炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】血錆の兇刃:閑話~光~【緑青騎士篇】

「…ふぅむ」

 浮かび上がった魔道文字を見やり、御堂 光が腕組みをして唸る。

「腰を落ち着ける暇も無いわねぇ…まぁ、どこもかしこも人手不足っちゃしょーがないけども」

 さて、と呟いて、魔戒筆を一振りする。頼まれていた武器の修繕の、最後のひと仕上げを終えると、光はそそくさと荷造りを始めた。頼まれている武器の持ち主は、全員サバックでそれぞれの管轄を離れている。急いで返しにいく必要はないだろう。

「こんにちは~。新しい本借りに……あれ?」

 光の工房に、顔を出す一人の少女。最近閑岱に入った魔戒法師見習い、櫻かなみである。

「あぁ、こんちわ。本ならその辺からテキトーに引っ張り出しといて。というか、しばらくこっち空けるから、なんならここで読んでてもかまわないし」
「?」

 首をかしげるかなみに、光は手短に先刻届いた指令書の内容を告げた。

「えぇっ!? 閑岱を出ちゃうんですか?」
「そう。南の管轄でやっかいな事件が起こったらしくってね。それで、ほら今ってサバックやってて人手不足じゃない? だからアタシも借り出されたってわけ」

 南の管轄、と聞いてかなみが心配そうな面持ちになる。ああ、と気づき、光がふわりと笑った。

「大丈夫よ。かなみちゃんのカレシは、アタシがしっかりフォローしてあげるから」

 そう言うと、かなみは耳まで真っ赤になって「よ、よろしくお願いします…」と頭を下げた。

「まぁ、フォローなんかいらないくらい、カレは強いでしょうけどね」
「わかるんですか?」

 かなみの記憶が確かであれば、斬と光は武器や鎧のメンテナンスの際に数度顔を合わせた程度である。紅牙のように、ともに戦ったことや、鍛錬として刃を交えたことも無いはずだ。

「わかるわよ。カレの使った武器や鎧を見れば、ね」

 サバックにでればそこそこいいとこまでいけたんじゃないかしら、と言うと、かなみがしゅんとなる。

「どうしたの?」
「ええと…その…私が、斬くんにサバックに出ないでって、言っちゃったから……」
「……ああ」

 どうやらこの幼い魔戒法師見習いは、かなりの心配性であるらしかった。

「でも、あなたの言葉でサバック出場を辞退したって言うなら、いいんじゃないかな? 想われてるじゃない」

 照れるかなみであった。

「さて、と。そろそろ出ないとね……」
「あ、ごめんなさい、引き止めちゃって」
「気にしない気にしない」

 クス、と笑う光。そのたたずまいはしなやかでたおやかで、正体を知っているかなみですら、本当は女性なのではないかと疑ってしまうほどだ。

「さて……とはいえ、閑岱に魔戒騎士をひとりも置かない状況ってのも、あんまりよろしくは無いわよねぇ……。まぁ、邪美や天翔がいれば、十分対応はできるでしょうけど。あのコら魔戒法師にしちゃかなりの武闘派だし」

 ともかく、なるべく早めに終わらせて戻ってくるわね。

 そう言って、光は瑪瑙色のコートを翻らせた。

「いってらっしゃ~い。斬くんによろしくです」
「んっ」



 ・
 ・
 ・


『……留守の間の閑岱の守り、姉君に託すという手は無いのか?』
「やーよ。確かにねーちゃんは強いけど、貸し作ると後々面倒なんだもん」

 セラの助言を、光は口を尖らせて否定した。




---------------------------------

 光の実家、御堂家は、いわゆる名家で、家族もパワフル且つ個性的な面々がそろっているとかいないとか。

 いずれ出したいと思ったりもしますが、それこそ「スレイヤーズ」のリナのねーちゃんの如く出さずにそのパワフルさを伝えさせるようなキャラにしていくという手も面白いなーとか思ったりw


 余談ですが、今回の助っ人メンバー中、彼だけが全員と面識があります。それ以外は基本的に初顔あわせなので(律は紅牙と友人関係にはありますが、斬とは面識がないです)、彼が本作における登場人物同士の緩衝材に…なってくれるとイイナ!