「うー、寒ぃ……」
上着の襟を立てて、翔太郎が肩を震わせる。
「コートくらい着込むべきだったね翔太郎。少しは僕を見習い給えよ」
「……いや、それはさすがに着込みすぎだろ。雪だるまみてーだぞフィリップ……」
まん丸と着膨れしたフィリップをジト汗滲ませ眺める翔太郎。その隣を晴れ着姿の女性がしずしずと歩く。
「しっかし、馬子にも衣装たぁよく言ったもんだぜ。どこの七五三だ、亜希子?」
「誰が七五三じゃ!」
すぺーん、とスリッパの小気味いい音が翔太郎の頭で弾けた。
――年が明け、鳴海探偵事務所の面々は初詣に風花神社へと向かう最中である。
「左の言うことにも一理あるな……どうだ所長、千歳飴でも買っておくか?」
「竜くんまで!?」
冗談だ。と含み笑いを浮かべるのは、亜希子の夫・照井竜だ。
「っていうか、照井よ。おまえ警官だろ? 正月休みとかもらえんの?」
「……俺に質問をするな」
正月早々、大騒ぎをしながら神社への道を進む4人。
そんな彼らの後姿を、視線の端に眺めている人影があった。
「……そうか。なにやらにぎやかだと思ってたら、もう年が明けたのか」
『お前さんたちにとっちゃ、盆暮れ正月なんか無縁の存在だからなァ』
一人分の人影から、二人分の声が聞こえる。
人影……男の左手に、銀色の指輪が鈍く光った。
*
「あ……そういえばさぁ」
「んー?」
背後からの視線に気づくことなく、ふと思い出したように亜希子が口を開く。
「お父さん……あれからまた再会できたのかな? あの大河って人と」
「……どうだろうな」
大掃除の最中に見つけたあの報告書に記されていた、<冴島大河>なる人物には、翔太郎もフィリップも覚えがなかった。
「私は……たぶん会えたって思うな。……ううん、会えたよ」
父が朋友と交わした約束は、必ず果たされている。
そう信じ、亜希子は空を仰ぐ。冬の澄んだ空気に映し出された青は、どこまでも高く。
「……だな。娘のお前が言うんだ。そうなんだろうよ」
ふっと、翔太郎が微笑んで、同じく空を見上げた。
*
『……ん?』
「どうした、ザルバ」
男の指にはめられた指輪……魔導輪ザルバが、彼の見ていた後姿に違和感を抱く。
『いや、あいつら……どっかで見たような気がしてな』
「見た? だがお前は……」
彼の相棒たる魔導輪は、とある戦いの中での傷がもとで、それまでの記憶を喪っているはずであった。
『だから、“気がした”ってだけさ。不意に懐かしさを感じるなんて、人間にだって良くあることだろう?』
デジャ・ヴュ、っつったっけ? とザルバが目を細める。
「……そう、か」
改めて“彼ら”の後姿を眺める。そのうちの一人に、妙な懐かしさを、男は憶えた。
『さぁ、て。あんまりのんびりもしてられねえぞ。正月だからってホラーは休んじゃくれないからな』
「解っている」
ザルバの軽口に、少しむっとしたのか、ぶっきらぼうに返す男。
『さっさと終わらせて帰ろうぜ……鋼牙』
ザルバが促し、男は……冴島鋼牙は「ああ」と頷き、歩き出す。
背を向け、反対方向に歩く鋼牙と翔太郎たちの間に、冷たく透き通った風が吹き抜けた。
-了-
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実はエピローグまで書けてたので、日付変わってさっそくうp
たぶん1日1本の自分ルールスレスレなので、今後多用することはない……と思いたいw
さて、いぶし銀たちの夢の競演なんつー電波をしかも年末のクソ忙しいタイミングで受信した結果執筆開始と相成った本作品。
どうにか完結に至りました。
つーか渋い。ハード。そしてボイルド。そんでもってエクストリィィィィィィム!(おちつけ
若いヒーローのエネルギッシュな活躍ももちろんかっこいいのですが、この無駄のない凝縮かつ洗練されたスマートなカッコよさもいいんだよなぁ……
と思うのは、僕が年を取ったってことなんでしょうか?(ぇ
このノリをまたどっかで活かしたい……
この二人に、さらにおっさんヒーローを数名追加してドリームチームを作って巨悪にぶつけるというのはどうだろうか?
そう、さながら「リーグ・オブ・レジェンド」のように……
ってのを、誰か書いてくれませんかね?(チラッチラッ
さぁ、次回からは放置している連載作救済プロジェクトを発動しましょう!
さしあたっては「電ゲキ」と「血錆の兇刃」をメインに。
詰まったら都度レジェンド大戦で繋ぐ!(ぉぃ