炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第1話/シーン1

「『大学生モトクロスレーサー、失踪から一週間』……かぁ」 

 携帯電話の画面、表示されたニュース記事を眺めながら、少女が呟く。 
「こらラン。ケータイいじってる場合かよ……」 
 その後ろを付いていく少年が、渋面を声色に乗せる。「で、この辺でいいのか?」と聞くと、ランと呼ばれた少女は携帯を仕舞って首肯した。 

 某県、とある山の中。獣道の果てに、二人はいる。時折鳥の鳴き声が聞こえる以外に、妙に静かな山林に、山登りのそれとは縁遠い、ラフな格好の二人はずいぶんと場違いだ。 

「このあたりだよ、エイジ。“お兄ちゃん”の気配が消えたのは」 
「サトルさん……やっと、やっと会えるんだ!」 

 エイジなる少年のその声には、感嘆と期待と不安がない交ぜになっている。 

「これで、“あの時”のこともハッキリする……」 
 ぐっと拳を握り締めながら、エイジの意識が過去へと向かう…… 

「ちょっと待っててねエイジ。あたしの<黒魔術>でお兄ちゃんの居場所を特定するから」 
 が、その直後に聞こえてきたランのふんわりとした声色に一気に現実に引き戻された。 

「おい、ちょっと待て! こんなときに趣味の黒魔術はやめろよ。そいつのせいでどれだけヒドイ目にあったか……」 
 再び渋い声をするエイジに、ランはあからさまに不満をふくれっ面に具現化する。 

「おとなしくいつもの<力>を使えよ。そのほうが確実さ」 
「エイジの意地悪! あたしの黒魔術だって少しは進歩してますよ~だ! それに、いつもの<力>って、超能力みたいで非科学的なんだもん」 

 果たして黒魔術が彼女にとって科学的なのか。その議論をするのも面倒だと、エイジがため息をつく。 

「どっちも似たようなもんだろ? つべこべ言わずに、さっさとやる」 

 ジト目をするエイジに、ランがしぶしぶ取り出しかけていたペンデュラムを引っ込めた。 

「もう、分かったよぉ……。それじゃあ……」 

 目を閉じ、意識を集中する。ぼんやりと彼女の身体が光り、ランの<力>が発動する。 

 彼女には不思議な<力>があった。 

 人の感情や気配などを感覚的にキャッチする、レーダーのような能力。 
 彼女は、それを使って行方不明になった兄を、気配を頼りに探しているのだ。 

「……あれ? この感覚は?」 

 と、ランの力が妙な気配を察知する。力とのリンクを切り、目を開けると、ランはおもむろに指を差す。その先の茂みが揺れた刹那、紅い人影が飛び出してきた。 

「……!?」 

 ベレー帽をかぶり、顔には紅いペインティング。 
 さらに赤を基調としたタイツ姿、という出で立ちは、あからさまに常人のそれではない。 

「ラン……俺の後ろに隠れてろ!」 

 ランの“力”を借りるまでもなく、目の前の男たちがロクでもないものであることは、エイジにも感じられた。 
 男たちはおもむろにナイフを取り出し、隠す気のない殺意を二人に向ける。 

「イーッ!!」 

 黒い男が奇声を発しながら飛び込む。エイジは苦もなくナイフの刺突を躱わすと、捻った上半身のバネで強烈な肘打ちを見舞った。 

「はッ!」 

 顔面を捉えた肘の一撃が、男をふらつかせる。追撃の拳が胸板に飛び込み、その身体を弾き飛ばす。 
 強烈なダメージを受けた男はぐったりと倒れ……その身体は見る間に白い泡と化した。 

「えっ!?」 
「エイジ、まだくるよ!」 

 目の前で起こった事態に一瞬混乱するエイジだったが、ランの声に我に返り、もう一人の男の強襲に備える。まるでビデオを見るかのような、先ほどの男と寸分たがわぬ動きでナイフを突き出してくる男に、エイジの対処は早い。 

 飛び込んできた刃をやり過ごし、伸びきった腕をつかむ。勢いをつけきった身体のバランスは、少し力を加えただけで簡単に崩れ、エイジはぐっと片腕に力をこめると男の身体を背中から地面にたたきつけた。 
 怪人タイツ男はくぐもったうめき声を上げ、やがて動かなくなる。 

「……なんなんだよこいつら……」 

 泡と消えるタイツ男の身体を見届けた後、エイジはランの方へ振り返り「大丈夫か?」と声をかけた。それに小さく首肯して、ランはエイジの元へと駆け寄る。 

「あっ……エイジ、血が出てるよ」 
「あれ?」 

 ランの指摘に、エイジは彼女の指が示す先……自分の頬に触れる。指先についた“赤い”血を目の当たりにして、彼は自分でも気づかないうちに、小さく安堵していた。 

「いつの間にやられたんだ? くそッ……俺もまだまだ甘いな」 

 エイジが憮然と呟く。恐らく最初の赤タイツの攻撃、ナイフの一撃を交わしきったつもりが、薄皮一枚届かせてしまったようだ。 

「そんなことないよ。エイジの古武術は、お爺ちゃんのお墨付きだもん!」 
「清次郎さんか……」 

 タイツの男たちを蹴散らした技術は、エイジがランの祖父・清次郎から習得したものだ。幼いころから見込みありとしごかれていた結果は、今この場に自らと幼馴染を守れる力として、確かにあった。 

「……帰りたくなったんじゃないのか?」 

 不意に家族のことを話題にするランに、エイジがそう問うと、首をふるふると振って否定の意を返した。 

「ううん。……お兄ちゃんを探して、“あの時”のことを確かめるまでは……あたし、あきらめないもん」 
「でも、お前が“感じる”ってだけで、サトルさんが生きてるって保証もないんだぞ?」 

 エイジとてサトルに会いたいという思いは強い。だが、“あの惨状”を見ているからこそ、そうも思えてしまうのもまた、事実なのだ。 

「生きてるよ。あたしには解かるもん……!」 

 ランの手が、ふわりとエイジの頬……傷口に触れる。 

「それに、あの“焼け跡”からだって発見されなかったし……」 

 指先からほのかな暖かさが頬に伝わり、ものの数秒もしないうちに、その傷は痕跡すらも残すことなく消えた。 

「はい……傷のほうは、もう大丈夫だよ」 
「ありがとう。……お前の“もう一つの力”だな」 

 彼の知りうる中でもっとも優しい力を持つランに、エイジの表情がほぐれる。 
 それじゃあ、と捜索を再開しようと意識を新たにした刹那、大きな爆発音が二人の鼓膜を殴りつけた。 

「!? なんだ!」 
「エイジ、あっち!」 

 ランの声に視線を合わせると、山の奥のほうで十数羽ほどの鳥の群れが一斉に逃げるように飛び去っていくのが見えた。他にも逃げ出している鳥はそこかしこにいたが、その密度の濃さが、爆発の発生源がここであるとものがたっていた。 

「お兄ちゃんの気配、ちょっと強まった!」 
「それじゃ、あそこにサトルさんが!?」 

 急ごう! と駆け出すエイジ。 

「わ、ちょ、待ってっ!?」 

 ランが手を伸ばし、エイジがその手をとる。 

 道なき山中を、少年少女は駆け抜けていった。 




     スーパー特撮大戦200X/CRISES OF NAAGER 
     第1話:歪められた命 







 さあ、手元に資料もそろってきたので本格始動と相成りました、 
 「スーパー特撮大戦2001」非公式ノベライズ版でございますけどもが。 

 今回は第1話ということで、主人公たちの描写を密にしております。おおむね原作ゲームと同じ展開にしております。 
 とはいえ、基本セリフ劇であるゲームシナリオをまるっとそのまま使っているわけではもちろんありません。戦闘シーンなんかはシナリオがあるわけじゃありませんしね。 
 一応、マップの状況を文章上で再現はしているつもりですが。 

 さて、実はこの第1話。原作ゲームをプレイしたことがある方は解かるんじゃないかなと思いますが、結構削っています。 

 まず、1話冒頭(原作ゲームでのタイトルコールの前の部分)がまるっと。 
 そのシーン、バイオ系主人公の力の源である「ヴォル細胞」を、研究者である日向博士(プロローグでTDFを追い出された科学者)が入手、研究を始める……といった部分なのですが 

 たちまち要らないな、ということでボツw 

 もっとも、使わないつもりではないので、今後どっかで使います。 

 で、もう一つは、拉致された本郷猛の手術シーン。 
 というか、原作ゲームにおける仮面ライダー側のシーン。 

 丸々カットです。 

 まぁ、これは、一応オリジナルキャラクターであるエイジたちをメインで描こうと思ったのと、ただでさえ原作が存在する作品を、そのままなぞってもなぁ、と思ったためで。 

 なので、これ以後も版権キャラ「だけ」が動くシーンに関しては原則やりません。 
 クロスオーバーをやるときは積極的に組み込みますけどね。ええ。 

 そんじゃま、はりきっていきましょう! 
 待て、次回!

※初出:2014年04月27日・mixi日記