「確かに<ホラー>のメモリだったのね?」
翌日。
探偵事務所に併設されたガレージで作業をしているマスクとサングラスで顔を隠した女……<シュラウド>と名乗る……に事情を説明した荘吉は、ガイアメモリの専門家たる彼女の意見を伺った。
「それなら、私が手がけていたメモリだからよく覚えているわ」
組み立て中のパーツを雑把に片付け、分厚いファイルを取り出すと、真ん中あたりのページを開いて見せた。
「ホラー……恐怖や戦慄の記憶。対峙した相手が抱く恐怖の対象をヴィジョンとして映し出し、その恐怖心を増幅させ恐慌状態にさせる能力を持っているわ」
シュラウドに曰く、かつて<テラー>のメモリを開発する際のテストベッドとして開発されたものらしい。
「もっとも、精神干渉能力は天地ほどの差があるけれど。貴方くらいならびくともしないでしょうね。怖いもの知らずの探偵さん?」
「それは買いかぶりだな。俺にも怖いものくらいはあるさ」
「あら、なにかしら?」
そうだな……と呟く荘吉。そういえば、そろそろ買い置きが切れ掛かる頃だったか。
「……今は、熱いコーヒーが怖いな」
「それで、あなたの話だと……」
荘吉としてはかなりがんばったつもりの冗談だったのだが、すげなくスルーされ、小さく苦笑する。
いつからか芸名じみた名前を名乗り始めた幼なじみ、園咲文音。もう随分と笑顔を見ていない荘吉であったが、復讐心に駆られた彼女に、それを取り戻させるのはまだ難いようであった。
「……ちょっと、聞いてるの?」
「ああ、済まん。……確かに、その資料のとおりならだが、実際に俺が見たのは、“実体を伴ったヴィジョン”だった」
ゆがみ、えぐられた壁や床を思い出す。幻覚の類が、物理的な破壊を引き起こすのは、いかなガイアメモリによるものでも不可能……とは、シュラウドの弁である。
「考えられる可能性としては……偶々ホラーメモリの使用者の適合率が高く、それによってドーパントとしての能力が強化されたか……あるいは……」
言葉をつむぎかけた口を、呼び鈴の音が閉ざす。
「おっと、来客か。……講釈の続きはまた後だ」
ガレージと事務所を結ぶ扉から、するりと荘吉の体が消えた。
*
「とあるモノを探している」
事務所のドアを開けたとたんに、力強さを感じる声が荘吉の耳朶を打つ。
「……力を貸してくれないか」
白いコートをまとった屈強な男が、鋭い眼光を荘吉の瞳に向けた。
*
「……そう、あるいは」
自分以外誰も居ないガレージで、シュラウドの独り言がぽつんと響く。
「何らかの外的要素が、ガイアメモリに加わった……か」
サングラスの奥の双眸は、内に秘めたる何もかもを誰にも気取られること無く、黒く佇んでいた。
-つづく-
「スカル メッセージ for ダブル」でのコーヒーを焦がしちゃうシーンみたく、ちょっとお茶目(?)な部分もあってこそのハードボイルドおやっさんだと思うのです。
シュラウドかーさんはいつまで幽霊役(ぉぃ)してたかはわかりませんが(そもそもこの作品の時系列自体かなりあやふやにしてますw)マツ亡き後の相棒ポジ(ガイアメモリがらみ限定)を担ってたんじゃないかなーと勝手に妄想した結果がこれだよ!(ぇ
さて、いつもだと大河パパ出てきたところでぶった切るのが私の手法なのですが、さすがにワンパタにもほどがあるだろうとセルフ突っ込み入ったので。
ものっそいシュラウドさんが意味深ですが、現時点ではこのシーンを最後に登場予定がなくなるという不憫ぶりw
やっぱ芸名じゃだめなんですよきっと(ぇ
さて、とりあえずネタ妄想時点でのストックはここまで。
あとは地道にプロットを練りつつ、明日以降は違う作品をUPしていく予定でありんす。