「ああっ、巨人がまた…」
心配そうな面持ちで見守る三つ子の姉妹隊員と、力になれないことに歯噛みするカスミ。
「…私達もいくわよ」
と、その中でサクラコが小さく口を開いた。
「え?」
「攻撃の要にはなれなくても、援護くらいはできるはず。たとえ相手が怪獣でも、巨人が力を貸してくれているとしても……だからって、何もしないのは私達の行動理念に反する……でしょ?」
「攻撃の要にはなれなくても、援護くらいはできるはず。たとえ相手が怪獣でも、巨人が力を貸してくれているとしても……だからって、何もしないのは私達の行動理念に反する……でしょ?」
サクラコの言葉に、重々しくうなづく面々。
「よし!」
決意を浮かべた部下の表情に、サクラコは満面の笑みを浮かべる。
「あ、ちょうどいいときに! サヨちゃーん!」
と、クドウを送り届けてきたサヨのワゴン車がこちらに戻ってきた。
「任務中にちゃん付けはやめなさい」
「ごめんごめん。って、そんなことより!」
「分かってるわ。めぼしいものは帰り際に積んできたから」
「ごめんごめん。って、そんなことより!」
「分かってるわ。めぼしいものは帰り際に積んできたから」
数刻前のサクラコの意志を汲み取っていたかのように、ワゴン車にはさまざまな重火器が積み込まれていた。
「さっすが! 頼りになるぅ」
「それは光栄ね。さ、みんな乗って!」
「それは光栄ね。さ、みんな乗って!」
再び運転席に乗るサヨが、隊員たちを促す。後部座席を廃したワゴン車に、カスミ、アイ、マイ、ミイの4人が乗り込み、助手席にはサクラコが乗る。
カスミが運転手以外のメンバーに銃器を手渡し、準備が完了する。
「いい? まずはギリギリまで怪獣の足元まで近づいて。私が合図したら、ありったけの弾を怪獣の横っ面に叩きつけてやるの。今回は相手の撃破が目的じゃない。巨人の援護よ。だからサヨちゃんも、無理だとわかったら即座に後退して。陽動に失敗しちゃったら、援護も何もないからね」
ええ、とうなづくサヨ。次いで残りのメンバーも肯定の意を示した。
「それじゃ…行って!」
ベタ踏みにされたアクセルがエンジンを唸らせ、タイヤは数度の空転の後、地面を掴んで前進を促した。
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(ええと……ボクがこの姿になってから…大体2分経ってるはずだ。つまり…)
タイムリミットは、既に60秒を切っていた。
(思考に陥るな! 今は体を動かすことを優先させるんだ!)
(わ、わかってる!)
(わ、わかってる!)
消えかけた光の剣に意識を集中させる。今にも光の霧と化しそうだった刀身はまもなくもとの姿を取り戻した。
と、怪獣が再び溶岩弾を放つ。それらを瞬時に切り伏せ、反撃に転じようとするユウキであったが、すぐさま次の弾幕が襲い掛かってきた。
(くっ…これじゃきりがない!)
攻撃を防ぎながら少しずつ前進をしていくものの、なれない姿、立っているだけで消耗していくエネルギー、今だかつて遭遇したことのない脅威との対峙という状況が、彼の歩みを遅らせていた。
(…うん?)
と、その視線が地面に移る。
(車…? こんなところに?)
巨体同士の戦場の只中をかける一台のワゴン車。その車体には見覚えがあった。
と、不意に車内の様子が透けて見えた。
と、不意に車内の様子が透けて見えた。
(あれは……A.N.G.E.L.の?)
ドラゴンフェザーに乗り込む前に言い争いをした女性の姿を発見し、驚きに目を見開く。
(一体、何する気なんだ…?)
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「どう? そろそろいけそうかしら?」
「もーちょい…もーちょい…」
「もーちょい…もーちょい…」
助手席の窓から大きく身を乗り出し…いわゆる“ハコ乗り”のスタイルで怪獣に向けてロケットランチャーを構えるサクラコ。
三つ子たちは運転席側の後部窓からシュツルムファウストを抱え、サンルーフから身を乗り出し、ミサイルランチャーを載せて固定させているのはカスミだ。
荒れたオフロードを、がたがたと揺れながら疾走するワゴン。
「今よ! 撃ってえええええええ!!!」
サクラコの合図で、いっせいに重火器が火を噴く。強烈な炸薬をたたえた弾頭が放物線を描き、怪獣の目元に激突した。
「よしっ!」
数度の爆発が目の前で起こり、怪獣が目を白黒させる。やがて、焦点の戻った視線を、ギロリとワゴンへと向けた。
「よおっし! このままひきつけるわよ! サヨちゃん、全速前進ッ!」
「わかったわ!」
「わかったわ!」
怒り心頭の怪獣が、地面に向けて溶岩弾を放つ。
「くっ!」
的確なハンドルさばきで車体を滑らせ、溶岩弾の応酬をことごとく躱していくサヨ。
サンルーフ越しのカスミの声を聞き、再び照準を怪獣に向ける面々。再び放たれた攻撃は、真下からアッパーカットのように怪獣のあごを捉えた。
(…すごい)
その様子を見ていたユウキが驚きの声を漏らす。
一歩間違えば大怪我ではすまない中を、臆することなく向かっていく彼女たちの姿に、胸が熱くなってくるのを感じる。
(そうだ…ボクだって恐れちゃいられない!)
その小さな体で懸命に戦っている彼女たちを前にして、立ちすくむ巨人のボクはなにをやっている!
そう、自らを叱咤する。
そう、自らを叱咤する。
彼女たちが作ってくれたチャンスを、無駄にはしない。
《ヘアッ!!》
腹の底から気合を振り絞り、叫ぶ。その声を聞き、ワゴン車がその場を撤退していく。
が、それを逃さず、怪獣が溶岩弾を放つ。
(させるかっ!)
ワゴン車と怪獣の間に飛び込み、光の剣で溶岩弾を切り払う。
《ハァァァァァァ……》
剣を握る拳に力を込める。剣の輝きがさらに増し、それと同時に、ユウキに力と勇気を与える。
《ハァッ!!》
一息に跳び、刃を振るう。
――― 一瞬の、静寂。
と、怪獣の体に、まっすぐ亀裂が入り、その内から光が漏れ出す。
勝利を確信したように、巨人がすっくと立ち上がり、光の剣を、武士が刀を納めるかのごとく解き放つ。
次の瞬間、怪獣は断末魔とともに断裂し、大爆発を起こした。
-つづく-
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決着ゥゥゥゥゥ~!!!
次回、ようやく第1話のエピローグですw