「っは!」
「んっ!」
「んっ!」
手鎌の連撃をスウェーで交しつつ、つかず離れず、蟷螂女と間合いを取る。
(……まずい、な)
先日の一件で、自身の体が機械改造されているということを自覚したとはいえ、自分の意思で“人間以上の力”を引き出すのは、この姿のままではほぼ不可能に近かった。
おそらくは人間社会に溶け込ませるために、意図的にそうされたものなのだろうが、今のエイジにとって、それは足かせ以外のなにものでもなかった。
かろうじて、人並み以上に強化された動体視力と、機械化されたが故のタフネスが、現時点における彼の切り札といえた。
かろうじて、人並み以上に強化された動体視力と、機械化されたが故のタフネスが、現時点における彼の切り札といえた。
(だが、それじゃジリ貧だ)
いずれそのタフネスも尽きれば、自分は組織とやらにつかまってしまう。となれば、係わり合いになった大門兄妹にも危険が迫る。
……守ると誓った彼にとっては、それは絶対に避けたいことであった。
……守ると誓った彼にとっては、それは絶対に避けたいことであった。
「…ふふふ。苦しそうねえ?」
思考に陥った隙を突かれる。気づくと、蟷螂女の顔がすぐそばにあった。
「!」
音も無く首を狙った鎌の一撃を腕を呈して止める。人口筋肉と強化内骨格がどうにか受け止め、噴出する擬似血液を蟷螂女の顔面に向けた。
「クッ!?」
赤い液体が怪人の視界をふさぎ、その隙に再び間合いをとる。
ぱっくりと開かれた右腕の傷口を見やると、猛烈な勢いで自己修復が始まっていた。
ぱっくりと開かれた右腕の傷口を見やると、猛烈な勢いで自己修復が始まっていた。
「…このっ! 手間かけさせるんじゃないわよッ!」
蟷螂女が手鎌を悪戯に振り回す。と、その刃が分割し、ファンタジーにでも出てくるような蛇腹剣のようなスタイルになる。刃と刃をつなぐワイヤーが伸び、その切っ先が、僅かにエイジの身を掠めた。
「…いたわね」
ニィ、と嗤う蟷螂女が、蛇腹剣…否、蛇腹鎌か……を振るう。まるで生き物の如くその刃を唸らせ、瞬時にエイジの体を絡めとる。
「しまっ…ぐあっ!?」
ギリギリと締め上げる鋼鉄製ワイヤーと分割された鎌の刃が静かに、かつ確実にエイジの体を断裂させてゆく。
「このまま胴体を真っ二つにして、それからゆっくりと連れ帰ってあげるわ……」
力を込めながらもうっとりとした表情を……無機質な蟷螂の仮面越しではあるが……してみせる。
「………!」
怪人の周囲の空気がワイヤーを通して自身にまとわりつき、ぞわり、と鳥肌がたつ。
そして、脳裏によぎる死の恐怖。
彼自身、その身が死せぬものであると理解はしている。が、それ以上に彼が魂に抱く人としての感覚が、鼓動を加速させ、冷や汗を流させ、恐怖で脳内麻薬があふれ、視界がブラックアウトする。
(死にたく…死んで、たまるかぁっ!!!)
かっ、と目を見開く。
―――刹那、暗く染まっていた視界が、今度は真紅に変わった。
-つづく-
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まぁ、元が剣ではなく鎌(しかも、サイスではなくシックルー)なので、ちょっと無理のある形状だとは思うのですがw
前回は“怒り”がキーになっていたので、今回は“恐怖”をキーにしてみました。
いずれにせよ、平時では抱かないレベルの感情の変遷が現時点ではキーである、ってことでひとつ。とはいえ、前シーンにて怒りの感情が足りなかったというわけでもないのですが。
いずれにせよ、平時では抱かないレベルの感情の変遷が現時点ではキーである、ってことでひとつ。とはいえ、前シーンにて怒りの感情が足りなかったというわけでもないのですが。