炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【らき☆すた掌編】はんど☆せらぴー【桜藤祭/ゆたか】

「遊園地? …うんっ、行きたい!」

「じゃ、今度の日曜日、10時に駅前でだね?」

「……遅刻しちゃダメだよ、お兄ちゃん」

 小さな恋人が、にぱっと笑顔で小指を差し出すので、きゅっと指切りして。

 当日が楽しみだ。


 ・
 ・
 ・


 で、当日である。

「……遅いなぁ…」

 駅前広場の時計台は既に10時半を大きく過ぎていた。

「遅れるなら遅れるで、連絡くらいあってもと思うんだけど」

 呟きながら携帯を見るが、着信はおろかメールの気配もない。
 少し心配になったところで、ふいに着信音が鳴り出した。

「あ、ゆたかちゃん!?」
『ぶー、こなちゃんでしたー』

 …なんだ。

『む。なんだ、とか思ったでしょ今』
「人の心を読まんでいただきたい」

 さておき。

「で、なんか用?」
『あ、そうそう。そのゆーちゃんのことでね』
 やっぱりなんかあったらしい。こなたさんの声がわずかに沈む。

『夕べ、熱出しちゃってさ。今も眠ってるんだ』
「え……?」
『今日、デートだったんでしょ? 前々からすごく楽しみにしてたみたいだったからさ……って、聞いてる?』

 こなたさんが問いかけるが、半分聞いていない状態だった。

「だ、大丈夫なの?」
『ん、発熱したころよりはだいぶ落ち着いてる。…でさ』

 電話の向こうで、こなたさんが言いにくそうに口ごもった。

『今日、私もお父さんも家空けちゃってるんだ。本当は看病してあげたかったんだけど、どうしてもはずせない用事でさ』
「ええっ? じゃあゆたかちゃん、今ひとりなの?」
 ごめんっ、とはじかれたように謝る声が響く。
『それでさ。無茶言うとは思うんだけど……ゆうきくんにゆーちゃんの看病、頼めないかなって』
「……え?」




   はんど☆せらぴー




「お、おにい……ちゃん……?!」
「あ、寝てて寝てて」

 突然現れた僕に驚いて半身を起こしかけたゆたかちゃんをベッドに寝かしなおす。

「こなたさんたちがいないんでしょ? 頼まれたんだ」

 鍵は、こなたさんが出かける前に勝手口をあけておいてくれた。…というか、ちょっと周到じゃないだろうか?

 おでこに乗っていたタオルを外して、冷たい水で洗いなおす。

「ひゃっ」
「あ、冷たすぎた?」
「う、ううん…気持ちいい」

 幾分か楽になったようで、ゆたかちゃんが顔をほころばせた。が、それがすぐ悲しそうな表情に代わる。

「……ごめんね」
「何が?」
「何がって……私が熱出したから、デートダメになっちゃって」

 その口調は、俺を気遣っているかのようで。
 自分だってデートが流れて残念だろうに。

「気にしないでよ」

 ふわっと、ゆたかちゃんの頭に手を乗せる。

「また、元気になったら行こうよ」
「でも…また熱出しちゃうかも」
「それなら、また先にすればいい」

 ゆたかちゃんの目じりに、涙が浮かぶ。

「……ごめんね、私がこんな体じゃなかったら、いっぱい遊べたりできたのにね…」
「こら、そーいうのは言いっこなしだよ」

 そりゃ、元気であることに越したことはないんだけど。

「それでも俺は、ゆたかちゃんが好きなんだから」
「お兄ちゃん…」
 彼女の目から涙をぬぐってあげる。もう後から流れることはなかった。


「……ねぇ」
「うん?」
「……今だけ、今だけなんだけどね。…体が弱いことに、ちょっとだけ感謝してる」

 なんでまた?

「お兄ちゃんが、優しくしてくれるから」
「…俺はいつだって優しいでしょうが」
「えへへ…そうだよね」

 恥ずかしそうに、布団を目元まで被って微笑む。

「あのね、お願いしていい?」
「うん、なんでもこい」
「じゃ、じゃあね……」

 きゅ、と伸びてきたゆたかちゃんの手が俺の手を握る。

「寝ちゃうまで、手、離さないで」
「…お安い御用だ」

 余った手でゆたかちゃんの頭を撫でる。

「…ふふ」
「なに?」

 気持ちよさそうな笑みを浮かべるゆたかちゃん。

「なんだかね、お兄ちゃんにそうやってもらってると、病気がなんか逃げていくような気がするの」
「……そっか」

 そういえば、“手当て”っていうのは、呼んで字の如く“手”を“当てて”人を癒すこと…って聞いたことがあるような。

「ねぇ、お兄ちゃん…」
「んー?」
「ふふ、なんでも……ない……よぉ……」

 語尾が寝息に変わり、やがて、すぅすぅと規則正しいものになった。

「寝ちゃった…か」

 繋がれたままの手を眺める。しっかりと握られて離せそうにもない。
 離す気もないんだけどね。

「……さて、じゃあ俺も一眠りするかな……」
 あくびをかみ殺して、彼女の眠るベッドを背もたれにして目を閉じる。

「はやく元気になーれ」

 口の中でそう呟いて、意識を睡魔にゆだねた。



 ・
 ・
 ・


 ―――それから。

 すっかり元気になったゆたかちゃんに対し、俺はうっかり風邪をもらってしまったりしたのだが……

 それはまた、別のお話って奴にしておこう。



   -fin-


-------------------------------

 久々にらき☆すた。前々から言っていたゆーちゃんネタ。

 まぁ、ありがちっちゃありがちなネタなので細かいことは語るまい(ぇ

 手当てって、もっとも原始的な医療行為ですよね。
 でも、肉体的にも(時間はかかるだろうけど)精神的にも癒される、至高にして究極の医療行為ではないでしょうか。
 今作のように頭なでてるだけでどうにかなるもんでもないでしょうが(爆

 ヴィッ○ス・ヴェポ○ップは理にかなった医薬品だったんだよ。うん。
 そういえば、昔母さんにやってもらったことがあるなぁ…懐い。

[http://webclap.simplecgi.com/clap.php?id=homurabeweb拍手】]