あの日から、数日が経過した。
エイジを狙っての<組織>の襲撃はあれ以来、無い。
彼にとっては、力を自覚してからは初めてとも言える平穏を手に入れていたのだが……
彼にとっては、力を自覚してからは初めてとも言える平穏を手に入れていたのだが……
「……ふぅ」
その心は、穏やかとは言いがたかった。
自分自身の身の秘密……人の身ならざる<身体>のこと、自分を狙う組織のこと。
話さなければならないことが、あった。
しかし、その話を聞いて欲しい友は、耳を貸す気配が無い。
話さなければならないことが、あった。
しかし、その話を聞いて欲しい友は、耳を貸す気配が無い。
「どうした……ものかな」
いっそ目の前で変身でもしてやれば幾分簡単なのだろうが、今はそれすらもままならない。
あの後、何度か<変身>を試みたが、その身体には何の変化も顕れなかった。おそらくは何かきっかけが必要なのだろうが……その「きっかけ」がなんであるか、エイジ自身、それを把握しきれずにいた。
過去2度における変身のきっかけは確かに<怒り>ではあったが、怒りの感情などそう簡単に引き出せるものでもない。それに、2度目の変身はかなり不安定なものだった。「きっかけ」だけではない。その変身を維持するための「何か」も要るのだろう。
あの後、何度か<変身>を試みたが、その身体には何の変化も顕れなかった。おそらくは何かきっかけが必要なのだろうが……その「きっかけ」がなんであるか、エイジ自身、それを把握しきれずにいた。
過去2度における変身のきっかけは確かに<怒り>ではあったが、怒りの感情などそう簡単に引き出せるものでもない。それに、2度目の変身はかなり不安定なものだった。「きっかけ」だけではない。その変身を維持するための「何か」も要るのだろう。
「だめだな。こう暗くなってちゃ、結花が心配する」
苦笑して、手に提げたビニール袋を持ち直す。ここ数日はエイジが買出しを担当していた。いつぞやの怪人の仲間……<組織>の追っ手が潜んでいる可能性も考え、探索も含めての外出だったのだが、今日もその気配は感じられなかった。
「あきらめた……のか?」
ふと口をついてでた言葉を、しかし彼は首を横に振って否定する。カマキリを模した2体の怪人は、<ジェノサイドロイド>たる自分を重要なファクターとして認識していた。<ジェノサイドロイド>が組織に必要なものなら、如何なる手段をとろうともこの身を奪いに来るはずだ。
―――例えば、自分を匿っているあの兄妹に手を出す……という手段でも。
「……!?」
ダイモンガレージに到着したエイジは、眼前に広がった惨状に目を見開いた。
表側に面したショーウィンドウは無残に砕かれ、分厚いガラスの破片が店内に散らばっている。いつも達也が丁寧に磨いていたバイクたちは傷だらけで転がっていて、ところどころ血糊も付着していた。
「!? 達也! 結花ッ!!」
ビニール袋を放り出し、店内に駆け込む。声を張り上げても返事は返って来ない。と、飛び込んだエイジの足元に、見覚えのある布切れが落ちていた。
「これは……結花の!?」
活発な彼女のトレードマークたるポニーテールを結っていた黄色のスカーフだった。
活発な彼女のトレードマークたるポニーテールを結っていた黄色のスカーフだった。
「エ……エイジ……か?」
「!?」
「!?」
と、背後から呻くような声が聞こえる。
「達也!」
作業着姿の達也が、よろよろと奥からやって来た。
作業着姿の達也が、よろよろと奥からやって来た。
「何があった!?」
「結花が……」
震える指が差す先へ視線を向けると、予定表を書くホワイトボードに、赤黒い血で走り書きがなされていた。
「結花が……」
震える指が差す先へ視線を向けると、予定表を書くホワイトボードに、赤黒い血で走り書きがなされていた。
「街外れの石切り場……」
メッセージは十中八九、組織からエイジに向けられたものだろう。想定していた事態がこうも早く訪れたことにエイジは奥歯を噛み締める。達也たちをもっと見ておくべきだった……後悔が胸の中を渦巻く。
「っ!」
「待てエイジ……!」
「待てエイジ……!」
飛び出そうとしたエイジを、達也の声が呼び止める。
「俺も行くぞ……」
「無茶だ、そんな傷だらけの身体で……」
倒れそうになる達也の身体を支えるエイジ。が、達也は「なんのっ」と足を一歩踏み込み、しっかりと立ち上がる。
「無茶だ、そんな傷だらけの身体で……」
倒れそうになる達也の身体を支えるエイジ。が、達也は「なんのっ」と足を一歩踏み込み、しっかりと立ち上がる。
「ナメんな。こー見えても結構鍛えてるんでな。こんなもんカスリ傷だ」
ニヤリ、と笑ってみせる達也。脂汗こそ額ににじんでいたが、その笑みは自信に満ち溢れていた。
「先に行くんじゃねえぞ」
こっそりと出ようとしたエイジに達也が釘を刺す。
こっそりと出ようとしたエイジに達也が釘を刺す。
「だが……あいつらは達也の手に負えるような……」
「でも、いかなきゃならねぇ」
「でも、いかなきゃならねぇ」
芯の通った声が、エイジの腹に響く。
「たった一人の兄妹だから……な」
その目は、強さと優しさをたたえ、きらめく。
「俺はアイツのアニキで……ヒーローなのさ」
「ヒーロー……?」
「ヒーロー……?」
ああ、とうなづき、達也が笑う。
唐突に出てきた単語に、知らないと答えると、達也は昔を思い出すように目を細めた。
「俺らがガキの時分にやってたテレビ番組でな……仮面を被ってバイクに乗ったイカしたヤツが、悪いやつらをバッタバッタと倒していくのさ。俺と結花はそれが大好きでよ、しょっちゅう一緒に見てたんだ」
悪の組織に改造された主人公が、その力を駆使して悪の組織に戦いを挑む。
「……」
どこと無く自分の境遇に似ていると思ったエイジが、小さく息を呑んだ。
どこと無く自分の境遇に似ていると思ったエイジが、小さく息を呑んだ。
「で、約束したのさ。俺がお前のヒーローに……仮面ライダーになって、守ってやるってな」
だから、こんなところで寝てられねぇ。
そう言って、達也がエイジにヘルメットを投げよこす。
「行こうぜ」
「……ああ」
「……ああ」
足元に転がっていたバイクを起こし、エイジが跨る。
二つのエンジン音が轟き、ヘッドライトの輝きが夕日に染まる赤い空を切り裂いた。
-つづく-
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主人公の知り合いがさらわれたり、決戦の場所が石切り場なのはよくあることです。昭和ライダー的な意味で(ぇ