炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

仮面ライダーBLOOD:第2幕/第4場

「っは!」
「んっ!」

 手鎌の連撃をスウェーで交しつつ、つかず離れず、蟷螂女と間合いを取る。

(……まずい、な)

 先日の一件で、自身の体が機械改造されているということを自覚したとはいえ、自分の意思で“人間以上の力”を引き出すのは、この姿のままではほぼ不可能に近かった。

 おそらくは人間社会に溶け込ませるために、意図的にそうされたものなのだろうが、今のエイジにとって、それは足かせ以外のなにものでもなかった。
 かろうじて、人並み以上に強化された動体視力と、機械化されたが故のタフネスが、現時点における彼の切り札といえた。

(だが、それじゃジリ貧だ)

 いずれそのタフネスも尽きれば、自分は組織とやらにつかまってしまう。となれば、係わり合いになった大門兄妹にも危険が迫る。
 ……守ると誓った彼にとっては、それは絶対に避けたいことであった。

「…ふふふ。苦しそうねえ?」

 思考に陥った隙を突かれる。気づくと、蟷螂女の顔がすぐそばにあった。

「!」

 音も無く首を狙った鎌の一撃を腕を呈して止める。人口筋肉と強化内骨格がどうにか受け止め、噴出する擬似血液を蟷螂女の顔面に向けた。

「クッ!?」

 赤い液体が怪人の視界をふさぎ、その隙に再び間合いをとる。
 ぱっくりと開かれた右腕の傷口を見やると、猛烈な勢いで自己修復が始まっていた。

「…このっ! 手間かけさせるんじゃないわよッ!」

 蟷螂女が手鎌を悪戯に振り回す。と、その刃が分割し、ファンタジーにでも出てくるような蛇腹剣のようなスタイルになる。刃と刃をつなぐワイヤーが伸び、その切っ先が、僅かにエイジの身を掠めた。

「…いたわね」

 ニィ、と嗤う蟷螂女が、蛇腹剣…否、蛇腹鎌か……を振るう。まるで生き物の如くその刃を唸らせ、瞬時にエイジの体を絡めとる。

「しまっ…ぐあっ!?」

 ギリギリと締め上げる鋼鉄製ワイヤーと分割された鎌の刃が静かに、かつ確実にエイジの体を断裂させてゆく。

「このまま胴体を真っ二つにして、それからゆっくりと連れ帰ってあげるわ……」

 力を込めながらもうっとりとした表情を……無機質な蟷螂の仮面越しではあるが……してみせる。

「………!」

 怪人の周囲の空気がワイヤーを通して自身にまとわりつき、ぞわり、と鳥肌がたつ。

 そして、脳裏によぎる死の恐怖。

 彼自身、その身が死せぬものであると理解はしている。が、それ以上に彼が魂に抱く人としての感覚が、鼓動を加速させ、冷や汗を流させ、恐怖で脳内麻薬があふれ、視界がブラックアウトする。


(死にたく…死んで、たまるかぁっ!!!)

 かっ、と目を見開く。


 ―――刹那、暗く染まっていた視界が、今度は真紅に変わった。




   -つづく-



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 劇中で蟷螂姐さんが使った武器は、シグナムのレヴァンテインのシュランゲフォルム、あるいは阿散井恋次斬魄刀・蛇尾丸をイメージしていただければ。

 まぁ、元が剣ではなく鎌(しかも、サイスではなくシックルー)なので、ちょっと無理のある形状だとは思うのですがw

 前回は“怒り”がキーになっていたので、今回は“恐怖”をキーにしてみました。
 いずれにせよ、平時では抱かないレベルの感情の変遷が現時点ではキーである、ってことでひとつ。とはいえ、前シーンにて怒りの感情が足りなかったというわけでもないのですが。