地球を狙う、数々の侵略者を抱える銀河系宇宙……その治安と平和維持を目的とした組織がある。
<銀河連邦警察>……バード星が中心となって結成させたこの組織は、超兵器を操る各星系に、担当任務官を派遣させていた。
その担当任務官……通称<宇宙刑事>と呼ばれる、その一人が、地球圏を目指していた。
その名は……。
「こちら、太陽系進出中のギャバン!」
青色の宇宙船の上に乗っかった、銀色の円盤が星光に照らされ煌く。超次元高速機<ドルギラン>のコックピット内。
同じく銀色のハイテク甲冑……<コンバット・スーツ>を身にまとった男……<ギャバン>と名乗った彼が、バード星にある銀河連邦警察本部へ向け、緊急の連絡を送っていた。
「太陽系五番惑星・木星付近で、銀河連邦S級指名手配犯……“黒騎士”<ルシファード>を発見した!」
『黒騎士ルシファードですって!?』
モニターの向こうで驚愕に目を見開いたのは、銀河連邦警察のマリーン秘書官だ。
『全宇宙の悪を陰から操る宇宙犯罪組織<戦闘船団国家ナガー>……その大幹部じゃないの!? ギャバン、あなた一人で大丈夫?』
「あぁ。確かに凶悪な相手だが……発見したからにはやるしかない」
「マリーン、もしも俺の身に何かあったら……地球地区担当の宇宙刑事の後任人事を、コム長官に頼んでおいてくれ!」
『ギャバン……解かったわ。でも、気をつけて。黒騎士ルシファードは、<融機鋼(ゆうきこう)>を持つ危険な男よ!』
<融機鋼>とは黒騎士ルシファードがその身に纏う、特殊甲冑兵装だ。その強度やパワーは、ギャバンたち宇宙刑事のコンバット・スーツに採用されているグランニウムに匹敵するが、それ以上に得体の知れない力を秘めているらしい。
「ありがとうマリーン。でも大丈夫さ! 超次元高速機ドルギランの威力を見せてやるぜっ!!」
言うが早いか、ギャバンがコックピットを飛び出し、宇宙空間に躍り出る。
「行くぞ、電子星獣ドルーッ!!!」
ギャバンからの音声信号をキャッチし、ドルギランの下部……青い宇宙船型のユニットがパージされ、変形を開始する。
青い竜をモチーフにしたスーパーメカ、<電子星獣ドル>の頭部に着地したギャバンは、一息に黒騎士ルシファードの駆るスペース・シップへと取り付いた。
「逃がさんぞ! 銀河連邦S級指名手配犯・“黒騎士”ルシファード!!」
ギャバンの声に、スペースシップから低い笑い声が響く。甲板に現れた漆黒の甲冑……その出で立ちは、まさしく“黒騎士”。
「宇宙刑事か? だが……俺の邪魔をすると生きては帰れんぞ! 我が<戦闘船団国家ナガー>は、誰の指図も受けんのだ!!」
「何ッ!? 貴様ら戦闘船団国家ナガーは、いったい何を企んでいるのだ?」
問い詰めるギャバンに、ルシファードは高笑いをあげてその問いをかき消した。
「貴様などに説明する必要はない。“鋼帝(こうてい)”<ゼファス>様率いる、我が戦闘船団国家ナガーこそが、全能で全知なる創造主なのだ!」
「鋼帝ゼファス?」
「そうだ! ゼファス様が、人類に警告を与え、人類を指導し、万物に対してその意思をお伝え
になるのだ!」
この全宇宙を生かすも殺すも、ゼファスの意のままであると、黒騎士が高らかに謳いあげた。
「なんだと!? そんな勝手なことは、この俺が許さん! この宇宙刑事ギャバンがな!!」
「ハッハッハッ、おもしろい……! 我々に歯向かうというのだな?」
ぶぅん、と白銀に煌く刃の、その切っ先がギャバンを睨みつける。
「ファディータ! この男と少し遊んでいくぞ?」
「了解、ルシファード!」
いつの間にか黒騎士の背後に控えていたもう一人の人影が、その輪郭を明確にした。
「むっ……相棒の<ファディータ>も一緒か!? 望むところだ! 行くぞ、ルシファードッ!!!」
「勝負だ、宇宙刑事!!!」
ブレードを構えたルシファードが跳び込む。ギャバンも剣を取り出し、それに応じる。
閃き、ぶつかり合った二条の銀線が、ゴングの代わりとなった。
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漆黒の騎士と、白銀の刑事の戦いは熾烈を極めた。
斬撃が舞い、レーザーと弾丸が飛び交う。
一進一退、互角の攻防が延々と続くかと思われた戦いであったが、少しずつ、ギャバンが劣勢になり始めた。
“黒騎士”の相棒、ファディータの存在だ。
黒騎士のパートナーだが、単独での行動が確認されていないため、手配犯としてのランクもそれほど高くはなく、また戦闘においても黒騎士の補佐に回ることが多かったことから、銀河連邦も強くマークはしていなかった。
(だが……手ごわいっ!)
「くっ、マズイな……このままではやられる! 何か、何か奴の隙を突かねば……!」
だが、これで終わりだ。
呟くように言ったルシファードの一言が、いやに響いて聞こえた。
「融機鋼、最大出力! 唸れ……重力子の弾丸ッ!」
ルシファードの右拳が赤く燃える。強烈なエネルギーの本流が渦を巻いて、形作られていく。
「あのエネルギー量は……マズい! ドル、最大戦速! 回避行動をとれッ!」
「もう逃げられん!」
グラビティ・ナパームッ!!!
打ち上げられたエネルギーの塊が頭上で爆ぜる。おびただしい数の弾丸が雨霰と降り注ぎ、ドルを、そしてギャバンを打ちのめす。
「くっ……ドルレーザーッ!!」
回避はほぼ不可能。このままではなすすべなく蜂の巣だ。ならばと、ギャバンが起死回生を狙って電子の獣に指示を飛ばす。
ドルの眼からレーザーが放たれると、その一閃が降りしきる重力子の弾丸を直撃した。
「何ッ!?」
固められた重力子がレーザーで解ける。行き場をなくしたエネルギーが飽和し、周囲のグラビティ・ナパームを巻き込んで大爆発を起こした。
全て……音も、光も、意識も……なにもかもが、吹き飛んでいく――
「……はっ!?」
次の瞬間。
意識を取り戻したギャバンは、自分が身一つで宇宙空間を漂っていることに気がついた。
「う、ううッ……。俺は、生きてる……?」
周囲を探り、ドルの姿を発見する。取り急ぎ、ドルにしがみついたギャバンは、待機中のギラン円盤……ドルが分離した片割れである……を呼び出した。
「俺は勝ったのか? 奴は、ルシファードは……?」
コンバット・スーツに備え付けられている高性能視認装置・レーザースコープを駆使し宇宙空間を睨みつけるギャバンだが、その漆黒の甲冑も、彼とその相棒が乗っていた宇宙船も、ついぞ発見できなかった。
「いない?」
だが、確かに手応えはあったと、ギャバンは確信した。グラビティ・ナパームに衝撃を与えて暴発を誘うのは自爆覚悟の決死行ではあったが、虎の子を利用されるのは向こうも想定外であったに違いない。
「しかし、これ以上深追いはできんな。俺もドルギランも、ボロボロだぜ……」
ため息混じりに呟く。銀色が美しいコンバット・スーツは所々が裂け、火花を散らしている。格納
形態をとり、ギラン円盤とドッキングしたドルともども、一度オーバーホールが必要だろう。
「一旦、バード星に帰るしかないな……」
地球への赴任はその後になる。それまで地球を狙う“悪い奴ら”が大人しくしていてくれればいいが……
詮無い希望を心の中で呟きつつ、ギャバンは自らの身体を休めるべく、ドルギランの船内へと戻っていった……。
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「ルシファード……ルシファードっ!」
重力子の崩壊に伴う大爆発に巻き込まれつつも、どうにか離脱を果たした黒騎士の宇宙船で、ファディータが悲痛な声を上げていた。
「うぅぅッ……」
爆風の直撃を食らったルシファードが、ひび割れた融機鋼の甲冑の奥で苦悶の呻きを漏らす。
「生命反応、微弱……。融機鋼、生命維持モードに移行」
ファディータが端末を操作し、ルシファードの甲冑にアクセスする。かろうじて残ったエネルギー
を、彼の命をつなぐために使い果たすと、鎧はその姿を維持できなくなり、崩れるように剥がれ落ちていく。
「ダメだ……や、やめてくれっ! 兄さん、姉さん……うぅッ、うぅ……やめてくれ、親父ッ!!!
」
ファディータの甲冑に、目の前の男の異常を知らせるアラートが鳴り響く。
「脳波に異常波動を検知! ルシファード、しっかりして! ルシファード!!」
ファディータの胸を、何かが締め付ける。
それが、彼を失いたくない心の叫び、そして痛みと哀しみだと“彼女”が気づくのは、もう少し後
のことになる……。
「お願い……タクマ~ッ!!!」
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人類は、未だ知らない。
木星軌道上で行われたこの戦いを。
そしてこれが、地球最大の危機の、ほんの序章であることも……
程なくして、木星圏から流星が二つ、地球に向かって流れて行く。
一度幕を下ろした“黒騎士”の戦いは、数週間後……地球を舞台に、再び幕を上げる!
スーパー特撮大戦200X/CRISES OF NAAGER
第2話:地球に墜ちてきた男
「スーパー特撮大戦2001」は、その実メタル系ありきのストーリーになっています。
今回のこのシーンは、メタル編第1話冒頭。本作の敵組織・ナガーの一員であったはずの黒騎士が、なぜこのゲームの主人公たる存在になったのか。そのいきさつが明らかになる場面。
戦闘船団国家ナガーとは? 黒騎士ルシファードとは?
その謎が、いつか明かされるときはくるのか……?
次回、ゲームでは起こりえなかった、バイオ・メタル両系の主人公たちがついに邂逅する!
※2014年05月02日・mixi日記初出