空は青く青く。そして高く。
入道雲はとうに去り、吹き抜ける風も、幾分涼しくなってきた。
季節は秋。
ここ、<天ノ川学園高校>の空も、それは変わらず。
「う~……」
その片隅……部室棟のさらにその一角で、リーゼントに短ラン姿の少年が、机に突っ伏していた。
「きーさーらーぎー」
不意に部室の扉が開き、幸薄そうな男が顔を出す。如月と呼ばれた少年がけだるそうに視線を彼に向けると、男……どうやら教師のようだ……はずいっと、洋半紙のプリントを突きつけた。
「お前だけだぞ。ウチのクラスで進路希望表提出して無いの。いま何月だと思ってるんだ、ああん?」
「あー……すんません先生。もーちょっとだけ待っててください……」
「ったく、じゃあ明後日までに出せよ。せめて進学か就職かだけでもいいからな。たのむぞ如月」
パチン、とサスペンダーを弾き、教師は部室を後にした。
「ありゃ? ゲンちゃん進路まだ決めてなかったの?」
「おう。まーな……」
ゲンちゃん……<如月弦太朗>……に問いかけるのは、彼の幼馴染にして、この部……<仮面ライダー部>の部長を務める<城島ユウキ>である。
「意外だな。こういうことに関してはそれこそスパッと決めるもんだと思っていたが」
「そうか? 俺だって結構悩む人間だぜ?」
ライダー部部員にして、いまや弦太朗の無二の親友である<歌星健吾>がそう言うと、弦太朗は小さく微苦笑した。
「自分の人生、将来のこったもんな……。あ、そういや二人とももう進路決まってるんだろ?」
弦太朗の問いかけに、二人は当然、とうなづいた。
「京都の大学へ進学だ。父さんや江本教授……それに理事長が目指したものを、引き継がなきゃならないしな」
「私はとーぜん、JAXAね。選抜試験が、いろいろあって後回しになってたけど、日向さんが掛け合ってくれてたんだ~」
二人の前にある道は、確固たるもののようだ。弦太朗は、そんな二人をどこか眩しそうに見た。
「……そっか。ちゃんと見えてんだな、自分の未来」
「君だっておぼろげでも見えてるんじゃないのか? じゃなきゃ突然俺に勉強教えてくれ! なんて真剣な顔して言ってこないだろう?」
「あーいや、それは……」
言葉に詰まる弦太朗である。もちろんその面がなかったとは言わない。
理由の8割方が直近の中間考査でこれ以上赤点が取れなかった、というのがあったりはするが。
「……悪ぃ、今日はもう帰るわ」
ふと弦太朗はそう言って、部室を出て行った。
「ちょ、ゲンちゃん?」
「……珍しく相当悩んでるみたいだな。何か力になれればいいんだが……」
閉じた扉の向こうの、短ランの背中を見送って、ユウキと健吾は小さくため息をついた。
・
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「未来、か……」
遠く、沈みかける陽を横目に、ため息ひとつ。
「もう決まっちまってんのかな、俺の“未来”……」
短ランの内ポケットから、弦太朗は一枚の写真を取り出した。
そこに映っているのは、今より少しだけ年を取ったらしい、スーツ姿の自分自身と、天高の制服に身を包んだ生徒たちの集合写真。
いまや学園の全員と“ダチ”となった弦太朗にとって、その“クラスメイト”は見覚えのない者たちであった。
「やっぱアレ、未来の俺……なんだよな」
数日前のことだ。
登校中に突然何者かに土手に引っ張り込まれたと思ったら、そこにいたのは自分自身であった。
――悪ィ、フォーゼドライバー貸してくれ!
なぜ“自分”が持っているはずのフォーゼドライバーを貸す必要があったのか、結局わからずじまいで。
そのあと、知らない青年からドライバーを返され、その時も結局聞けずじまいではあった。
“彼”は、自分のことを未来から来た……とは言わなかったが、彼が持っていたであろう写真。そして青年に渡されたフォーゼのマークがあしらわれた不思議な指輪の存在が、なんとなく弦太朗にその確信を抱かせていた。
「教師……かぁ?」
だとして、それでいいのだろうか。
定められてしまった未来を、そのまま歩んでいいのだろうか?
でも、だからといってじゃあ何を目指せばいいのか。
思考の渦に押しつぶされそうになる。
「……ぁああっ、うぉぉぉぉっ!」
それを振り切るように、弦太朗が地を蹴って走り出した。
-つづく-
フォーゼ側のテーマに「進路」を盛り込むのは企画段階からの決定事項でした。
「アルティメイタム」で確定してたゲンちゃんの進路が決まるキッカケにゴーバス組を絡ませる目的で。
まぁ実際のトコ「アルティメイタム」で理由付けされてしまったのでどないしたもんかなー
ゲンちゃんの両親ネタで絡めれないかなーとおもったら弁護士と代議士らしいしなー……
とまぁ、ずいぶんとアテが外れた展開になっておりましたw
まぁ、かなりゴーインな感じになりそうですが、ひとまず纏まりそう……まとまるよね?
※2013年4月19日初出
<追記>
や、後日談するなら外せない要素なので突っ込めませんが。
まぁ、二次創作ならではのアプローチってことで、この作品ではあえて無視ぶっちぎって行きます。どうぞよろしく。