雲が晴れ、丸い月が顔を出す。
廃ビルを出て、沈みかける月明かりが照らす街の中を、二つの影が歩いていた。
『やぁれやれ、厄介なホラーだったぜ』
ため息混じりに呟くのは、大河の相棒たる指輪。
「確かにな。荘吉の協力がなければ危なかったかも知れん。改めて礼を言おう」
「気にするな」
街を泣かせる奴を見過ごせないだけだ。とぶっきらぼうに答える荘吉に、大河はふっと口の端を持ち上げた。
「……そう言えば」
「うん?」
ふと、荘吉が大河の左手に視線をやる。
「お前の名前を、まだ聞いていなかったな」
『ん?』
視線を向けられ、ザルバがきょとん、となる。
『というか、驚かないんだな。指輪がしゃべってるってのに』
「驚いちゃいるさ。事実は事実だと認識しているまでだ。たとえそれが荒唐無稽な事実だろうとな」
ガイアメモリという荒唐無稽が存在する街では、俺の存在なんて些細なことか。とザルバは嘆息する。
『俺の名前は<ザルバ>だ』
「旧い魔戒語で、“友”という意味だ」
ザルバの自己紹介に、大河が補足する。
「なるほど。通りで……」
「?」
相棒、というよりは親友って感じだ。
そう告げる荘吉に、大河はもう一度破顔した。
「いいもんだな……俺も<ザルバ>になっていいか?」
『と言ってるが……どうする、大河?』
荘吉とザルバが大河を見る。ふむ、とうなづき、ややあって口を開いた。
「……とっくの昔になっていたと思っていたのは、俺だけか?」
少しおどけて言う大河に、荘吉は一度目を丸くして、次の瞬間噴き出した。
「っ……くく……やれやれ、一本取られたな」
ひとしきり笑ったのち、ふぅ、と一息ついて荘吉は大河に向き直った。
「もう行くのか?」
「ああ。俺の仕事はこれで終わりじゃないからな」
探偵と一緒さ。とザルバが笑いながら付け加える。
「次会うときがあったら、今度は酒でも一緒に飲もうか。いい店を知ってる」
「悪くないな。だが、夜は“仕事”がある」
「そうか……じゃ、事務所でコーヒーくらいにしておくか」
他愛ない会話が、二人を笑わせた。
「……じゃあ、行くか。またな、荘吉」
「ああ。じゃあな……大河」
互いに背を向け、歩き出す。
遠ざかる二人の道は、いつかまた重なるときが来るのだろうか。それとも……
ふと、荘吉が振り返る。
東へと歩みを進める大河の頭上に、昇りはじめた朝陽が煌く。
コートをなびかせる風が陽に照らされ――黄金に輝いて見えた。
-つづく-
一応本編は終わりなんですが、次回にエピローグがあるんで-つづく-です。
今回のシーン、平均よりちょっと短めですが(文字数にして1000文字ちょい)、これ以上増やすのはちょっと蛇足かなと判断。
うーん、やっぱり男の友情的なアレコレを書くのは楽しいなあw
同じくらいの頻度で男女のいちゃラブ書きたいんですけど、なかなかうまいこといきませんわw
仕方がないのでその鬱憤を友情で晴らす。BLにアラズ(ここ重要
さて、ベタにベタを次ぐお約束展開のエンドマークに続き、これまたクロスオーバーのお約束ネタ搭載予定のエピローグに、ご期待あれ?