炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第2話/シーン1


 ――都内某所。 

 <Amigo>と名づけられたスナックの前に立った本郷は、一息に扉を開けたい衝動をぐっと抑えてゆっくりとカウベルを鳴らした。 
 未だ力をコントロールできない身では、ドアはおろか、蝶番ごと壁までひっぺがしてしまいそうだったからだ。 

おやっさん……立花のおやっさん!」 

 店主らしき中年男性が、その声を耳にした途端に眼を丸くする。 

「……猛!? お前、猛じゃないか!!」 

 立花と呼ばれた男が、驚きと喜びを混ぜ込んで顔をくしゃくしゃにする。 

「いったい、この一週間どこへ行ってたんだ? 練習走行中に突然いなくなっちまって……ずいぶん探したんだぞ……」 
「心配かけてすみません。実は……」 


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「う~む……」 

 本郷からここ一週間の出来事と、今自分のみに起こっている事実を伝えられ、立花は腕組みをして唸った。 

「信じがたい話だが……人間の十数倍もの体力の元が、それか?」 

 そう問いかける立花の視線の先には、粉々に砕けたコーヒーカップがある。力の調節を誤って、うっかり握りつぶしてしまったものだ。 

「ええ。風圧によってダイナモが回り、エネルギーが蓄積し、そのエネルギーが改造された筋肉に通じる!」 

 自分でもまだ信じられないと、本郷が頷く。 

「でも、これは現実なんです! 俺はこの力を……ショッカーの陰謀を打ち砕くために、使うと決めたんです!」 
「うむ。それでこそ、わしの知っている本郷猛だ! わしも微力ながら力になるぞ!」 

 力強い立花の言葉に、本郷は感謝を告げた。 

「あの、そろそろ俺たちのこと……」 
「おっと、すまなかったな。この人が、<立花藤兵衛(たちばな・とうべえ)>。俺の所属するレーシングチームのトレーナーだ」 

 俺の親代わりでもある。と続け、今度は藤兵衛にエイジとランを紹介した。 

「そうか……大変だったなぁ。火事で焼け出されるとは……」 
「いえ、もう3年前のことですし、放浪生活も慣れればわりと」 
「あたしはあんまり慣れなかったけどね……」 

 年端も行かない少年の口から、放浪の二文字がさらりと出て、本郷と立花は思わず顔を見合わせた。 

「ま、まぁ狭いところですまんが……自分の家だと思って寛いでくれ」 
「はい、ありがとうございます!。ふふっ、出会ったばかりなのにこんなに親切にしてくれて……立花さんって、いい人ですね?」 

 懐っこいランの笑顔に「いやぁ、困っとる人をほっとけんだけだよ」と大いに照れる立花である。 

 と、ランの携帯がメールの着信を告げた。 

「あ、おじいちゃんからかな?」 

 少し前に、祖父に近況をメールで伝えていたらしい。その返信と思い携帯を開くランだったが、すぐに「なぁんだ」と呟いた。 

「どうした?」 
「ううん、いつものニュースサイトのメルマガだった」 

 兄を探す手がかりの一端になればと、ニュースサイトのメール会員になっているランが、慣れた手つきでメールからサイトへアクセスする。 

「ええと……うわ、ここの近く?」 
「何がだ?」 

 エイジの問いに、ランが携帯を手渡して答えの代わりにする。【ORE_JOURNAL】と表示されたロゴの下で、ある事件の記事が掲載されていた。 

「『TDFの精鋭部隊員、定期パトロール中に消息を絶つ』……?」 

 記事によると、TDFの<ウルトラ警備隊>と呼ばれるチームの隊員が二人、パトロールを行っていたのだが、定時に送られる連絡が途絶えたままになっている、とのことだった。 
 何かしらの事件・事故に巻き込まれた可能性があるとして、ニュース記事は周辺住民への注意喚起で締めくくられていた。 

「ふうむ……気になるな? ウルトラ警備隊と言えば、天下のTDF・日本支部の司令部直属の特殊部隊と聞くぞ? その一員であれば、かなりの手練れだろうに……」 
「ええ。何かに巻き込まれたのだとしたら、それは……」 

 本郷の脳裏に、ショッカーの悪意がよぎる。 

「ランちゃん、連絡が途絶えたのはこの近くなんだろう? とにかく行ってみよう」 
「あ、ちょっと待って! もう一つニュース!」 

 携帯を返されたランが、続報を伝える。 

「なになに……『局地的な地震が発生。隕石の落下か?』おいラン、呼び止めてまで見せるニュースかよ……」 
「よく見てってば、ここ!」 

 携帯電話を突きつけるランに、今度は本郷が画面を覗き込む。 

「……む? この場所は……」 
「そう、あたしたちが出会った……ショッカーの秘密基地があった場所でしょ!?」 

 ランの言葉と本郷のリアクションに、ようやく気づいたエイジが目を見開く。 

「……偶然かも知れないが、何の関係もないとも思い難いな。こっちも気になるが……くそッ、どうすれば……」 
「ここは二手に分かれましょう。ショッカーの基地跡の方に、俺たちが行きます。本郷さんは、ウルトラ警備隊の方を」 

 迷う本郷に、エイジがそう提案する。わずかに逡巡したのち、本郷は「判った」と頷いた。 

「何かあったら、すぐに連絡してくれ」 
「ええ、そっちも!」 

 カウベルを鳴らし、エイジとラン、そして本郷が夜の街に飛び出した。 



   -つづく- 





 さて、前回からがらっと場面転換。 

 こちらはバイオ系シナリオ第2話「ショッカーの陰謀」(メタル系も同タイトル)。 

 ショッカーを退けた主人公たちを、本郷がアミーゴに誘い、立花と知り合うシーン。 

 ここでTDFとウルトラ警備隊の存在を説明し、蝙蝠男に襲われたソガとフルハシを助けに行く……というシーンなんですが。 

 どうもメタル系を前提にしたシナリオ展開なのか、バイオ系においてTDF説明への導入が無理矢理臭い。ランがTDFの通信員と知り合いという設定なのですが、それを聞いた立花が「なにッ、TDFだと!?」とすごい驚くんですが、いくらなんでも驚きすぎである。 

 ベースになったであろうメタル系シナリオだと、サキ(メタル系ヒロイン)が店のパソコン使ってTDFにハッキングしかけるという展開に対してのセリフなので、まだ判るんですがねぇ…… 

 まぁそのあたりはあんまり無理のないようにいじっています。 
 というかそもそも、今回はウルトラ警備隊を出さないので、説明させる必要もありませんしね。 

 で、ウルトラ警備隊におきた異変を察知するのと同タイミングで、更なる異変を察知して、主人公たちを向かわせる……というのが、本作初のオリジナル展開です。 

 当初、ノベライズを企画した際、第1話はメタル系からスタートする予定だったのですが、メタル系とバイオ系を競演させる関係上、メタル→バイオの順番で登場させようとするとかなりしんどいことが発覚したので、こんな感じで現在に至ります。 

 さて、蝙蝠男を本郷に押し付け(ぉぃ)、崩壊したショッカー秘密基地の跡地に向かうエイジとラン。そこで待つものとは……?

※2014年05月02日 mixi日記初出