果たして晴人……魔法使い<ウィザード>となった……が現場に到着すると、そこは死屍累々を具現化した場であった。
「な……なんだこれは!?」
倒れ伏した人影……しかしそのどれも奇怪なシルエットで、一目で“人間ではない”とわかる。
「ファントムの……死体?」
自分以外の魔法使いか、あるいは別の何かによるものか……。
ともかく調べようと手近な死体に近づこうとした晴人が、背後からの猛烈な殺気を察し跳び退いた。
「っフェニックス!?」
「てめえの仕業かあ、魔法使いッ!!!」
大剣に炎の魔力を宿し、渾身の力で振り下ろす紅い怪人……<ファントム・フェニックス>が、激昂の咆哮を上げる。
「っく、問答無用っ、かよ……!」
荒ぶる攻撃を躱しながら、晴人も反撃に転ずべく、<コネクト>の魔法陣を喚び、武器を……ウィザーソードガンを取り出す。
「はっ!」
二つの刃が噛みあい、生まれた火花が炎を呼ぶ。
「ずいぶんとハデにやってくれたみたいじゃねえか、ええ!?」
「ちょっと誤解しちゃいないか!? いくら俺が強くても、これだけの数はそうそう片づけられないぜ!」
剣戟の合間に交わされる言葉は、しかし互いに届かない。
「……まったく、待ちなさいと言ったのに……フェニックス」
ひやり。
研ぎ澄まされた冷気のような感覚が、二人の間を裂く。フェニックスと晴人が視線を向けると、その先にはストールをまとう少女の姿があった。
「ッち……メデューサ」
「確信が持てたわ。魔法使いじゃ、この死体の山は作れない」
強烈な気に当てられ、気がそがれたのか、フェニックスが鼻を鳴らし、人の姿をとる。
「あんたが俺の弁護をしてくれるとはね……?」
「そんな大層なものじゃないわ」
メデューサと呼ばれた少女が、おもむろに死体を指さす。
「ファントムが魔法使いに倒された場合……魔法使いの魔力とファントムが内包する魔力が干渉しあい、爆発を起こし、ファントムの身体は粉々になってしまう」
「……だがこの死体はまるっと残ってる……と。なるほど。確かに魔法使いにはできない芸当だ」
それだけじゃないわ。と言って、メデューサはおもむろに死体を蹴りあげる。
「お、おいおい……仮にも仲間……!」
晴人の視界に飛び込むのは、ファントムの腹部がえぐられたようになくなっている死体であった。
それだけではない。ファントムの死体は、四散していないだけで、体のどこかが欠損しているものばかりだ。
「どういう理屈かわからないけれど、犯人はファントムの魔力を肉体ごと斬り出すことができるようね」
「なるほどな……それで爆発することなく……」
二人のファントムが、ひとまずは自分への害意をそらしたと判断し、晴人が変身を解いた。
「で、犯人に心当たりは? そーいうのが得意なファントムとか?」
「あるわけないでしょう?」
メデューサの言によれば、ファントム同士が戦ったとしても、魔法使いに倒された場合とほぼ同じ状態になるらしい。
「もっとも、絶対に例外がない、とは言わないけれど。少なくとも私の知り得る限りのファントムに、こんな能力を持つ者はいないわね」
「ふーん……」
さて、と晴人は考える。
とりあえずはファントム内部での内輪もめなどではなさそうだ。
であれば、魔法使いでもファントム側でもない第三者によるもの……となるのだが。
「……へぇ。狩場に戻ってみれば、新たな獲物がかかったようね」
ふいに浴びせられる殺気と声に、晴人の前身が総毛立つ。
「!」
振り返った先に立ちはだかるは――“首”の“無い”、怪人。
「ファントム!?」
「……違うわよ、失礼ね」
“彼ら”にとっては明らかに違うのだろう、心外だといわんばかりにメデューサが呟いた。
「しかしどうやら犯人が現われてくれたようね。……精々頑張って倒して頂戴、指輪の魔法使い……」
ファントムにとってこれ以上ない邪魔者である両者を、押しつけ合うかのようにメデューサが妖しく哂って姿を消す。
「やれやれ……予想通りの展開でどうも!」
再びウィザードライバーを起動し、左手に赤い指輪をはめる。
「見つけたぞ、<クラウ・ソラス>!!」
と、その間に割って入るように、荒々しく力強い声が戦場に響いた。
「っち……“魔法使い”か」
「魔法使い!?」
クラウ・ソラスと呼ばれた怪人の視線の先……黒いローブに身を包んだ男に、晴人が目を向ける。
「これ以上“地上”への干渉はやめるんだ!」
「フン、腑抜けた冥府神の犬め。厭だと言ったら?」
「……力づくでも、お前を地底に連れ戻す!」
魔法使いと呼ばれた男の、ローブから伸びた右手に、携帯電話が握られていた。
「天空聖者よ、我に魔法の力を!」
開いた携帯電話のキーを3度たたく。
(魔法の、杖?)
未知の“魔法”に驚愕する晴人の前で、男は“呪文”を口にする。
魔法変身“マージ・マジ・マジーロ”!!!
男の背後に、炎の魔人のヴィジョンが一瞬浮かび、それがオーラと化して男の身体を包む。
同時に出現した魔法陣が、男の身体を通り過ぎた刹那、真紅の衣を纏った“魔法使い”が現出した。
「燃える炎のエレメント! <赤の魔法使い>マジレッド!!!」
――魔法の携帯・マージフォン。
“今”を生きる魔法使いたちは、天空聖者の力を借りて
溢れる勇気を魔法に変える――!
-つづく-
ファントムがやられる際に爆発四散する理由付けは創作ですよ(挨拶
時間軸的にはまだフェニックスさん健在です。
フレイムドラゴンにぶっとばされて再生してしばらくしてからですね。
もっとも、このお二人さんの出番、これで終わりなんですけどねー(ぇ
さぁ、ついに相対する二人の“魔法使い”。
物語が、ようやく動き出します……
※2013年4月19日mixi日記初出