夜闇に紛れ、くぐもったうめき声が数度聞こえ、どさり、という物音がかぶさる。黒スーツの男たちが、なす術もなくやられ、倒れ伏していくのだ。
「……ふぅっ」
一仕事終えたとばかりに両手を払うのは、白スーツの男……鳴海荘吉だ。その背後には“矢口芸能社”の看板が掲げられた大き目の門が見える。
「……セキリュティ、落としました」
その門の内側から、ストーンが顔を出す。その声に頷き、門の周りのもうひとつのセキュリティ……矢口の私的なボディーガードたちを一瞥してから、つかつかと奥へと入っていく。
「な、中まで入って大丈夫かな……?」
ふと聞こえたストーンに呟きに足を止め、振り返る。びくびくと不安げな表情のストーンが、「俺、臆病だしなァ……」と自嘲する。そんなストーンに、荘吉が肩を軽く叩いた。
「臆病なくらいが丁度良い。……長生きできる」
そう言って再び奥へと歩き出す荘吉に、元気付けられたストーンも同行した。
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主に女性タレント……所謂ところのアイドルを多く擁している芸能社だけあって、社内の設備は充実していた。レッスンスタジオも完備しており、鏡張りの壁面や、グランドピアノのシルエットが、荘吉たちの視界に何度か入り込んでいた。
ふと、荘吉の耳朶に水音が触れる。ストーンから事前に得ていた情報で、社内には温水プールがあることも知れていたが、深夜にわざわざそれを利用するものがいるとは思えない。
スタジオを通り、プールへ向けて進んでいくと、はねる水音に混じり、女のものと思しき嬌声が聞こえてきた。果たしてそこには、幾人もの水着姿の女たちが、まるで酔っているかのように戯れていた。
「なんだこりゃァ? タレントたちが……」
ストーンが訝しげな呟きをもらす。女たちの腕には、みな一様にいびつな形の小匣が突き刺さっていた。
「……ガイアメモリの実験台にされている」
荘吉の言葉に僅かに怒りが宿った。と、女たちの中へ一人の男が現れた。……矢口だ。
「……!? 探偵?」
「矢口……!」
侵入者の存在に気づき、矢口の表情に焦燥が走る。プールへと向かうべく、向こう側へ通じるガラス張りの扉を押し開こうとした刹那、ストーンが悲鳴をかみ殺した。背後からの物音に振り向くと、奇怪な仮面を被った黒服の男たちが飛び込んできた。
荘吉は知るべくもなかったが、その正体は“仮面舞踏会”の記憶を宿したガイアメモリで変貌した、“組織”の尖兵たちであった。
仮面の男たちが、次々に荘吉とストーンに襲い掛かる。どうにかストーンを守ろうとしていた荘吉であったが、多勢に無勢、乱戦のうちに分断されてしまう。
物量に圧され、外へと転がり出ながらも応戦する荘吉。その中でも、プールの女たちは快楽に哂い声を上げるだけであった。
「……っ助けて!」
女たちの嬌声をかき消すように、悲痛な叫び声が響く。その声に視線を向けた荘吉が見たものは、レオタードの女に詰め寄られているストーンの姿であった。
「ひぃぃ……」
「許して欲しいでありんすか……?」
恐怖に顔面をいっぱいに引きつらせるストーンに問いかけ、しかし女は「無理ざんす」と一息に言い放った。
仮面の男たちと踊る荘吉を尻目に、レオタードの女がガイアメモリを取り出し、その起動キーを押す。
-Bat-
その名を囁いたメモリを、右の鎖骨の辺りに突き刺した女の身体に、大量の蝙蝠が取り付き、その姿を異形のシルエットへと変えていく。
“蝙蝠”の記憶を取り込んだ、バット・ドーパントとなった女が、人差し指を徐にストーンの胸に突き当てる。衝撃がストーンの身体を突きぬけ、その命を貫かれたストーンの身体は、なす術もなくプールに沈んだ。
「いらぬことを嗅ぎまわるからだぞ……探偵め」
「矢口、貴様……ッ!」
怪人たちに飛びかかろうとした荘吉を、またもマスカレイドたちが阻み、物量をもって、荘吉の身体を社屋の敷地外へと追い出した。
-つづく-
ノベライズは原典からの情報を可能な限り文章化するわけですが、そのせいか文章量・情報量がちょっと多くなりがちな感が。
まぁ、普段の私の作風が情報量少なめなだけかもしれませんが(汗
次からは端折れる描写は端折ってもいいかもしんない。
でも次回でそろそろスカルクリスタル出そうなのでその辺はきっちりやる。