炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【ダブルSS】Sとの邂逅/エピソード・ビギンズ

「……仕事でガイアメモリは使わない主義なんだがな」

 それは美学。あるいは矜持。

「……そうも言っていられんか」

 だが時にそれは、理不尽にも踏みにじられる。

「坊主……下がってな」

 しかし“彼”の心はくすまない。今、男の背中には護るべき街と、命があるから。
 帽子を脱ぎ、いつの間にか手の中に握った<ガイアメモリ>……その起動スイッチを押す。


   -SKULL-


 野太い男性のような電子音声……ガイアウィスパーが響く。

「……変身っ」

 静かに、それでいて力強くはっせられた声とともに、ガイアメモリを腰の<ロストドライバー>に差込……倒す。

 次の瞬間、彼の身体を黒衣が覆い、その素顔は髑髏を模した仮面に隠される。

「さぁ……」

 手にしていた帽子を被りなおし、男は……否、<スカル>は、対峙する怪人……<ドーパント>にこう言い放つのだ。

「お前の罪を、数えろ……!」




     仮面ライダーW/KAMEN RIDER DOUBLE
     Sとの邂逅/エピソード・ビギンズ




「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 ドーパント…その根幹を成すガイアメモリを破壊し、用は済んだとばかりに去ろうとする男を、青年は慌てて呼び止めた。

「なんだ坊主……まだいたのか?」
「坊主じゃねえ! オレは左、左翔太郎だ。……それよりアンタ、探偵だろ?」

 翔太郎という青年……少年? の問いに、嘘をつく必要も理由も無いので、ああと頷く。

「たのむっ! オレを……オレをあんたの弟子にしてくれ!!!」
「?」
 青年に向き直り、その顔を見る。ドーパント事件に巻き込まれ、いくつかケガをおっていたが、それでもなおその瞳は力強く輝いていた。

「……他所をあたりな。俺は弟子はとらん」

 ため息混じりに呟いて、男は踵を返す。

「えっ……ちょ、待ってくれって! あんたじゃなきゃダメなんだ! オレは……」
「……一つだけ、言っておく」

 振り返ることなく、男が言い放つ。

「ガキの遊びじゃねえんだ。死にたくなけりゃ、おとなしく引っ込んでな」

 それだけ言って、男は歩き去る。
 翔太郎はその大きな背中を、見ていることしかできなかった。



    * * *



 ―――翌日。

「……うん?」

 激しい物音に、英文タイプライターを叩く指先から視線を話す。

「……よーやく……見つけたぜ……鳴海荘吉!」
「お前は……この間の坊主か」

 坊主じゃねえ、左翔太郎だ! と憤る青年に、壮吉と呼ばれた男は小さくため息をこぼした。

「ちょっとばかり調べさせてもらったぜ。鳴海荘吉……ここ風都じゃ相当名の知れた私立探偵。警察が扱わねえような厄介な事件……ガイアメモリだっけか?……そーいうのも関わって、今じゃ『困ったことがあったら鳴海探偵所へ行け』って程らしいな」
 どや顔で口を開く翔太郎。まぁ、その程度ならすぐ調べれば判ることだ。別に自分の仕事を隠しているわけでもない。

「だったらどうした……俺に依頼か?」
「依頼…っちゃ依頼だな。オレをあんたの弟子にして欲しいんだ」

 またその話か。荘吉はうんざりしたように眉をひそめる。

「昨日断ったのが聞こえなかったのか坊主?」
「だから坊主じゃ―――」
「身の程も弁えねぇヤツは坊主で十分だ」

 憮然とした表情の翔太郎の頭をぐっと掴み、力を込める。

「いいか。昨日も言ったが探偵はお遊びじゃねえ。生半可な覚悟で首突っ込まれても迷惑だ。昨日も大方、たまたま事件を見かけて面白半分で首を突っ込んだんだろう? 命張る覚悟のねえガキが粋がって死んだら何も残らねえ」
「面白半分なんかじゃねえ……覚悟だって、生半可なもんかよ!」
 睨み付ける壮吉の眼力に気圧されながらも、翔太郎は負けじと睨みつける。

「オレはこの風都が好きなんだ! 風都に住んでる人たちもな! そいつらや、風都そのものが泣いてるって知ってて、何もしないなんて、そんなことオレにはできねえ!」
「人助けがしたければ警察でもできるだろう」
「警察じゃできねえことを、あんたはやってる。俺は……あんたみたいな男に成りたいんだ!!!」

 昨日も見た、澄んだ瞳の光が、しっかりと荘吉を睨みつける。
(……いい目をしてやがる)

 率直に、荘吉がそんな感想を抱く。

(だが……それ故に……脆い)

 この青年はまっすぐで純粋で……純粋すぎるのだ。もし愛する街に裏切られたとき……折れてしまいかねない。

(とんだ半熟野郎だ……)

 我知らず、荘吉の口元に笑みが浮かぶ。
 もしかしたら、長い風都暮らしの中で、彼は始めて出逢ったのかもしれない。

 心から、この街を愛していると―――臆面もなく口にできる男に。

(この半熟野郎を……俺の手で鍛え上げるってのも……一興かもしれねえな)

「俺みたいな男だと? 10年……いや20年早いな」
「なんっ―――」

(いや……お前は俺になる必要はない……お前のまま、強くなれ)

 願いを口に出さず、ぐりぐりと翔太郎の頭を撫でる。

「まずはコーヒーでも淹れてもらおうか。俺の事務所にいたいなら、必須技能だ」
「……!?」
「オイ、なにをぼさっとしてる。コーヒーを淹れたら、先ずは初歩の初歩から叩き込んでやる……翔太郎」

 今度はしっかりと、笑みを浮かべて翔太郎を見る。と、見る間に翔太郎の表情が明るくなり、大きく頷いた。


 ・
 ・
 ・

「翔太郎、出るぞ」
「あいよ、おやっさん!」

 ―――それから、幾ヶ月。

 ハードボイルド探偵が子連れになった……などと妙な噂を立てられつつも、荘吉は翔太郎とともに風都を往く。
 この街に、似合わぬ涙をぬぐう為に。

「オイ、翔太郎」
「何―――あでぇっ!?」

 荘吉が翔太郎の額を小突き、頭に乗っかった中折れ帽を取り上げる。

「帽子を被るには、まだ早すぎる」
「えぇーっ!?」

 ぶーたれる翔太郎だったが、ギロリ、と睨みつけられて言葉を詰まらせる。

「格好気にする前に事件の資料、頭に叩っこんどけ。その頭が帽子を載せる飾りじゃねえところ、俺に見せてみな」
「わぁったよ、おやっさん!」

 鼻を鳴らし、勢いよく事務所の扉を開く。


 疾風が、二人の間を吹きぬけた。



   -fin-



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 そのうち本編で語られそうで気が気じゃない、翔太郎とおやっさんの出会いエピソード。
 ぶっちゃけますと、冒頭のスカルの変身シーンがやりたかったんですw

 最近、変身シーンを文章化するのがひそかなブームなのでwww

 とりあえずおやっさんのハードボイルドっぷりが表現できたか否かが最大のネックかな……翔太郎はハーフボイルドだし、あんなでいいかもですが(マテ

 可能なら「ザ・ロング・グッドバイ」あたりから名台詞を使おうかとも思ったんですが、タイミングに恵まれず断念……orz

 というか、掌編でそれを狙うのはちょっと大変ですね(滝汗

(5/14修正。小笠原氏の提案で一箇所、「ロンググッドバイ」からのセリフをオマージュしたものに変えました。どこかはナイショw)