オーバーチュア:Sとの邂逅/男の決断
――“男”は、哭いていた。
届かない自分の手に。力なき自分自身に。
絶望の慟哭を、声もなく。
嗚呼。
“強さ”があれば。あの享楽と欲望と本能の坩堝から、彼女を連れ出すことだって出来るというのに。
……そう、あの“強さ”が。
“男”の脳裏に、白いスーツの後姿がぼんやりと浮かぶ。尊敬と嫉妬が入り混じる視線を何度となく向けてきた、あの背中――
「“強さ”を……お求めでありんすか?」
しかしそのヴィジョンは、不意に聞こえた艶帯びた声に、意識の奥へ追いやられる。
薄暗い路地裏から、ぼうっと浮かび上がるように現れた人影は、妖艶な笑みを浮かべたレオタード姿の踊り子であった。
「そんな貴方さんにお勧めのモノがありんす」
花魁めいた口調で“女”が近づき、おもむろに手にしたアタッシュケースを広げる。
「……<ガイアメモリ>、と申します」
視界に飛び込んだ、その中身を指して“女”が言う。
その名には聞き覚えがあった。都市伝説の類だと高をくくっていたが、実在していたらしい。
「貴方さんの望む“強さ”が、手にはいりんすよ……?」
“女”の声が誘惑をまとって、脳髄を痺れさせる。
強さ……そう、“強さ”だ。
これがあれば、守れる。
これがあれば、つなぎとめられる。
これがあれば、振り向いてくれる。
これが、あれば……
「……どう使えばいい?」
“男”は、“決断”を下す。
それが、“決断”の皮をかぶった別の何かであると、気づくことなく。
「……毎度あり」
にぃ。と哂う“女”に、財布ごと金を押し付け、“男”はケースの中のメモリ……その中の一つを
、手に取る。
中身を目の当たりにしたその瞬間から、“それ”に目をつけていた。
否、目をつけていたのは、<ガイアメモリ>の方……だったのかも知れない。
寄り合わせた糸が描く“S”の一文字をその中央に抱く、小さくも禍々しい“匣”を、男は曇った瞳で見つめる。
――もう、哭く必要はない。
変わりに誰が、何が泣くとしても、嘆くとしても――知ったことではない。
-Spider-
起動スイッチを押す。
新たなる“相棒”が、自己紹介を“男”の耳朶に“囁”いた。
-To be continued-
執筆リハビリ、非公式ノベライズやろうぜ!第2弾。
さて、今回ノベライズに当たって、ちょこちょこいじらせてもらっております。映画の展開そのものだと文章化の際にいろいろ弊害あるし、なにより面白くない。
ついでに言えば、映画を先に見てても後に見ててもどっちも楽しめるものでありたいのです。
そんなわけで、
・映画における現代パート(亜樹子たちのシーン)は基本的に廃して、スカルの物語に集中させる。
・登場人物。主人公であるおやっさんこと荘吉はもとより、主要人物の心理描写を追求する。
この2点においては重点的にやってみております。
今回のこの「オーバーチュア」もその一環であり、劇中ではさらっとしか語られなかった“動機”にスポットを当てています。
まぁ、あっさり犯人ばらししてしまうのもアレなので、かなーりボカしてはいますが。
それでもバレてると思うけどw
回想シーンでやるのも一つの手だったのですが、多分にテンポが悪くなりそうだったので、一番最初に移動。
これは他の回想シーンでも同様で、基本的に時系列どおりに文章化していきます。とはいえ、回想シーン自体ほとんどないですけどねー。
さぁ、まもなく開幕でございます。
「スーパー特撮大戦」のノベライズともども、今後ともどうぞよしなに……