炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

仮面ライダーBLOOD:第2幕/第5場

「なっ……!」

 蟷螂女の声色が、焦燥のそれに変わる。彼女の眼前で、エイジの姿が“ジェノサイドロイド”の新の姿を現したのだ。

「うおおおっ!!!」

 力任せに腕を振るうと、ワイヤーが千切れ、戒めが解ける。蟷螂女は使い物に鳴らなくなった鎌を投げ捨て、もう一方の鎌を両手に構えた。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 荒く息を吐くエイジ。その姿は以前に比べどこか弱弱しく、赤い装甲は、その存在が希薄で、いまにも消えそうに見えた。

(くそ……変われたが……維持……できない……)

 あの時は無我夢中であった。それゆえかは分からないが、自分の意思で変わった今は、それを維持することで手一杯になっていた。

(あと、どれだけこの姿でいられる……?)

 少なくとも、目の前の怪人を倒すまでは保ってほしい、と願わずにはいられなかった。

「はぁっ!」

 飛び掛り、回し蹴りを繰り出す。蟷螂女はそれを鎌の柄で受け止め、押し戻した。

「調子が悪いみたいね? でも、ジェノサイドロイドにケンカを売るほど私も無謀じゃないのよね……悪いけど、ここは退かせて貰うわ」

 低く笑い、走り去ろうとする蟷螂女。追いかけるエイジが、咄嗟に捨てられていた鎌を拾い上げ、ワイヤーを投げつける。右手首に絡みついたそれが、怪人の動きを封じた。

「逃がすわけには…いかないっ!」

 ぐい、と引っ張る。段違いのスペックからもたらされる膂力で、蟷螂女が大きくよろけた。

「うおおっ!」

 飛び込んでくる怪人の体めがけ、全力で殴りかかる。肩に命中し、ボディースーツの装甲が剥がれ跳んだ。

「あうっ!?」

 火花が散る左肩をかばいながら、よろよろと立ち上がる女怪人を、エイジの赤い複眼がにらみつける。

「お前を逃がせば……達也や…結花が危険に晒される……そんなことは、させない!」

 吼えるエイジ。と、いくつかの装甲が消失し、代わりに、右足に別種の装甲が展開し、熱く熱を帯び始めた。

「はっ!」

 跳びあがり…ローリングソバットを見舞う。
 強烈な脚力が怪人の側頭部を打ち抜き、その体は吹き飛ばされた後―――


 耳を劈く断末魔とともに爆裂四散した。



「……やった、か……あうっ!?」

 全身に激痛が走り、膝をつく。ぞわぞわと何かが這うような感覚をおぼえながら、少しずつエイジが人間の姿を取り戻そうとしていた。


「……はぁ、はぁ、はぁ……っく」


 ようやく苦痛から開放され、それと同時に元の姿になる。手を見て、足を見て、胸に手を当て、鼓動を確認する。


(…生き、てる)


 はぁ、とため息をついて立ち上がる。先に帰った結花はもう家に着いただろうか。自分も急いで帰路に着こうと踵を返した、その刹那―――


「……エイジ、か…?」


 驚きの表情をした達也と、目があった。




   -第2幕・了-



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 正体バレはお約束。

 はてさて、達也はつきつけられた事実にどう向き合うのか。

 エイジは……?


 次回予告はまとめ版執筆時に作成します。