――太陽系の最果てで1隻の艦(フネ)が消息を絶った。
<NO-0117-A/宇宙要塞艦NAAGER>と名づけられたその艦は、冥王星のさらに先に突如として出現した、太陽系の10番目の惑星を探査するべく、地球から送り込まれた最新鋭艦である。
10番惑星……仮に<ナンバーテン>と呼称された惑星が出現してから、地球上のあらゆる叡智がそれの謎を追い求めたが、真実にいたることはついぞなかった。
しかしその調査の一方で、地球圏に迫る悪意、脅威の存在が明らかになる。
人類はそれらの侵略から自らを守るべく、国連決議により、二つの組織を編成するにいたる。
ひとつは、地球防衛軍――Terrestrial Defence Force――通称<TDF>。
もうひとつは宇宙調査防衛機構――Space Investigation and Defence Organization――通称<SIDO>。
前者は地球圏の、後者は火星より先の外宇宙の調査と防衛をそれぞれ担い、その一環として、<SIDO>の肝煎りで<ナンバーテン>の調査に赴くこととなったのが<NAAGER>である――
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「……それで、地球を飛び立った<NAAGER>から、まだ連絡はないのかね?」
――TDF本部。
最高責任者であるTDF長官・サワが苦々しく問うた声に、その眼前に控えるキタクラ参謀は「はぁ」と恐縮の吐息を漏らす。
「連絡が途絶えたままでして、今のところなんとも……」
「いったいなにが起こったというのだ!? SIDOの……いや、われわれ人類の誇る最新鋭の要塞艦だぞ……」
<ナンバーテン>の調査のみならず、SIDOの本来の任務である、外宇宙からの脅威の調査も兼ねた艦は、その性質上強大な力を宿すことを余儀なくされ、設計の段階でとてつもない巨体を形作ることになったため、月面で建造されたという逸話を持つ。
世界中のあらゆる分野のエキスパートが何らかの形でかかわったこの<NAAGAR>は、まさしく現代によみがえった不沈艦であった筈なのだ。
「申し訳ございません。われわれは、全力を挙げて<NAGGER>の調査を……」
ハンカチで顔中をぬぐいながら答えるキタクラを、サワが焦りを秘めた眼で睨みつける。
「キタクラ参謀、君の責任だ! 君の処分は考えておくよ……いいね?」
立場の差を含め、有無を言わせぬその口ぶりに、キタクラは先ほどと同じく「はぁ……」と答えることしかできない。
と、不意に長官室の自動扉が開き、制服姿の人影が飛び込む。軍服めいたその意匠は、彼がTDFの隊員であることを示していた。
「長官! 生化学班の日向博士が、お耳に入れておきたい情報があると……」
「日向博士が?」
いぶかしげな表情を隊員に向けたのもつかの間、隊員の背後にいた日向なる白衣の男が、深刻そうな顔をしてサワに声をかけた。
「長官……例の<ナンバーテン>に関してなのですが……どうも単なる惑星とは思えないフシがあります」
かの星は巨大な知的生命体ではないのか。そう仮説を立てる日向にサワは何を莫迦なとばかりに笑い飛ばした。
「日向博士……冗談を言っては困りますな。知的生命体? 君は、あんな巨大な生き物がこの宇宙に存在すると本気で思っているのかね?」
理解の範疇を超えた事柄を、人間は無意識に排除しようとする。荒唐無稽な仮説でしかない日向の言は、その格好の的といえた。
「通信が途絶え、消息不明なのもそれが原因だと説明するのかね?」
「そうです、あれは間違いなく……」
「もう、やめたまえ!」
サワが怒声を張り上げる。ぎり、と握り締めた拳が震えた。
「あの艦には、SIDOの最高責任者である迫水長官が、ご家族と一緒に搭乗しているのだよ! 我々TDFは総力を挙げて、その安全を確保しなければならないときに、<ナンバーテン>は惑星ではないと? 巨大な生き物だと……そう言えというのかね?
その巨大な生き物に、最新鋭要塞艦は喰われた、とでも? 通信が途絶え、目下消息不明なのもそれが原因だと、そう説明するのかね?」
「……それでは、ほかに理由が? 納得のいく説明があるというのですか?」
食い下がる日向に、サワがあからさまに不機嫌な視線を向ける。
「私の考えが正しければ、アレは……我々“宇宙時代”の人類にとって飛躍的な進化の第一歩であるべき“共生体”です」
その熱弁は、サワの「不愉快だ……」と言う重々しい呟きにさえぎられた。
「君は我がTDFにとってたった今……不必要な存在となった! 荷物をまとめたまえ」
吐き捨て、背を向けるサワに、日向博士は何かを言いかけ、しかしその口は噤んだまま、司令室を後にした……
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その3年後。
<ナンバーテン>は突如消失する。発見時と同様に、何の痕跡を残すこともなく。
まるで最初から存在しなかったかの用に忽然と消えた“幻の第十惑星”の正体については、世界中の科学者があらゆる論議を重ねたが、決定的な答えは得られないまま、時だけがいたずらに過ぎ行いた。
そんな中、TDFは行方不明になった<NAAGER>の存在した痕跡を抹消……“なかったこと”にした。もとよりナンバーテンへの直接的な調査自体が秘密裏のものであり、建造が月面で行われたことも幸いし、違和感を持つ民間人はほぼ皆無であった。
ともすれば批判の材料になりかねないこの採決を、しかしサワが強引に押し通したのには、苛烈さを増す宇宙からの侵略者への対処を磐石にするためであった。
直後、TDFとSIDOは、指揮系の統一のため統合されることになる。
しかし、宇宙からのみならず、地球そのものにも悪の萌芽がめばえ始めていることを、人類はまだ、気づいていなかったのだ。
――そして、12年の歳月が過ぎようとしていた――
-to be continued-
モノカキリハビリシリーズ、第1弾(?)は、既存作品の非公式ノベライズ。
その題材に、伝説のヒーローゲー「スーパー特撮大戦2001」を起用するなんて、まぁお釈迦様でも想定しめえ。
タイトル改変してるのは、具体的な年数を表記するのをなんとなく避けたかったため。
参戦作品自体が70~80年代ヒーローメインだから、正直原典のタイトルからしてビミョーっちゃビミョーなのですが、劇中で普通ににケータイとか出るんですよ。
さて、そんなわけでプロローグなのですが。
ヒーローの「ヒ」の字もでませんね。ええ。冒頭に登場する3人も、オリジナルキャラクターですしおすし。
こんな感じでとりあえず。