「……仕事でガイアメモリは使わない主義なんだがな」
それは美学。あるいは矜持。
「……そうも言っていられんか」
だが時にそれは、理不尽にも踏みにじられる。
「坊主……下がってな」
しかし“彼”の心はくすまない。今、男の背中には護るべき街と、命があるから。
帽子を脱ぎ、いつの間にか手の中に握った<ガイアメモリ>……その起動スイッチを押す。
帽子を脱ぎ、いつの間にか手の中に握った<ガイアメモリ>……その起動スイッチを押す。
-SKULL-
野太い男性のような電子音声……ガイアウィスパーが響く。
「……変身っ」
静かに、それでいて力強くはっせられた声とともに、ガイアメモリを腰の<ロストドライバー>に差込……倒す。
次の瞬間、彼の身体を黒衣が覆い、その素顔は髑髏を模した仮面に隠される。
「さぁ……」
手にしていた帽子を被りなおし、男は……否、<スカル>は、対峙する怪人……<ドーパント>にこう言い放つのだ。
「お前の罪を、数えろ……!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ドーパント…その根幹を成すガイアメモリを破壊し、用は済んだとばかりに去ろうとする男を、青年は慌てて呼び止めた。
「なんだ坊主……まだいたのか?」
「坊主じゃねえ! オレは左、左翔太郎だ。……それよりアンタ、探偵だろ?」
「坊主じゃねえ! オレは左、左翔太郎だ。……それよりアンタ、探偵だろ?」
翔太郎という青年……少年? の問いに、嘘をつく必要も理由も無いので、ああと頷く。
「……他所をあたりな。俺は弟子はとらん」
ため息混じりに呟いて、男は踵を返す。
「えっ……ちょ、待ってくれって! あんたじゃなきゃダメなんだ! オレは……」
「……一つだけ、言っておく」
「……一つだけ、言っておく」
振り返ることなく、男が言い放つ。
「ガキの遊びじゃねえんだ。死にたくなけりゃ、おとなしく引っ込んでな」
それだけ言って、男は歩き去る。
翔太郎はその大きな背中を、見ていることしかできなかった。
翔太郎はその大きな背中を、見ていることしかできなかった。
* * *
―――翌日。
「……うん?」
激しい物音に、英文タイプライターを叩く指先から視線を話す。
「……よーやく……見つけたぜ……鳴海荘吉!」
「お前は……この間の坊主か」
「お前は……この間の坊主か」
坊主じゃねえ、左翔太郎だ! と憤る青年に、壮吉と呼ばれた男は小さくため息をこぼした。
「ちょっとばかり調べさせてもらったぜ。鳴海荘吉……ここ風都じゃ相当名の知れた私立探偵。警察が扱わねえような厄介な事件……ガイアメモリだっけか?……そーいうのも関わって、今じゃ『困ったことがあったら鳴海探偵所へ行け』って程らしいな」
どや顔で口を開く翔太郎。まぁ、その程度ならすぐ調べれば判ることだ。別に自分の仕事を隠しているわけでもない。
どや顔で口を開く翔太郎。まぁ、その程度ならすぐ調べれば判ることだ。別に自分の仕事を隠しているわけでもない。
「だったらどうした……俺に依頼か?」
「依頼…っちゃ依頼だな。オレをあんたの弟子にして欲しいんだ」
「依頼…っちゃ依頼だな。オレをあんたの弟子にして欲しいんだ」
またその話か。荘吉はうんざりしたように眉をひそめる。
「昨日断ったのが聞こえなかったのか坊主?」
「だから坊主じゃ―――」
「身の程も弁えねぇヤツは坊主で十分だ」
「だから坊主じゃ―――」
「身の程も弁えねぇヤツは坊主で十分だ」
憮然とした表情の翔太郎の頭をぐっと掴み、力を込める。
「いいか。昨日も言ったが探偵はお遊びじゃねえ。生半可な覚悟で首突っ込まれても迷惑だ。昨日も大方、たまたま事件を見かけて面白半分で首を突っ込んだんだろう? 命張る覚悟のねえガキが粋がって死んだら何も残らねえ」
「面白半分なんかじゃねえ……覚悟だって、生半可なもんかよ!」
睨み付ける壮吉の眼力に気圧されながらも、翔太郎は負けじと睨みつける。
「面白半分なんかじゃねえ……覚悟だって、生半可なもんかよ!」
睨み付ける壮吉の眼力に気圧されながらも、翔太郎は負けじと睨みつける。
「オレはこの風都が好きなんだ! 風都に住んでる人たちもな! そいつらや、風都そのものが泣いてるって知ってて、何もしないなんて、そんなことオレにはできねえ!」
「人助けがしたければ警察でもできるだろう」
「警察じゃできねえことを、あんたはやってる。俺は……あんたみたいな男に成りたいんだ!!!」
「人助けがしたければ警察でもできるだろう」
「警察じゃできねえことを、あんたはやってる。俺は……あんたみたいな男に成りたいんだ!!!」
昨日も見た、澄んだ瞳の光が、しっかりと荘吉を睨みつける。
(……いい目をしてやがる)
(……いい目をしてやがる)
率直に、荘吉がそんな感想を抱く。
(だが……それ故に……脆い)
この青年はまっすぐで純粋で……純粋すぎるのだ。もし愛する街に裏切られたとき……折れてしまいかねない。
(とんだ半熟野郎だ……)
我知らず、荘吉の口元に笑みが浮かぶ。
もしかしたら、長い風都暮らしの中で、彼は始めて出逢ったのかもしれない。
もしかしたら、長い風都暮らしの中で、彼は始めて出逢ったのかもしれない。
心から、この街を愛していると―――臆面もなく口にできる男に。
(この半熟野郎を……俺の手で鍛え上げるってのも……一興かもしれねえな)
「俺みたいな男だと? 10年……いや20年早いな」
「なんっ―――」
「なんっ―――」
(いや……お前は俺になる必要はない……お前のまま、強くなれ)
願いを口に出さず、ぐりぐりと翔太郎の頭を撫でる。
「まずはコーヒーでも淹れてもらおうか。俺の事務所にいたいなら、必須技能だ」
「……!?」
「オイ、なにをぼさっとしてる。コーヒーを淹れたら、先ずは初歩の初歩から叩き込んでやる……翔太郎」
「……!?」
「オイ、なにをぼさっとしてる。コーヒーを淹れたら、先ずは初歩の初歩から叩き込んでやる……翔太郎」
今度はしっかりと、笑みを浮かべて翔太郎を見る。と、見る間に翔太郎の表情が明るくなり、大きく頷いた。
・
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―――それから、幾ヶ月。
ハードボイルド探偵が子連れになった……などと妙な噂を立てられつつも、荘吉は翔太郎とともに風都を往く。
この街に、似合わぬ涙をぬぐう為に。
この街に、似合わぬ涙をぬぐう為に。
「オイ、翔太郎」
「何―――あでぇっ!?」
「何―――あでぇっ!?」
荘吉が翔太郎の額を小突き、頭に乗っかった中折れ帽を取り上げる。
「帽子を被るには、まだ早すぎる」
「えぇーっ!?」
「えぇーっ!?」
ぶーたれる翔太郎だったが、ギロリ、と睨みつけられて言葉を詰まらせる。
鼻を鳴らし、勢いよく事務所の扉を開く。
疾風が、二人の間を吹きぬけた。
-fin-
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最近、変身シーンを文章化するのがひそかなブームなのでwww
とりあえずおやっさんのハードボイルドっぷりが表現できたか否かが最大のネックかな……翔太郎はハーフボイルドだし、あんなでいいかもですが(マテ
可能なら「ザ・ロング・グッドバイ」あたりから名台詞を使おうかとも思ったんですが、タイミングに恵まれず断念……orz
というか、掌編でそれを狙うのはちょっと大変ですね(滝汗
(5/14修正。小笠原氏の提案で一箇所、「ロンググッドバイ」からのセリフをオマージュしたものに変えました。どこかはナイショw)