「いい感じの事務所だな。愛着を持っているのが伝わってくる」
「そいつはどうも」
自らを<冴島大河>と名乗った男は、荘吉が淹れたコーヒーを一口啜ったのち、重々しく口を開いた。
「ガイアメモリというものを知っているか」
その単語に、荘吉は軽く眩暈を覚えた。
(またか……)
ガイアメモリによる犯罪……かつての相棒が、その第1号だった……が少しずつ増えていく中、このように荘吉にその存在の有無を問う依頼も少しずつ舞い込むようになっていた。
無論、その全てに“知らぬ存ぜぬ”を貫いてきたのは言うまでもないが。
「……悪いが知らん。他所を当たれ……と言いたい所だが」
大河をひと睨みし、それに臆することない彼に、小さくため息をついて言葉を続ける。
「それには関わらんほうが利口だ。その名のモノを追ったヤツは碌な死に方をしない」
荘吉の脳裏に、人懐っこい笑顔を浮かべる元相棒の姿が浮かんで消えた。
*
「目星をつけていたところが早速空振りとはな」
鳴海探偵事務所を追い出され、大河がひとりごちる。
『まぁ、アレは知ってるって面だったがなァ』
と、彼の左手の指輪が口をきく。その声に左手を眼前に持って行った大河は、「まぁな」と頷いた。
「それも知っているどころじゃあない。随分と深く関わっているだろう」
『とはいえ、あいつから“ホラー”の気配は感じられなかったぜ?』
カチカチ、と歯を鳴らすのは髑髏の様な容貌の指輪……大河の相棒、魔道輪ザルバだ。
「ガイアメモリというのがひとつじゃない、と言うことだろう。あの探偵が知りえない別のガイアメモリがホラーに関わっている、というあたりか」
彼――冴島大河は<魔戒騎士>である。
闇に巣食い、人を喰らう魔獣<ホラー>を追い、狩るのが彼の使命なのだ。
「“地球(ほし)の記憶を喰らいし魔獣、街の恐怖を喰らう”、か……」
口に出した詩篇は、彼をこの街に招いた指令書の一文だ。
『正直見当もつかないがな。地球の記憶なんてもんが、取り出せて形を成してるなんてのは』
「それは俺も同感だ。だが、指令書に不備があったことなどなかっただろう?」
『そりゃそうだ』
フフ、と小さく笑うザルバ。
『しかしサバックで主だった騎士が出払っちまってるとはいえ、<黄金騎士>をここまで遠出させるなんてなァ』
「どこにあろうと俺のやることに変わりはない。まぁ、むしろ俺は“サバック”に出たかった方なんだがな」
サバックとは、魔戒騎士の間で繰り広げられる闘技大会だ。各地から腕利きの魔戒騎士たちが、己の身一つでしのぎを削り、最強を決める聖なる闘いである。
『そいつぁ無理な相談だ。お前さんはすでに最強、黄金騎士の<ガロ>だぜ?』
「わからんぞ? サバックには遠い異国で活躍する魔戒騎士も出場すると聞く。その中には、俺も知らないような戦い方をする奴もいるかも知れん。俺より強い奴だっているはずだ」
サバックの出場者には条件があり、そのひとつとして、最強の称号たる<ガロ>の銘を持つもの……つまり、大河だ……は参加が出来ないのだ。
大河はそれを歯痒く思っている。
「そんな奴らと剣を交えて切磋するのも、また楽しいものだ……俺はそう思う」
『そんなもんかねぇ?』
「そんなもんだ。……さて」
立ち止まった大河が、ふと空を見上げる。街の中心部に聳え立つ風都タワーの風車が、駆け抜ける風を受けて悠然と回っていた。
「おしゃべりはここまでだ。もうじき日が暮れる……奴らと……」
『俺たちの時間、だな』
そういうことだ。と頷いて、大河が再び歩を進める。
白いコートの大きな背中が黄昏の薄明に紛れ、ふっと消えた。
-つづく-
さて、ようやく本編に大河登場。
さて、ツイッターなどの私の呟きをご覧の方は覚えていらっしゃるかと思いますが。
この作品を執筆する前に、両作品の時系列をちょっと検証してみたのです。
どちらも原典での時間軸ではすでに鬼籍に入られていたので、両者とも健在な時期を調べていたんですが……
荘吉がスカルへの変身能力を得たのが1999年。死亡したのが2008年。
一方、大河の死亡時期が推定で1995年前後。
やべぇ合わせられねえ……
しかし!
われわれは知っている!
この状況を打破する言葉を知っている!!
「 ス ペ シ ャ ル や し な ♪ 」
いやん便利。さすがおぼろさんやで!
……さておき。
おやっさんもそうなんですが、大河パパも劇中描写が少なくて困る件。
言動は主に「大河」などからトレースしてるんですが、キャラクターを崩さないように広げていくのはかなり重労働ですのう……
まぁ、それも二次創作の醍醐味! なんですけどもね♪