炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【レジェンド大戦】Episode:JETMAN/羽ばたく絆


 あたりに散らばるガレキ。巨大ロボットか、はたまた戦艦の残骸か……の破片。

 漂うのは血の匂いと、焦げた機械油のにおい。じっとりとした砂埃が、足元を撫で付け、人の歩みを遅らせる。

 大いなる戦い……いずれそれは<レジェンド大戦>と呼ばれるであろう、その戦いが終わった。


 ある者は張り詰めた糸が切れたように脱力し、
 ある者はひとまずとは言えど、勝利に喜び、
 ある者は隣に居た戦友と、硬く握手を交わした。


 34戦隊・192人。その身に宿した力を喪いながらも、地球を守りぬいた戦士たちは、戦いの中で生まれた新たな絆を確かめ合っていた。

 そんな中――

 紡がれる絆がある一方で、離れる絆もまた、あったのだ。


「……おっと、そろそろタイムオーバーらしいな」


 希薄になった“自分自身”をふと一瞥し……ブラックコンドルこと<結城 凱>がひとりごちた。




     After of LEGENDWAR
     Episode:JETMAN/羽ばたく絆



「凱……」

 そんな彼を悲しげな面持ちで見つめる、ジェットマンの残る四人。

 かつて、次元船団バイラムとの戦いをともに潜り抜けた戦友は、その戦いの後、たった一人が手に宿した悪意によって、若い命を散らしていた。
 そんな彼は、他のスーパー戦隊の力を借り、一時的に20余年を経た現代に降り立ったのだ。

 邪悪から地球を守るために。

 それは、本来ならばありえないこと。
 さまざまな奇跡が重なり合って起きえた、あってはならないこと。

 ゆえに、戦いの終わった地球に、彼の居場所は既になかったのだ。

「……やれやれ、俺がお前たちの前に出てきたときから、こうなることは判りきってたはずだぜ?」

 なんてツラしてやがる。と、口悪くなじる凱だが、その声は暖かく柔らかい。

「ああ、そうだ」

 ふとタバコを取ろうとした指先がふっと感覚をなくし、行き場をうしなった右手をぶらぶらさせつつ、凱が呟く。

「今のうちに、伝えとくことがいくつかあったんだった……」

 凱の視線がまず向いた先は、ブルースワロー・早坂アコだ。

「ヌードルの試供品、真っ先に供えてくれるのはいいんだがな……この間のアレ、納豆味だけはやめとけ。絶対に売れねぇから」
「そ、そんなことないよっ! 社長さんも太鼓判押してくれたんだよ! ホントだって!」

 アイドルとして大成し、現在は芸能活動の傍らカップラーメンのプロデュースをしているアコが、鼻を膨らませて力説した。

「雷太。おまえんとこの野菜、どんどん美味くなってるな。また頼むわ」
「あ、ああ……。次はゴーヤを持ってくよ。身体にいいんだぞ……って、凱に“身体にいい”っていうのはどうなのかな……ハハ」

 イエローオウルこと大石雷太は、自分の畑をどんどん大きくし、いまやインターネット販売を手がける社長となっている。「商売、しくじんなよ」との凱の言葉に、目を真っ赤にさせて大きく頷いた。

「香……その、なんだ。息子は……元気か?」
「……ええ。なんだか少しずつ貴方に似てきている気がするわ」

 ホワイトスワン・鹿鳴館 香……現在は姓が変わっているのだが……が、持っていた家族写真を凱に見せる。夫と子供と寄り添う、かつての想い人はこれ以上ないほどに幸せな微笑を浮かべていて、凱の目が僅かに潤んだ。

「バカ野郎……俺に似ちゃダメだろう。同じなのは名前だけで十分だ」
「ふふ……それもそうね」

 ころころと笑う目尻には年齢を感じさせるが、そこにいたのは確かに、愛した女だ。
 凱はもう一度、つま先から頭まで、ゆっくりと香の姿を目に焼き付けた。

「……竜」
「ああ……」

 最後に視線を交わしたのは、最大のライバルにして、最強の戦友。そして……心友

「相変わらず、酒は苦手か?」
「そうだな。お前のようにマッカランで一杯、というわけにもいかないよ」

 今でもホットミルクが好きよ、と告げる香に「それは言わなくてもいいだろう……」と竜が苦笑交じりに呟いた。

「この間供えてくれた30年もの、美味かったぜ。もう酒の味が判らねえって年でもないんだし、“こっち”に来るまでには酒に慣れといてくれよ。さもなきゃ……」

 お前と一緒に、酒が飲めねえからな。

 凱の言葉に、竜は一瞬目を丸くし……すぐにその表情を崩す。

「……ああ。ああ、そうだな……。努力してみる……」
「バーカ。そんなもん努力でどうにかするもんでもねえだろう」

 鼻を鳴らす凱。と、その輪郭が目に見えて薄まった。

「あぁ、判ってるよ。もうちょっとだ。もうちょっとだけ……」

 誰かに言い訳するように呟く凱。その目が、再び仲間たちを見据えた。

「いいかお前ら……これだけは言っておく」



  また会えて……お前たちにまた会えて……本当に良かった。
  ありがとうよ……



 最後の言葉を言い終わった刹那、その姿はすっと掻き消える。


「……凱の奴、似合わないことを……」

 空を見上げる竜の頬を、一筋の光が伝う。

 どこからともなく、翼の羽ばたく音が聞こえた……ような気がした。


     -fin-




 またぞろストックが溜まってきたので吐き出し吐き出し。
 今回は「消えたブラックの謎」でおなじみ、ジェットマンをフィーチャー。

 復活に関連した理由は今回はぼかしつつ、おそらくあったであろう、レジェンド大戦後の、彼らとの2度目の別れを。
 あのときの別れは、おそらく残された仲間たちにとっては突然に突然すぎることで。
 何もいえることなく、旅立った戦友を見送ったんだろうなぁ、なんて。

 ありえない、逝くものへの最後の会話。
 本当はもっと、伝えたいこと、聞いてもらいたい事はあるはずなのに。
 でもそんなことは、ひょっとしたら凱は望んでいないのかもしれない。

 あくまでいつもどおりなやりとりを、望んでたのかなぁ……

 なんていろんなことに思いを馳せながら書き殴っておりました。

 翼は、永遠に……!