炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ダブルSS】JとF/イーヴィル・カラーズ:シーン2

 風が踊る街を、いまどき流行らない格好をした青年が軽快に走り回る

 刃野から預かった写真を、街往く人々に見せながら地道に聞き込みを続ける翔太郎であったがその成果は芳しくなかった。

「……まァ、すぐに手がかりつかめるんなら、とっくの昔にジンさんが尻尾掴んでるわな」

 ため息をついて、手の中で遊ばせていた帽子を深々と被りなおす。

「なぁに、いきなりお手上げ発言?」
「うお!」
 突然の背後からの声に驚いて振り向くと、亜樹子の姿があった。
「ばっか、これからだっつーの。探偵なめんなよ女子中学生」
「女子中学生いうな!」

 亜樹子の振り回すスリッパをひょいひょい躱しながら、翔太郎はオープンカフェの一角で見目麗しい女性にくどき文句をふっかけながら写真を取り捲っている男に声をかける。

「よう、情報屋」

 情報屋と呼ばれたオタク風の男は、その声を聞いたと単に渋そうな顔をして見せた。

「やぁ、時代遅れ探偵さん」
「いきなりご挨拶だな。…まあいい。連絡してたネタ、どうなってる?」
 ファインダーをのぞく視線を動かすことなく、男がテーブルに散らばる資料をあごでしゃくる。
「お、サンキュ」
 情報料として数枚の紙幣をテーブルに放り出し、資料をひったくる。
「なになに……ん……なんだよ、もーちっとマシな情報なかったのか?」
「何? ボクの仕事にケチつける気? もう情報回さないよ~」

 そうは言ってねえよ…とぼやきつつ、資料をあさる翔太郎の手がはたと止まる。

「…なんだこりゃ? 警察上層部の名簿…?」
「んー、その探し人が行方不明になったのと同じごろくらいからかな。そのうちの何人かが、姿を消したかと思ったら、心身衰弱状態で発見された―――ってさ」
「そいつぁ…」
 心当たりのある状態に、翔太郎が目を丸くする。
「確か、<正木忠義>は警察上層部の汚点を探ろうとして事件から外されたってジンさんが言ってたな……」

 詳細を問いただそうと振り返ると、いつの間にか情報屋の姿はなかった。

「…ったく」
「どうしたの?」

 舌打ちする翔太郎に亜樹子が声をかける。

「核心に迫る前に逃げられた」
「なにやってんだか……」

 ため息をつく亜樹子のその背後で、突然地面が弾けとんだ。

「うおっ!?」
「キャッ! な、なに!?」
「ば、バカ止まるな!」
 呆然となる亜樹子の腕を引っつかみ走り出す翔太郎。爆ぜる地面がオープンテラスのテーブルや椅子を跳ね飛ばしていく。

「ま、まさか……」

 吹き上がる爆風の向こうに、異形の人影を見る。

「やっぱり<ドーパント>か!」
 翔太郎が懐からバックル…<ダブルドライバー>を取り出す。
 それを腰にかざそうとしたところで、肩をつつく感覚。
「なんだよ!?」
「いや…あれ…」
 亜樹子が指差す先に、黒尽くめの衣装を着込んだ青年の姿があった。
 そして、その顔には、翔太郎も亜樹子も見覚えがあった。

「…<正木忠義>!?」
「だよね?」
 写真と比べて、幾分頬がこけ、髪は無造作に伸びていたが、強い眼光は写真そのままに、眼前のドーパントをにらみつけているのは、確かに神野から捜索の依頼を受けていた<正木忠義>その人であった。

「……やれやれ。ただの人探しのはずが、ドーパントに行き当たっちまうとはな……」

 ため息混じりに、翔太郎が呟いた。



   -つづく-


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 何の変哲もない事件から大事件に巻き込まれていくのはハードボイルドの鉄則(?)

 ハードボイルドを目指すなら、運のよさを限界値まで下げる必要がありそうな気がしてきた。

 …あ、でも悪運は強くないとあっさり死ぬかも(ぇ