炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第1話/シーン2

「……一足遅れのようですね?」 

 女の声が、噴煙の中で聞こえる。 
 彼女は……いや、彼女を含めた“3人”は、秘密基地然とした地下施設の中にいた。 
 それは、後に世界中に認知される<ショッカー>なる秘密結社の基地であるのだが、彼女たちにとって、それは必要な情報ではなかった。 

「どっちにしても、ここにいたのは“獣の匂いの主”じゃあないな?」 

 女のすぐそばにいた、血走った目つきの男が、ぎょろぎょろとあたりを見回す。と、不意に扉が開き、赤いタイツの男たちが雪崩れ込んできた。 

「い、いたぞ! かかれ!!」 

 一人の赤タイツの声に、数人の同様の姿の男たちが3人の男女に飛び掛る。 

「……どけ」 

 男の瞳がいっそう充血する。刹那、人肉を焼く厭な匂いと飛び散る血液の鉄臭さが辺りに充満した。 

「……この辺りにいるのは、間違いないだろう」 

 二人の後ろにいた顔色の悪い男が呟く。目の前の惨状も、まるで意に介していないその瞳は、何を見つめているのかも解からない、虚そのものだ。 

「長居は無用ね。引き上げましょう」 
「ああ、獣の匂いを追うんだ!」 

 噴煙が3人の姿をかき消し、次の瞬間、その場にあるのは液状化したタイツ男たちの成れの果てだけであった。 


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 エイジとランが駆けつけた先……噴煙立ち上る洞窟の出口で、青年が先ほどと同じ赤タイツの男たちに取り囲まれていた。その後ろには…… 

「蜘蛛の……怪物?」 
「なんかイヤな“感じ”……あの蜘蛛からするよ、エイジ」 

 人間大の、二本足でたつ蜘蛛……怪物と言うよりは、“怪人”と称したほうが近いかもしれない……は、くぐもった声で青年を嗤った。 

「本郷猛! <ショッカー>を裏切るつもりか?」 
「俺のこの身体は……貴様らに改造され、“今までの本郷猛”ではないッ!」 

 本郷、と呼ばれた男の周辺で、風が渦巻く。それは彼の腰に巻かれたベルトの風車に吸い込まれ、彼の身体を……“変える”。 

「貴様ら<ショッカー>の野望を打ち砕く正義の戦士……」 


   仮面ライダーだッ!!! 


 飛蝗を模した仮面をつけた青年が、そう名乗った。 


「……エイジ、聞こえた?」 
「彼も、俺たちと同じように人体改造を受けたってコトか……?」 

 目の前で変身した青年……仮面ライダーに、奇妙な親和感を抱くエイジ。いきさつは異なれど、彼も自分たちと同じ、“命を歪められた者”なのだ。 

「あの人、助けないと……」 
「ああ。でも、サトルさんは?」 

 ランの提案に応えたいのは山々であったが、懸案事項は他にもある。それをたずねると、ランは首を横に振った。 

「少し、遅かったみたい……お兄ちゃんの気配は消えちゃったよ。それより……」 

 ランが、じっとエイジの目を見る。 
 助けたいのだ。自分と同じ運命を背負った者を。そしてそれは、エイジも同じなのだ。 

「そうだな……。今こそ、俺の“力”を解放するときだッ!」 

 ランに離れるように言って、エイジは足を肩幅ほどに開き、しっかりと大地を踏みしめる。 

 意識を集中させた刹那、全身の細胞が粟立つ感覚が突きぬけ、悪寒に身体をかき抱く。 

 背中が数度隆起して、身体からにじみ出た糸が全身を包み込む。簡易的な繭と化したエイジの身体から光が漏れ―― 

 小さな爆発音とともに、エイジの身体は異形のそれへと変貌した。 


「<ヴォルテックス>……!」 

 エイジの変わった姿を、ランがそう呼ぶ。 

「ラン、彼を助けるぞ!」 
「うん!」 

 戦場に躍り出たエイジ……否、ヴォルテックスが赤タイツに飛び掛り、拳の一撃を見舞う。吹っ飛ばされた赤タイツが蜘蛛の怪人に激突し、白い液体をまとわりつかせた。 

「ホァッ!? 何者だ貴様ら!?」 
「なんだ? お前も改造人間なのか?」 

 蜘蛛男と仮面ライダーから同時に問われ、ヴォルテックスは視線をライダーにのみ向ける。 

「話は後で。俺たちは敵じゃありません。とにかく、こいつらを片付けましょう!」 
「わかった。今は力を借りる!」 

 仮面ライダーとヴォルテックス。二人の異形の戦士が並び立つ。 

「おのれ……何者かは知らんが我がショッカーに歯向かうとは愚かな奴よ……戦闘員共ッ!」 

 蜘蛛男が叫ぶと、わらわらとどこからともなく赤タイツが群れを成す。戦闘員と呼ばれた連中は、なるほど常人よりは身体能力が高く、ショッカーにとっての基本的な戦闘要員であることは容易に察知できた。相手が一般人であれば十分脅威になるであろう。 

 だが、対峙する二人は、一般人ではない。 

「トォッ!」 
「はぁっ!」 

 一息に跳び込み、二人の拳が戦闘員を打ち抜く。 
 敵陣の只中の二人は、互いの背中を預けあい、構える。 

「行くぞショッカーッ!」 

 改造された悲しみと怒りを仮面の奥に隠し、ライダーが戦闘員を蹴散らす。 

「ここは任せて。あなたは蜘蛛男を! ……ヴォルブレイド!」 

 ヴォルテックスが腕に意識を集める。両腕の腱が飛び出し、刃物のように硬質化した。 

せいやぁっ!」 

 身体を回し一陣の旋風となったヴォルテックスが、戦闘員を次々と切り裂いていく。 

「解かった!」 
 ライダーが頷き、蜘蛛男へと肉薄する。振りかざした手刀が蜘蛛男の肩を直撃し、関節を砕く。

「ホァッ……!」 

 負けじと蜘蛛男が反撃に転ずる。口から粘着質の糸を吐き出し、ライダーの身体を絡めとった。 

「むっ……だが、この程度ッ!」 
 ライダーが腕に力をこめる。ベルトが受け止めた風圧エネルギーは、ダイナモを通じてライダーの全身を駆け巡る。気合と共に糸を振りほどき、ライダーは自由を取り戻した。 

「なんの、ウーッ!」 

 その隙を狙い、蜘蛛男が毒針を跳ばす。一瞬反応が遅れたライダーが、一撃喰らうのを覚悟した瞬間、その針を横薙ぎの突風がかき消した。 

「させないッ!」 

 ヴォルテックスの伸ばした右腕が変化し、手のひらの“銃口”から放たれた閃光が、尖った悪意を撃ち砕いたのだ。 

「今だ、仮面ライダーッ!!!」 

 ヴォルテックスが、名乗ったばかりの戦士の名を叫ぶ。返事の代わりに、ライダーは足に意識を集中させ、一気に跳び上がった。 

「何ぃッ!?」 

 バッタの力を組み込まれたその身体は、その跳躍力を人間大で再現する。さらにその跳躍を可能とする強靭な脚力は、そのまま攻撃に転ずれば、驚異的な破壊力をもたらすのだ。 

 それが――我らが仮面ライダーの必殺技! 



   ライダァァァー……キィィィィィックッ!!! 



 強烈な跳び蹴りが、蜘蛛男の体躯を打ち抜く。蜘蛛男の口から、醜悪な臭いと共に細切れに苦痛の声色が漏れた。 

「ぬぅ……本郷猛、いや、仮面ライダーめッ! 
 我が偉大なるショッカーを……首領を敵に回したこと……後悔するが…い……」 

 呪詛の言の葉を撒き散らしながら、耳障りな断末魔と共に、蜘蛛の怪物は四散して果てた。 


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 蜘蛛男を倒したのもつかの間、変身を解いた本郷ライダー……本郷猛は、踵を返すとショッカーの秘密基地に飛び込んでいく。 
 放っておけず同行するエイジとランが本郷の進むままについていった先は、様々な機械が所狭しと並べられた広い空間であった。 

「出て来い、首領ッ!!」 

 壁に掲げられた、鷲をモチーフにしたレリーフに向かって声を荒げる本郷であったが、それは目して語ることはない。 
 それどころか、すでに基地には人の気配がまったくしていなかった。 

「くそっ……ショッカーめ、この基地を放棄したな!?」 

 本郷が歯噛みする。と、不意に地鳴りが耳朶を打ち、足元が振動を始めた。 

「わわわわ……。な、何? どしたの?」 
「まさか……自爆するとか?」 
「いかん、脱出するんだ!」 

 ほうほうのてい、とばかりに脱出した三人の背後で、地下の空間が勢いよく崩落していく。 

「証拠は残さない、か……」 

 閉ざされた入り口を前に、エイジがぽつりと呟いた。 


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「すごい力だ……。俺は本当に、改造人間になってしまったのか……?」 

 しばし身体を休めていると、ふと本郷が誰ともなしに口を開く。先ほども持たれかかろうとして木の幹に触れた途端、相当な太さの木が根元から抜け倒れてしまったほどだ。 

「そうみたい……」 

 本郷の中に、常人とは異なる力を感じ、ランが頷く。 

「でも……戦ってる姿、カッコ良かったよ。悪い人じゃなくて良かった」 

 そう屈託なくランが微笑むと、本郷は少し照れくさそうに笑った。 

「ところで、君たちも改造人間なのか?」 

 本郷がひとまずの問いを口にする。先ほど自分の目の前で、自分と同様に変身した少年は「人造人間ですか?」と首をかしげた。 

「残念ながら、俺たちは違いますけど……まぁ、改造って意味では、あなたと同じかも知れません」 

 自分の手を握ったり開いたりして見せる。たしかによくよく思い出せば、あの姿は仮面ライダー……つまり、バッタの改造人間である自分とも、蜘蛛の改造人間であるあの怪物とも随分雰囲気を異にしていた。 
 ショッカーとはかかわりのない改造人間なのだろうか? だとしたら、彼らは…… 

「君たちは、一体……?」 
「普通の高校生……といいたいところですけど、最近はずっと休学してるし……」 

 そう言われて、本郷は改めてエイジたちを見る。恐らくは望まない運命に翻弄されてきたが故に、多くの修羅場をくぐってきたのだろう、少々陰の入った彼らの顔は、それでもあどけなさを残す。自分より幾分か年下なのだと認識した。 

「……そういえば、自己紹介がまだだったな。俺は<本郷猛>。城南大学の学生だ」 
「俺は、<叶エイジ>です」 
「あたしは<日向ラン>。エイジとは幼なじみだよ」 

 自己紹介を終えてから、ランが「ところで、本郷さん?」と質問を投げかけた。 

「どうして、改造人間手術を? <ショッカー>って、どんな組織なの?」 
「俺にもさっぱりだ……。ただ、ショッカーの首領は、改造人間が世界を動かし、その改造人間を支配するのが自分だ、と……そう、言っていた」 

 本郷の言葉に、エイジが絶句する。 

「……じゃあ、無理矢理に改造人間に? なんてことを……!」 
「ほんとだよぉ! 人の心を無視したやり方で、人間を改造するなんて……っ」 

 憤る二人に、本郷も大きく頷いた。 

「ああ、その通りだ。……君たちにもいろいろと事情がありそうだが……もう、君たちが何者であるかを問うつもりはない」 

 この俺と、共に戦ってくれた。 

 それで十分だと、本郷は言った。 

「奴らと戦うのに心強い仲間が出来たこと。それが、もう人間ではないこの俺の……たった一つの心の慰めだ」 

 そう言って本郷が浮かべた笑顔には、ほんの少しだけ哀しみが滲んでいた。 


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 世界征服を企む悪の秘密結社<ショッカー>に改造された本郷猛は、こうして正義の戦士<仮面ライダー>となった。 

 そして……<ヴォルテックス>という境遇の良く似た仲間の存在は、本郷に己の力を使い、ショッカーに挑むことを決意させる。 

 ショッカーと仮面ライダー。そしてヴォルテックスの壮絶な戦いが、ここに幕を開けたのだ……! 



   -次回につづく- 





 取り急ぎ、これで1話終了。 

 密度的には後半のはずなんですが、なんか文字数こっちの方が多いな。 
 まぁ、いいか(ぇ 

 さて、仮面ライダーの1話をフィーチャーしたこのシナリオ。 
 実は原作ゲームにおいて、登場していない人物がいます。 

 その人物とは……緑川博士。 

 原典の仮面ライダー第1話において、脳改造直前の本郷を救うべく発電機を破壊して彼を逃がす、といった役割です。 
 逃避行の最中で蜘蛛男に殺害されてしまい、以後出てこないのですが、もし出てきていたら、あるいはヴォルテックスORルシファードに救われて、他の博士たちと一緒にヒーローの強化パーツとか作ってたかも知れません(ゲームでそう言う要素があるのです)。 

 しかし、ゲーム中においては、本郷の脱出のきっかけとなった発電機の破壊をもたらしたのが、バイオ編だと謎の三人組(その正体は後に判明)。 

 メタル編にいたっては、 

 墜 落 し た 大 気 圏 突 入 カ プ セ ル (IN主人公) 


 実際に劇中で相方に突っ込まれてますが、なにやってんすかねタクマ=サン(メタル系主人公) 



 さて、しょーもないグチはこの辺にしておいて。 
 次回は、通常だとシナリオタイトル「ショッカーの陰謀」ですが、ちょいとオリジナル展開挟みます。 

 もっとも、原典のあるオリジナル展開ですけどね(なんのこっちゃ 


 そんじゃ、次回もGRENのブログ、非公式ノベライズをお楽しみに! 

 Wasshoi! 

※2014年04月29日 mixi日記初出