炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

Chapter:2/Scene:1

「世界の裏側…?」
「ああ~ブラジルですね?」
「…お姉ちゃん、流石にそれはないと思う…」

 え~でもでも、日本の裏側ってブラジルよね~?
 などと末の妹に尋ねる朝子をスルーして、紙とペンを持ってきた通之介が、大きく円を描いた。

「俺が言った“裏側”ってのは、こーいうことなんだ。まひるたちがいる<この世界>は…こうだろ?」

 円の外側に、円と棒で人型を描き込む。

「そして、俺がいた世界は……こうだ」

 今度は、内側に人型を描く。

「……??」

 合点がいかないのか、首を捻る朝子とまひる
 と、一番下の咲夜が、ああ、と手を叩いた。

「地球空洞説?」
「あ、うん。それ近い」
「…なにそれ?」

 まひるが地球空洞説について咲夜にたずねる。

「1962年、イギリスの天文学者エドモンド・ハレーが唱えた一説で、地球の中身は空洞で、その内側に人や生き物が住めるんじゃないか、っていうもの。……もっとも、地球の内部がほとんど明らかになってる今は、SFくらいでしか使われないけれど」

「そうなの? じゃ、そんなのありえないってことじゃない」

 すぱっと言い切るまひる

「おいおい、いきなり断定するなよ。俺が今ここにいることが証拠の一つだろ?」
「そりゃ…。でも、本当にそれがあるってことの証明にはならないじゃない。私達を連れてってくれるっていうなら別だけど」

 まひるの言い分に、無茶言うなとボヤく通之介。

「俺がこっちに“戻った”原因だって分かってないってのに、どーやって連れてけってのさ?」
「さすがにバスや電車でってわけにはいかないものねぇ…?」

 微妙にズレた発言をする姉をたしなめつつ、まひるは戻ってきた直後の通之介の姿を思い出す。ファンタジーモノの小説か漫画にでも出てきそうな衣装は、すくなくとも本物に思えた。

「確かに…別の世界に行ってたっていうなら、10年以上も見つからなかった理由にはなる…か。それに…シュ・ヴェルトって言ったっけ、あのロボットみたいなの。今の日本の…ううん、どこの国でだって、あんなの作れるわけがない。

 まして、電機やガソリンの類で動くならともかく、あれは魔法で動いたというのだ。改めて、彼が別の<世界>から戻ってきた…との言葉が、現実味を帯びてきた。

「で、あんたはその…リセカイ?でどうやって暮らしてきたの?」
「うん……12年前。俺とまひるが5歳のとき……まひると遊んでた俺の目の前が突然真っ白になって……気がついたら、森の中にいた」

 とつとつと語りだす。

 狼とも狐とも取れぬ異様な獣に襲われたところを、西洋の騎士のような格好の男に救われたあと、近くに住む木こりの老夫婦に引き取られた通之介は、幼いながらも自分が住んでいたのとは違う世界の存在を受け入れ、平穏に暮らしてきたという。

「で、2年位前かな。世話になったじいちゃんばあちゃんに恩返しがしたくてさ。金になる仕事を探して……騎士になったんだ」
「あ、それであのカッコ……」
「うん。あの時助けてもらった騎士にあこがれたってのもあってさ。まぁ、俺が騎士になった頃にはすでに除隊してて会えなかったんだけど」

 それから、紆余曲折を経て、かのロボット…聖魔甲冑(エンチャント・アーマー)であるシュ・ヴェルトを拝領するなど、騎士としても着実に力をつけてきた最中、魔物討伐の任を帯びて進軍中に、こちらの世界…いわば地上に戻ってきたのだ。

「その魔物ってのが、一緒に地上に出てきたあのボーンゴーレムな。まぁ、そいつはこっちで倒したから、同じようなことはもうおきないと思うけど」

 そう聞いて、まひるがほっと胸をなでおろした。あんなのが次々と出てこられたのではたまったものじゃない、と肩をすくめて呟くと、通之介もそりゃそうだ、と微苦笑した。

「それで、これからどうするの?」
「ああ……とりあえず、向こうに戻らなきゃとは思うんだけど…」

 そう答える通之介に、まひるは少し寂しさを憶えた。

(……なによ、しばらくいるくらい言っても……)

「ま、手がかりもないんじゃなんともなぁ。とりあえず、なんで俺がこっちに戻ったのかを、可能な限り調べてみることにするよ」
「そ、そう……まぁ、暇だったらあたしも手伝ったげるわ」

 すぐにはここを離れないことが分かり、まひるは少し頬を緩めた。



「とりあえず明日になったら家に戻ってみるよ。父さんと母さんにも会いたいしね」

「あ、それなんだけどさ……」


   -つづく-



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 ちなみに、緯度経度から日本の真裏を正確に表すと、ブラジル沖…つまり海の中だそうで。かろうじて九州の端が南米大陸に引っかかってる程度とか。

 <裏世界>のコンセプトは地球空洞説とダイソン球。アクマ族はいませんが(ぇ

 ちなみに、劇中で紹介した地球空洞説提唱者の天文学者・ハレー氏。
 この名前でピンと来る方もおられるでしょう。かのハレー彗星の研究者で、この彗星が周期彗星であることを突き止めたあのハレーご本人です。

 ついでに言うと、オイラーの公式などでおなじみの数学者、レオンハルト・オイラー氏も地球空洞説を唱えた一人なんです。


 以上、物語の進行にはまったく関係のないウンチクですた。