あたりに散らばるガレキ。巨大ロボットか、はたまた戦艦の残骸か……の破片。
漂うのは血の匂いと、焦げた機械油のにおい。じっとりとした砂埃が、足元を撫で付け、人の歩みを遅らせる。
大いなる戦い……いずれそれは<レジェンド大戦>と呼ばれるであろう、その戦いが終わった。
ある者は張り詰めた糸が切れたように脱力し、
ある者はひとまずとは言えど、勝利に喜び、
ある者は隣に居た戦友と、硬く握手を交わした。
34戦隊・192人。その身に宿した力を喪いながらも、地球を守りぬいた戦士たちは、戦いの中で生まれた新たな絆を確かめ合っていた。
そんな中――
紡がれる絆がある一方で、離れる絆もまた、あったのだ。
「……おっと、そろそろタイムオーバーらしいな」
希薄になった“自分自身”をふと一瞥し……ブラックコンドルこと<結城 凱>がひとりごちた。
After of LEGENDWAR
Episode:JETMAN/羽ばたく絆
「凱……」
そんな彼を悲しげな面持ちで見つめる、ジェットマンの残る四人。
かつて、次元船団バイラムとの戦いをともに潜り抜けた戦友は、その戦いの後、たった一人が手に宿した悪意によって、若い命を散らしていた。
そんな彼は、他のスーパー戦隊の力を借り、一時的に20余年を経た現代に降り立ったのだ。
邪悪から地球を守るために。
それは、本来ならばありえないこと。
さまざまな奇跡が重なり合って起きえた、あってはならないこと。
ゆえに、戦いの終わった地球に、彼の居場所は既になかったのだ。
「……やれやれ、俺がお前たちの前に出てきたときから、こうなることは判りきってたはずだぜ?」
なんてツラしてやがる。と、口悪くなじる凱だが、その声は暖かく柔らかい。
「ああ、そうだ」
ふとタバコを取ろうとした指先がふっと感覚をなくし、行き場をうしなった右手をぶらぶらさせつつ、凱が呟く。
「今のうちに、伝えとくことがいくつかあったんだった……」
凱の視線がまず向いた先は、ブルースワロー・早坂アコだ。
「ヌードルの試供品、真っ先に供えてくれるのはいいんだがな……この間のアレ、納豆味だけはやめとけ。絶対に売れねぇから」
「そ、そんなことないよっ! 社長さんも太鼓判押してくれたんだよ! ホントだって!」
アイドルとして大成し、現在は芸能活動の傍らカップラーメンのプロデュースをしているアコが、鼻を膨らませて力説した。
「雷太。おまえんとこの野菜、どんどん美味くなってるな。また頼むわ」
「あ、ああ……。次はゴーヤを持ってくよ。身体にいいんだぞ……って、凱に“身体にいい”っていうのはどうなのかな……ハハ」
イエローオウルこと大石雷太は、自分の畑をどんどん大きくし、いまやインターネット販売を手がける社長となっている。「商売、しくじんなよ」との凱の言葉に、目を真っ赤にさせて大きく頷いた。
「香……その、なんだ。息子は……元気か?」
「……ええ。なんだか少しずつ貴方に似てきている気がするわ」
ホワイトスワン・鹿鳴館 香……現在は姓が変わっているのだが……が、持っていた家族写真を凱に見せる。夫と子供と寄り添う、かつての想い人はこれ以上ないほどに幸せな微笑を浮かべていて、凱の目が僅かに潤んだ。
「バカ野郎……俺に似ちゃダメだろう。同じなのは名前だけで十分だ」
「ふふ……それもそうね」
ころころと笑う目尻には年齢を感じさせるが、そこにいたのは確かに、愛した女だ。
凱はもう一度、つま先から頭まで、ゆっくりと香の姿を目に焼き付けた。
「……竜」
「ああ……」
最後に視線を交わしたのは、最大のライバルにして、最強の戦友。そして……心友。
「相変わらず、酒は苦手か?」
「そうだな。お前のようにマッカランで一杯、というわけにもいかないよ」
今でもホットミルクが好きよ、と告げる香に「それは言わなくてもいいだろう……」と竜が苦笑交じりに呟いた。
「この間供えてくれた30年もの、美味かったぜ。もう酒の味が判らねえって年でもないんだし、“こっち”に来るまでには酒に慣れといてくれよ。さもなきゃ……」
お前と一緒に、酒が飲めねえからな。
凱の言葉に、竜は一瞬目を丸くし……すぐにその表情を崩す。
「……ああ。ああ、そうだな……。努力してみる……」
「バーカ。そんなもん努力でどうにかするもんでもねえだろう」
鼻を鳴らす凱。と、その輪郭が目に見えて薄まった。
「あぁ、判ってるよ。もうちょっとだ。もうちょっとだけ……」
誰かに言い訳するように呟く凱。その目が、再び仲間たちを見据えた。
「いいかお前ら……これだけは言っておく」
また会えて……お前たちにまた会えて……本当に良かった。
ありがとうよ……
最後の言葉を言い終わった刹那、その姿はすっと掻き消える。
「……凱の奴、似合わないことを……」
空を見上げる竜の頬を、一筋の光が伝う。
どこからともなく、翼の羽ばたく音が聞こえた……ような気がした。
-fin-
またぞろストックが溜まってきたので吐き出し吐き出し。
今回は「消えたブラックの謎」でおなじみ、ジェットマンをフィーチャー。
復活に関連した理由は今回はぼかしつつ、おそらくあったであろう、レジェンド大戦後の、彼らとの2度目の別れを。
あのときの別れは、おそらく残された仲間たちにとっては突然に突然すぎることで。
何もいえることなく、旅立った戦友を見送ったんだろうなぁ、なんて。
ありえない、逝くものへの最後の会話。
本当はもっと、伝えたいこと、聞いてもらいたい事はあるはずなのに。
でもそんなことは、ひょっとしたら凱は望んでいないのかもしれない。
あくまでいつもどおりなやりとりを、望んでたのかなぁ……
なんていろんなことに思いを馳せながら書き殴っておりました。
翼は、永遠に……!