「なっ……!」
蟷螂女の声色が、焦燥のそれに変わる。彼女の眼前で、エイジの姿が“ジェノサイドロイド”の新の姿を現したのだ。
「うおおおっ!!!」
力任せに腕を振るうと、ワイヤーが千切れ、戒めが解ける。蟷螂女は使い物に鳴らなくなった鎌を投げ捨て、もう一方の鎌を両手に構えた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
荒く息を吐くエイジ。その姿は以前に比べどこか弱弱しく、赤い装甲は、その存在が希薄で、いまにも消えそうに見えた。
(くそ……変われたが……維持……できない……)
あの時は無我夢中であった。それゆえかは分からないが、自分の意思で変わった今は、それを維持することで手一杯になっていた。
(あと、どれだけこの姿でいられる……?)
少なくとも、目の前の怪人を倒すまでは保ってほしい、と願わずにはいられなかった。
「はぁっ!」
飛び掛り、回し蹴りを繰り出す。蟷螂女はそれを鎌の柄で受け止め、押し戻した。
「調子が悪いみたいね? でも、ジェノサイドロイドにケンカを売るほど私も無謀じゃないのよね……悪いけど、ここは退かせて貰うわ」
低く笑い、走り去ろうとする蟷螂女。追いかけるエイジが、咄嗟に捨てられていた鎌を拾い上げ、ワイヤーを投げつける。右手首に絡みついたそれが、怪人の動きを封じた。
「逃がすわけには…いかないっ!」
ぐい、と引っ張る。段違いのスペックからもたらされる膂力で、蟷螂女が大きくよろけた。
「うおおっ!」
飛び込んでくる怪人の体めがけ、全力で殴りかかる。肩に命中し、ボディースーツの装甲が剥がれ跳んだ。
「あうっ!?」
火花が散る左肩をかばいながら、よろよろと立ち上がる女怪人を、エイジの赤い複眼がにらみつける。
「お前を逃がせば……達也や…結花が危険に晒される……そんなことは、させない!」
吼えるエイジ。と、いくつかの装甲が消失し、代わりに、右足に別種の装甲が展開し、熱く熱を帯び始めた。
「はっ!」
跳びあがり…ローリングソバットを見舞う。
強烈な脚力が怪人の側頭部を打ち抜き、その体は吹き飛ばされた後―――
強烈な脚力が怪人の側頭部を打ち抜き、その体は吹き飛ばされた後―――
耳を劈く断末魔とともに爆裂四散した。
「……やった、か……あうっ!?」
全身に激痛が走り、膝をつく。ぞわぞわと何かが這うような感覚をおぼえながら、少しずつエイジが人間の姿を取り戻そうとしていた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……っく」
ようやく苦痛から開放され、それと同時に元の姿になる。手を見て、足を見て、胸に手を当て、鼓動を確認する。
(…生き、てる)
はぁ、とため息をついて立ち上がる。先に帰った結花はもう家に着いただろうか。自分も急いで帰路に着こうと踵を返した、その刹那―――
「……エイジ、か…?」
驚きの表情をした達也と、目があった。
-第2幕・了-
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正体バレはお約束。
はてさて、達也はつきつけられた事実にどう向き合うのか。
エイジは……?
次回予告はまとめ版執筆時に作成します。