首を横に振る。
確かに、ことはの事は嫌いではない。むしろ好きと言えるだろう。
だがそれは、あくまで<仲間>としてのそれであって。
だがそれは、あくまで<仲間>としてのそれであって。
そう説明する千明であったが、世話焼きモードになった茉子にとっては馬耳東風に等しい。
「まーまー、照れない照れない」
「照れてねー! つか人の話聞いてよねーさん!」
「照れてねー! つか人の話聞いてよねーさん!」
と言いつつ、実際耳まで真っ赤になっている千明の姿に、説得力があるかといわれると首をかしげざるを得ない。
少なからず…いや、かなり意識はしているのだろう。
そう認識して、茉子は優しげに微笑む。
千明からしてみれば、面白いものを見つけたいたずらっ子のような笑顔にしか見えないが。
少なからず…いや、かなり意識はしているのだろう。
そう認識して、茉子は優しげに微笑む。
千明からしてみれば、面白いものを見つけたいたずらっ子のような笑顔にしか見えないが。
「というわけで、茉子お姉さんが一肌脱いであげましょう」
「あ?」
「あ?」
* * *
―――数日後。
駅前広場の犬のブロンズ像の足元で、千明が落ち着き無く立っていた。
装いもいつもより少しだけレベルがアップしている。
装いもいつもより少しだけレベルがアップしている。
“この映画。今度の休みに私とことはで観に行くつもりだったんだけどね、ちょっと予定が入っちゃってさ”
などと言われながら渡されたチケットをひらひらさせてみる。
「……映画、ねぇ…」
タイトルには見覚えがある。ちょっと前に始まった犬が主役のほのぼの系映画だ。
前にテレビで予告編をことはがほわーっとした表情で見ていたっけ。
前にテレビで予告編をことはがほわーっとした表情で見ていたっけ。
「つーか、同じ家に住んでンのになんで待ち合わせなんだよ」
ひとり呟く。茉子曰く「デートといえば待ち合わせでしょ」とのことなのだが。
まぁ、二人して志葉邸から一緒に出かける、というのも何かこっ恥ずかしい。
しかし…
まぁ、二人して志葉邸から一緒に出かける、というのも何かこっ恥ずかしい。
しかし…
「デートなのか、これ?」
女の子と二人きりで映画、というシチュエーションを思い浮かべる。
「…………デ、デート…だな」
改めて認識し、顔が熱くなるのが解る。
この春まで高校生だった千明だ。友達づきあいもそれなりにあったし、クラスメイトの女の子と遊んだことが無いわけではない。
だが、どうもそれ以上のことには縁遠かったのか、デートと銘打たれるようなイベントは今までにしたことは無かった。
この春まで高校生だった千明だ。友達づきあいもそれなりにあったし、クラスメイトの女の子と遊んだことが無いわけではない。
だが、どうもそれ以上のことには縁遠かったのか、デートと銘打たれるようなイベントは今までにしたことは無かった。
「あ、千明。お待たせー」
思考に沈む千明の意識を、背後からの声が引っ張りあげる。振り返ると、ことはのよく見知った姿が……
「こ、ことは…」
「?」
「?」
千明が目を丸くする。
ノースリーブのベージュのワンピースに身を包んだことはが、きょとんとした顔をしていた。白い二の腕や、短めの裾から除く太腿がまぶしい。
まぶしすぎて…千明には少々刺激が強かったらしく、慌てて視線をことはの顔に集中させる。と、よく見ると髪形も少々弄っているらしかった。
ノースリーブのベージュのワンピースに身を包んだことはが、きょとんとした顔をしていた。白い二の腕や、短めの裾から除く太腿がまぶしい。
まぶしすぎて…千明には少々刺激が強かったらしく、慌てて視線をことはの顔に集中させる。と、よく見ると髪形も少々弄っているらしかった。
…結論から言うと、可愛い。
否、かなり可愛い。
「どしたん?」
「い、や…お前こそ。そんな格好」
「ヘンかな?」
首を横に振る。振りすぎて首が痛い。
「いや…その……可愛い」
「い、や…お前こそ。そんな格好」
「ヘンかな?」
首を横に振る。振りすぎて首が痛い。
「いや…その……可愛い」
随分と素直にその言葉がでて、内心驚く千明。
「ほんまー? 嬉しいわぁ。これ、茉子ちゃんが見立ててくれてん」
大輪のヒマワリのような笑顔がこれまたまぶしくて、千明は、今度はさすがに目を逸らしてしまった。
大輪のヒマワリのような笑顔がこれまたまぶしくて、千明は、今度はさすがに目を逸らしてしまった。
「?」
やや不自然な雰囲気の千明に、ことはが首をかしげる。
「…あ、そ、そろそろ映画始まるぜ。急ご」
「え? あ、うん……あ、待って千明」
ぎくしゃくとしながら、つかつかと歩いていく千明を、ことはが小走りに追いかけた。
やや不自然な雰囲気の千明に、ことはが首をかしげる。
「…あ、そ、そろそろ映画始まるぜ。急ご」
「え? あ、うん……あ、待って千明」
ぎくしゃくとしながら、つかつかと歩いていく千明を、ことはが小走りに追いかけた。
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「……まったく、手を繋げとまでは言わないけど、並んで歩くくらいすべきでしょうに」
「茉子、流石にコレは…悪趣味じゃないか?」
「茉子、流石にコレは…悪趣味じゃないか?」
二人がいた場所から少し離れたビルの陰で蠢く人影が二つ。
茉子と流之介である。
茉子と流之介である。
「いいえ。私たちには、二人を行く末を見届けるっていう義務があるの!」
「義務って…あのなぁ」
呆れ返る流ノ介をよそに、大きな双眼鏡で二人の様子を窺う茉子。と、彼女のショドウホンからメールの着信を示す電子音が鳴った。
「義務って…あのなぁ」
呆れ返る流ノ介をよそに、大きな双眼鏡で二人の様子を窺う茉子。と、彼女のショドウホンからメールの着信を示す電子音が鳴った。
「…源太から連絡。ことはたちが入る映画館に潜入成功だって」
「源太も巻き込んでるのか……」
「丈瑠も一緒よ」
「と、殿まで……!?」
流ノ介が、愕然とした表情で空を見上げた。
「源太も巻き込んでるのか……」
「丈瑠も一緒よ」
「と、殿まで……!?」
流ノ介が、愕然とした表情で空を見上げた。
-つづく-
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最近、前後編多いなァ…。
幕間、と銘打ってはいますが今回は原作のエピソードの後日談として書いたわけではなく、完全オリジナルエピソードです。
緑×黄でいちゃラブが書きたかったんだよー。
…まぁ、いちゃつけるかどうかは別ですが(ぇ
しかし、「かのくの」の4話といい、執筆中の桜藤祭ネタといい、なんか最近デートネタが多い件。
…作者はリアルデートなんて数えるほどもしてねえケドな!(自爆