炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【牙狼SS】血錆の兇刃:閑話~透~【緑青騎士篇】

「サバックの出場を蹴っただけのことはあったな」
『アンタくらいなものよ? 名声より目の前の報奨金だーなんて言ってサバックへの参加を断るなんて』

 ぶーたれる相棒の言葉を涼やかにスルーし、白いコートに足音を反響させていく。

 <南の管轄>へと繋がる魔界道をひとり歩きながら、雪野透は今回請け負った任務の概要を思い出す。

「それにしても、ただただ戦いたいがだけに生きる魔戒騎士、か。ちょっと想像つかないね」
守銭奴に言われたかないでしょうけどね』
「……ほっとけ」

 不本意な呼ばれ方であったらしく、ナディアの言葉に今度は反論した透。

「ま、南や他の管轄の連中とつるんで、そいつを倒せばいいんだろ? なかなか悪くない任務だと思うね」
『楽観視は禁物よ? 緑青騎士、それも<咎牙>の称号は、正規の騎士として数えられていた頃は、<牙狼>にも勝るとも劣らない実力者に与えられたものだと聞くわ』
「ふぅん……」

 ふと、ナディアの言葉にまぎれていた<牙狼>の名に、僚友の顔を思い浮かべる。そういえば、彼もサバックには出ない……そもそも魔戒騎士最強の<牙狼>の銘を持つものは参加を許されないのだが……と聞いていたが、ここ数日、管轄内から姿を消していた。
 冴島家の執事・ゴンザ氏に聞いてみたが、極秘裏の任務で管轄を離れているとだけしか教えてもらえなかった。

『あ、そうそう』
「ん?」
『北からは、もうひとり助っ人が派遣されているそうね。確か…碧玉騎士<麗牙>だったかしら』

 その銘には聞き覚えがあった。北の管轄内では、牙狼に次いで有名だ。

「あの女騎士殿か。……やれやれ、女性を死地に赴かせるとは、神官も人が悪い」
『あら、でも腕は立つってもっぱらの評判よ? 帯刀の御曹司も惚れ込んでいたほどじゃない』
「あれは別の意味で惚れ込んでるんだと思うが……まぁいいか」

 以前共闘した、若き魔戒騎士を思い出す。ことあるごとに麗牙…神薙あかねの名前を口にし、そのすばらしさをたたえるその表情は、単なるリスペクトにはとどまらない想いが見え隠れしていた。

「ま、彼女には一度会ってみたかったんだ。ちょうどいい機会だな」
『出会っていきなり口説こうとするんじゃないわよ。みっともないから』
「失敬な。俺が何時そんなことした?」
『閑岱で瑪瑙色のコートの……』
「ばっ、バカそれ以上言うな!思い出させるな!」

 慌てて左腕を振り回し、手首に絡みつく相棒を黙らせる。

「……機会、か」
『ん、なぁに?』

 ふと、小さく呟く声に、ナディアが問いかける

「…なんでもないさ」
『……そう?』


(……あの場所は…南の管轄だったな。……立ち寄って……みるか……)


 心の言葉は、ナディアには伝えずに、魔界道を歩く足を少し速める。

 南への出口は、すぐそこであった。




   -つづく-



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 助っ人出発編最後は、水晶騎士こと透くん。
 北の管轄は鋼牙をはじめいい人材に事欠きませんw

 ネタ的な意味で(ぉぃ

 劇中で触れた、共闘した魔戒騎士とは、マイミクであるかぼ氏の生み出したキャラクター、菫青騎士・誠牙こと帯刀誠太郎くんのこと。
 共闘エピソード自体は、これまたマイミクの小笠原氏の執筆中のSS「紫紺の鉄拳」のことです。(リンク先、要mixiアカウント)

 さて、南に集う若き魔戒騎士たち。

 その出会いは、彼らに何をもたらすのか。

 そして、緑青騎士は……?


 次回より、本編再開です!