炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

【オリジナル】BULLETS-バレッツ-(後編)【HEROES ASSEMBLE!】

 “変”わった二人を目の当たりにし、荒れ狂う連中が一瞬静かになる。その黒い二つの人影から発せられる圧力に、幾人かはじり、と後退りした。 

「……って、なにが“おしおきタイム”だよ。ここは“ヒーロータイム”が正解だぜ?」 
「阿呆かお前は。悪ガキどもを相手するんだ。おしおきで十分だろう」 

 ズレた言い回しに噛み付く黒いスーツの片割れ――東木丸馬が変身した――は、左胸に【1】のナンバリングが振られている。それをあしらうもう一人の黒スーツ――その内には石塚久秀がいる――には【2】のナンバリングが宛がわれていた。 

「下らん話は後だ。来るぞ」 
「っ……わーったよ!」 

 緊張感の無い二人に、脅威を捉えなくなった暴走族が、再び肩を怒らせる。手にした鉄パイプやマンホールのなどが振り回され、風切り音がエンジンの爆音と不協和音をかき鳴らした。 
 二人は仮面越しに連中をひと睨みして、手に持っていた拳銃をスーツに備え付けられたハードポイント……“ホルスター”に固定した。 

 【1】を刻まれたスーツ……<BULLET-1>が、M29を右の二の腕へ。 
 対して【2】を与えられたスーツ……<BULLET-2>は、デザートイーグルを左の腿に。 

 それぞれのホルスターに二挺の拳銃が収まった刹那、右腕と左足の装甲が展開する。 

 <BULLET-1>の右腕には、リボルバーのシリンダーを髣髴とさせる意匠が。<BULLET-2>の左足には自動拳銃の“遊底”を模した装甲が現れ、それまでほぼ同一だった二人のシルエットを著しく意にする。 

  ……ハンマー・コック! 

 二人の声が今度はしっかりと重なり、東木が拳を握り、石塚は軸足に力を込める。 

  ……SHOOT!! 

 次の声の重なりを合図に、二人は文字通り“1発の銃弾となって”アスファルトを抉りながら駆ける。 

「おらぁっ!」 

 手近にいた暴走族の一人に、東木が右腕を思い切り引き絞る。 
 そして――トリガーを、引く。 

「おばぶっ!?」 

 雷管の炸ける音がエンジン音をかき消すのと、男が潰れた蛙のような声を出して吹っ飛んでいったのはほぼ同時であった。 
 装甲にセットされたM29から放たれた弾丸のエネルギーが右腕を走り、マグナム弾のパワーとスピードを帯びた拳の一撃が、モンスターと化した暴走族の胸板を撃ち貫いた。 

「おごぅ……がぁっ」 

 痛みにもんどりうつ男の腕から、禍々しい刺青の模様が霧散していくのがカメラアイ越しに見て取れる。 

「……どうやら、しっかり機能しているようだな」 
「まぁ、機能してくれなきゃこまるっつか、ヘタしたら俺ら始末書モンだぜ?」 

 右手を何度か開いたり握ったりしながら、東木が呟く。拳に宿る銃弾の力……その弾頭には、<デモンズ・タトゥ>の効果を打ち消すワクチンが仕込まれていた。 

「はっ!」 

 パイプ椅子の強襲を危なげなく交わし、石塚が軽やかに跳ぶ。転瞬、スーツ越しに撃ち放たれた銃弾が勢いを与え、強烈な跳び蹴りが決まった。 

「っ!」 

 蹴撃の反動で再び跳びあがると、左足の遊底がガチャリ、とスライドをしてみせる。 
 次の標的を見定めたと同時に、再び銃声が鳴り響き、そのターゲットを撃ち抜いた。 

「しっかし、このスーツといい、ワクチン・カートリッジといい、トンデモなシロモノだよなこいつぁ」 

 6発を撃ち切り、装甲のホルスターからM29を抜いた東木がリロードしながらおっかなびっくりスーツをつつく。 

「“超発展科学(アドバンスド・テクノロジー)”か。ちょっとしたオーパーツだな」 

 スーツの源たる技術の名を口にして、石塚が再装填中の東木の傍に寄る。それが無意識の行動であると、彼自身気づかないまま。 

「そんなもんでもないと、日曜日は生き抜けないってことかね。ひでえ時代になったもんだ」 
「だが、必要ではある。でなければ、理由も無く“こんなものをもたらす者たちが生まれた”りはしないだろう」 

 リロードが終わると同時に、弾かれるように二人が飛び出す。ありえないようで実際にありえてしまった技術の結晶を纏い、二人の警官は、ヒーローとなって夜を切り裂くのだ。 

 マグナム弾の炸裂音が大地を揺らし、大気を戦慄かせる。東木が8ラウンド、石塚が5ローダーを使い切る頃には、6車線を埋め尽くしていた刺青の奴隷達はすべて倒れ伏していた。 

「ふぅ……撃つも撃ったり……ってか?」 
「普段なら1発でも撃てば始末書と言うことを考えれば恵まれているな、俺たちは」 

 衝撃にややしびれた右腕をぐりぐりと回しながら東木が大きく息を吐くと、石塚が少々楽しげに呟いた。「俺ら撃つの好きだもんな」と東木も笑ってみせる。 

 対照的な雰囲気を持つ二人であるが、両者とも拳銃マニアという共通点があるのだ。 
 もっとも、東木がリボルバー派で、石塚がオートマ派。根幹では相容れないのだが。 

「さて、あとはこいつらまとめてしょっ引くだけだ。応援頼まにゃ……」 
「……うん? おい待て!」 

 無線連絡をしかける東木を、鋭い声が止める。その声色に戦慄を感じた東木は、振り返り石塚の視線の先を追った。 
 折り重なるように倒れる暴走族たちの体がふわり、と浮き上がり、その下から巨大な影が盛り上がった。 

「んな!?」 
「気をつけろ……何かはわからんが、来る!」 


  AOHHHHHHHHHHHHHHHH!!!! 


 エンジンの爆音にも、先ほどの銃声をも上回る強烈な咆哮が、中央合同庁舎第2号館の建物を揺らす。 
 倒れた暴走族の下から現れた大きく膨らんだ肉は、かろうじてそのシルエットを人型に見せていた。 

「おいおい、いつから暴走族は超人ハ○クを仲間にしたんだ?」 
「言ってる場合か。どうしてああなったかはわからんが……見ろ」 

 顎でしゃくった先を見やる。吼え猛る怪物の腕には、もはや見慣れた刺青のパターンが浮かび上がっていた。しかもその刺青は、まるで生き物のように体中を這い回ってその範囲を広げていた。 

「デモンズ・タトゥ……まるでオーバードーズだな」 
「あんな効果まであんのかよ……ロクでもねえな」 

 刺青の化物は周囲に倒れた男たちを蹴散らしながら、少しずつ二人の前へと歩み寄る。 
 が、先に仕掛けたのは石塚であった。 

「暴走していようと、それがタトゥによるものなら……!」 

 デザートイーグルの発砲音と同時に、巨体に蹴撃を撃ち込む。遊底のアクションにあわせ、反転を活かして跳び蹴りを連ねる石塚だったが、それは3発目で唐突に止まり、アスファルトに着地した。 

「ち、弾切れか……だが、あれだけ撃ち込めば……」 

 対デモンズ・タトゥ用のワクチン・カートリッジの効果が、蹴撃とともに、怪物に浸透しているはずである。 
 やがて怪物の体が小刻みに震えだした。ワクチンが暴れまわっているのだろう。 

「……あれ?」 

 しかし、いつまでたっても怪物の体が元に戻る気配がない。むしろ心なしか、一回りほど大きくなっていくのが二人の目に映る。 

「あいつ、ワクチンを取り込んだのか!?」 
「そんなんありかよ!?」 


 GYAOHHHHHHHHHH!!!! 


 咆哮とともに怪物が跳び、侍従に任せた強力なプレスが襲い掛かる。二人が回避した直後、足元のアスファルトが粉々に押しつぶされた。 

「止むをえん、射殺するしか……」 

 ホルダーから殺傷能力に特化したフルメタル・カートリッジを取り出そうとする石塚を、しかし東木が止める。 

「警官が簡単に諦めんな。たとえあんなんでも、俺らが守るべき“人”なんだぜ? 言ってみりゃあいつらだって、タトゥにやられた被害者なんだしよ」 
「だが、もうワクチンも通用しないんだぞ?」 
『……いや、効いてないわけじゃない』 

 不意に二人の会話に無線からの声が割り込んできた。 

「どういうことだ博士?」 

 博士と呼ばれた声の主は、返信に対し『ドクター、と呼び給えよ』と呟き、先を続けた。 

『そも、“ワクチン”というのは、病原体に対して毒性を弱めたり、失くしたりしたものを指す。本来は予防薬なんだけど、ワクチンという名前をつけたのはまぁ便宜的なものだね。 

 まぁ後から投与しても効果が出るように“いじって”はみせたけど、結局根幹は同じ<デモンズ・タトゥ>そのもの。ヘタに投与してもエネルギーを与えてるようなもの、というわけだ』 
「だったらどうするんだ?」 

 石塚の問いに、ドクターは『なに、簡単なことさ』と嘯いた。 

『ありったけの量を一気に投与すればいい』 


 ・ 
 ・ 
 ・ 


 あんまりといえばあんまりな発言に、二人の時間がしばし止まる。 


「あんたそれでも科学者か」 
『そうであると、自負はしているよ』 

 語尾に音符マークでもつけそうな勢いで、しれっとドクターが言ってのける。 

『だが、根拠がないわけじゃあない。今のアレは、大量の<デモンズ・タトゥ>の毒を持っている。それを打ち消すんだ、量がいるのも当然だろう?』 
「そりゃま、確かに」 

 そんなら、と一息に声を吐き出し、BULLET-1……東木が日曜日の怪物の前に立ちはだかった。 
 最後に残った1ラウンドのマグナム弾を再装填。装甲のホルスターに戻して、一度開いた手のひらを、小指から丹念に握り、必勝の拳を作り出す。 

「どうするつもりだ? ただ連続して撃ち込んでも効果は現れないぞ」 
「なに、いっぺん試してみたかったことがあってな……ハンマー・コック!」 

 臨戦態勢の東木に、本能的に警戒を察した怪物が巨体を引きずりながら躍り出る。振り上げられた腕からの一撃をやり過ごし、その隙を逃さず、ターゲットを補足した。 

「っだらぁぁぁぁぁぁっ!!!」 

 銃声が1発。拳が怪物のわき腹を直撃する。“着弾”の刹那―― 

 “のこり5発”の銃声が、“悪意の刺青”を撃ち貫いた。 


「……っへへ」 

 人の姿を取り戻し、倒れる男を見届けて、仮面越しに倒木が笑みを浮かべる。 

「名づけて……<フルバレット・ショット>って、とこかね」 




   * * * 




「っいってええええええええ!!!」 

 警察庁科警研地下。 
 “ドクター”のラボに東木の絶叫がこだまする。 

「……まったく、なにが<フルバレット・ショット>だ。あんな無茶な使い方をすれば、そうもなるだろう」 

 オールバックをかきあげながら、石塚がため息混じりに呟いた。その様子を白衣の青年がケタケタと笑って見ている。 

「いや、まったく。君らしいよ。……ぷくくく、はははは!」 

 ひとしきり笑ってから、呼吸を整える。震え切った腹筋をかばいながら「まぁ……」とドクターがメンテナンス中のスーツをあごでしゃくった。 

「そんなこともあろうかと、君の1番スーツの基礎フレームは、2番スーツより強化してるんだけどね。仮にダンジョーくんが同じコトしたら、お手手、超粉砕骨折してたネ」 
「誰が弾正だ」 

 付けられたあだ名を不服そうに、石塚が口を尖らせてコーヒーをすする。 

「それに、俺はそんな無茶はするつもりはない」 
「どうかな。トーボクくんのリロードの度に彼のそばに寄ってた君には、装甲のレベルを上げる強化案を出したいところなんだけど」 

 さらっと受けた指摘に、危うくコーヒーを噴出しかける。 

「ん、何? 何の話?」 
「なんでもない!」 

 口元をハンカチで拭い、東木からの問いを打ち切った。 

「なに、二人ともしっかり……ヒーローしてるって話さ」 

 きぃ、とチェアを鳴らして、ドクターが微笑んだ。 



   -fin- 




 シリーズ化にあたり、世界観をちょっとだけクローズアップしてみました。 
 その代償がこの情報量の飽和状態よ(トオイメ 

 いや、それでもなお出してないネタ多いんですが。 

 とりあえず、ヒーロータイムな世界観を作るに当たって、スーパー戦隊的な強化スーツが実在する以上、ちょっとした技術革新起きてるよね、とばかりに。 
 今回劇中に出てきた“ドクター”はあれです。「ウルトラマンガイア」におけるアルケミー・スターズみたいなもんです(ぇ 
 しかし、ドクターのキャラが戦極に引っ張られてる……あかんわこれw 

 さて、まだまだ「HEROES ASSEMBLE!」のヒーローたちは出尽くしておりません。 
 すでに登場済みのヒーローの別エピとかもやりたいですしねー。 

 今後とも、ヒーロータイムをよろしく!