炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第2話/シーン2

 ギィ……と、金属同士が擦れ軋み、ハッチが重力に流されるまま開き落ちる。 

 地面にめり込んだハッチを乗り越え、二人の男女が外に出た。 

「……どうやら、無事地球に降下したらしいな?」 

 長髪の男がふと空を仰ぎ見る。そろそろ深夜にさしかかろうかという夜空に、いくつもの星座が瞬いていた。 

「タクマ……この場合、無事?という表現は適切ではないかも知れません」 

 後から出てきた女性が、少々言いにくそうに指摘する。 

「それに……」 

 と、彼女の眼が、タクマと呼ばれた青年のさらにその先を見やる。 

「タクマから聞いていた地球人とは、ちょっとイメージが違います」 

 その言葉に、タクマはようやく目の前にいた赤タイツ……ショッカーの戦闘員を視線に捉える。 
 赤いペインティングを施された顔面は、脅威と敵意を帯びており、握られたナイフが月明かりに照らされて仄かに煌いた。 

「確かにその通りだな。しかも俺たちは歓迎されていないようだ……。サキ、こいつらの生体構造を調べるんだ」 

 タクマの声に、「了解!」と返した傍らの女性……サキが、戦闘員を一人、視界に収める。さまざまな情報が彼女を駆け巡り、達した結論は少々奇妙であったが、彼女は眉一つ動かすことなく、それをタクマに伝える。 

「スキャン終了。人体に明らかな強化改造の痕跡が見られます。“改造人間”のようですが、ヴォル細胞によるものとも思えません」 
「つまり、“ヴォルを使わない改造人間”か? この15年の間に、地球もずいぶん変わってしまったらしいな……」 

 感慨深げにタクマがつぶやく。その様子が癪に障ったのか、戦闘員たちが殺意を増した。 

「何をごちゃごちゃと言っている? 我がショッカーの邪魔をする奴は許さん! やってしまえッ!!」 
「いいだろう。お前たちを倒し、どこの誰がそんなことをしたのか確かめてやる、こいッ!」 

 タクマが腰を落とし、臨戦体勢をとった。 


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「確か、この辺りだったよな……?」 
「あっ、エイジ! あれあれ!」 

 記憶を頼りに夜の山中に飛び込んだエイジたちの視界に、夜闇にまぎれながらもうっすらと黒煙が立ち上るのが見えた。 

「あっちから、イヤな“気配”も感じる。ショッカーの戦闘員!」 
「わかった、行こう!」 

 感じた覚えのある、まったく同一の気配を複数感じ、ランの案内で闇に解けた獣道を疾走するエイジは、果たしてショッカー秘密基地の、その跡地へとたどり着いた。 

「あれ? 戦闘員の気配が減っていってる……?」 
「……どうやら、先客がいたみたいだな」 

 戦闘員をとび蹴りで吹っ飛ばした人影を、エイジがヴォル細胞で強化された視力で把握する。年のころは20代前後……本郷と同い年か、ちょっと上くらいだろうか? 

「タクマ、闖入者です」 

 エイジの存在を見咎め、二人の間に割ってはいる女性の姿が視界に飛び込む。ライトグリーンの髪は、まるで作り物のようで、エイジに妙な違和感を抱かせた。 

「……これは……!」 

 と、女性……サキがエイジとランを見て眉をひそめる。タクマに声をかけようとした次の瞬間、目の前の地面が突然隆起を始めた。 

「タクマ、地中からエネルギー反応!」 
「エイジ、地面からイヤな感じがする!」 

 サキとランが同時に叫ぶ。タクマとエイジがそれぞれパートナーを庇い立つ、その目の前で、土塊が砕け、中から緑色の人影が姿を現した。 

「こいつ……ショッカーの改造人間か!?」 

 エイジが即座に臨戦態勢をとり、タクマに「危ないです、下がって!」と叫ぶ。 
 全身を緊張させ、内に眠るヴォル細胞を目覚めさせる。 

 転瞬――エイジは、<ヴォルテックス>となり、緑色の怪人と対峙する。 
 その姿を目の当たりにし、タクマが眼を見開いた。 

「これは……サキ!」 
「ええ、彼は“ヴォル細胞による改造人間”です。覚醒こそしていませんが、後ろにいる少女も……」 

 サキの言葉で核心にいたり、タクマがぐっと拳を握る。 

「ヴォル細胞……予想以上に早く出会えるとはな……!」 
「ですが、二人とも脳細胞の侵食にまではいたっていないようです。つまり……」 
「自我が存在する、ということか?」 

 タクマの問いに、サキが小さくうなづいた。 

「はい。タクマ……貴方が自我に目覚め、自分を取り戻したように」 

 抗っているのだ、あの二人も。 
 その事実を知り、タクマが心を奮い立たせる。 

「放っては置けないな? サキ!」 
「はい!」 

 ヴォルテックスを援護するべく、戦場に近づくタクマたちの前に、再び戦闘員が群れを成す。 

「基地に取り残された<セラサニア人間>が目覚めたのは想定外であったが……回収の邪魔はさせんぞ!」 
「ちぃッ、増援か。サキ、<融機鋼>発動! 一気に叩くッ!」 
「了解!」 

 サキの瞳が一瞬煌き、周囲にホログラフィによるモニターが浮かび上がる。 

「装着位置座標、指揮衛星に転送! 

 環境設定=【重力下戦闘】 
 兵装選択=【白兵戦】 

 ……融機鋼、発動! いけます、タクマ!!」 


「融機鋼……着装ッ!!!」 

 刹那、タクマとサキ……二人の身体が、メタリックに輝く装甲に包まれた。 
「融機鋼殻・タイプ:D……ルシファード、着装完了!」 
「融機鋼殻・プロト:ゼロ……ファディータ、着装完了!」 

 ルシファード、そしてファディータが<融機鋼殻>を着装するタイムは、わずか0.3ミリ秒に過ぎない。では、着装プロセスをもう一度見てみよう! 

 地球の衛星軌道上――常にタクマの頭上に存在する指示衛星に、タクマによる音声信号が届く。キャッチの瞬間、衛星に内蔵された生体金属・融機鋼がエネルギー状となってタクマに降り注ぐ。 
 事前にプログラミングされたデザインラインにそって、超微小のチップへと形状を変えた融機鋼がタクマの周囲で甲冑を形作る。 
 一方、サキは事前に所持していた融機鋼を内包したカプセルを握りつぶし、周囲へ散布する。同じくチップ状へと変化した融機鋼が、サキと結びつき、表層を覆っていく。 
 定着した融機鋼チップが、鎧として定着すると、人体とメカニズムの融合を果たしたそれは、まさしく究極のマン・マシン・インターフェースとなり、身体能力を極限にまで強化するのだ。 

 その姿は、まさしく宇宙を震撼させた“黒騎士”ルシファードそのものであったが、あの時とは明らかに異なる部分があった。 

 黒騎士の異名、その元となっていた黒一色の体躯は、各所を真紅の装甲に変え、その印象を一変させている。知らない人が見れば、まさしくヒーロー然とした姿であった。 


「変身した!? あの人たちも俺たちや本郷さんみたいな……?」 
「話は後だ! とにかく、こいつらを片付けるぞッ!」 

 大振りの刀を取り出し、戦闘員を切り払いながらルシファードが叫ぶ。「わ、わかった!」と思わず気圧されながら、ヴォルテックスはヴォルブレイドを構え、改造人間……戦闘員が<セラサニア人間>と呼んだ怪物に挑んだ。 


「ファディータ、俺の援護は後回しだ。あっちの娘は“変身”ができないんだろう? 守ってやれ!」
「了解、ルシファード!」 

 ルシファードからの指示を受け取り、危なっかしげに戦闘員と戦いながら離脱する少女のもとへと駆け寄る。 

「大丈夫?」 
「え? あ、は、ハイ……あ、危ない!」 

 身を案じる甲冑姿の女性に、驚きながらも礼を述べるランだったが、その背後から迫る戦闘員の姿を見つけ、その危機を叫ぶ。 

「デストロイヤー・ブラスト!」 

 振り向きざまに右腕から放たれたレーザーが、戦闘員を撃ち抜く。 

「教えてくれて、ありがとう」 
「あ、いや、どういたしまして……?」 

 本当はセンサーの働きで気づいてはいたが、彼女の好意を無碍にすることを良しとしないファディータが、仮面の向こうで微笑んだ。 

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「くそっ……戦いづらいな、こいつ!」 

 セラサニア人間と戦いながら、ヴォルテックスが歯噛みする。 
 どうやら植物をベースとした改造人間らしいセラサニア人間は、身体に生えたツタを鞭のように振り回し攻撃してくる。ヴォルブレイドで応戦し切り裂いても、切った端から再生を始め、決定打を与えるには至らない。 
 間合いを変えるか、と飛びのこうとしたその身体を、セラサニア人間のツタが絡めとった。 

「うわっ!?」 

 しまったと思う暇もなく、セラサニア人間がヴォルテックスを押し倒し身体を押し付けてくる。その体表から体液が滲み出し、ヴォルテックスの身体を溶かしだした。 

「こいつ……俺を食う気か!?」 

 脱出を試みるが、足を根付かせたセラサニア人間の圧力は思いのほか強い。焦りが背中を冷たくさせる。 

「メーサービットッ!」 

 と、セラサニア人間の身体越しに数度衝撃が伝わり、戒めが解けた。体液で焼け爛れた腕を庇いつつ立ち上がると、空中を縦横無尽に舞う金色の羽がルシファードの背中に戻っていくのが見えた。 

「しっかりしろっ!」 

 バランスを崩しかけたヴォルテックスを支えて、ルシファードがファディータに声をかける。頷いたファディータが右腕の銃口をヴォルテックスに向けた。 

「えっ!? ちょ、何するのよ!?」 

 すわエイジが撃たれる、と右腕を引っつかんで止めようとするランに「大丈夫よ」とだけ言って、

ヴォルテックスに照準を合わせる。 

「メディカル・ブラスト、放射」 

 銃口から青色の光が放たれ、ヴォルテックスの身体を包む。と、見る間に体液に焼かれた傷が元通りになっていった。 

「すご……」 
「ね? 大丈夫だったでしょう?」 

 右腕にしがみついたままのランに、ファディータがそう言った。 

「っ、来ます!」 

 ルシファードの不意打ちにひっくり返っていたセラサニア人間が再び立ち上がる。 

「接近戦は不利だ、アウトレンジから一気に行くぞ!」 
「は、はい!」 

 刀を格納し、今度は両手に大型の拳銃を呼び出す。高速で撃ち出される融機鋼の弾丸が、セラサニア人間の触手を身体ごと撃ち砕く。 

「よし……こいつでッ!」 

 ヴォルテックスが丹田に力をこめる。胸板が“開き”、その内側のクリスタル状の物質が高エネルギーを帯び始めた。 

「くらえっ、ヴォルカノン・ハウリングッ!!!」 

 絶叫とともに、ヴォルテックスの全身が吼え猛る。放たれた超高エネルギー弾が、セラサニア人間を跡形もなく吹き飛ばした。 

 ……断末魔すら残すことなく。 


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「大丈夫ですか……って言うか、助かりました。ええと……」 

 変身を解き、駆け寄るエイジに、ルシファードもまた、変身を解いて向き直る。 

「俺は、<迫水タクマ>。こっちは、俺の相棒の<サキ>……。いろいろとあってな。目的は変わってしまったが、ようやく地球に降下することができた」 
「地球に……?」 

 宇宙人か何かですか? と無遠慮に聞くランに、タクマが苦笑した。 

「こう見えても、俺は地球人さ。だが……見てもらったとおり、普通じゃあないがね」 

 とはいえ……と、タクマがエイジたちを値踏みするように眺める。 

「普通じゃない、と言う意味では、キミたちもそのようだな。……そのヴォル細胞、どこで手に入れ
た?」 

 じり、とにじり寄る強い気配に、エイジたちの肝が冷える。 

「ヴォル細胞を知っているんですか?」 
「まぁ、な……それで、どこだ?」 
「野島崎で発見されたってことは。でも、ごく少量のサンプルしか入手できなかったと聞いています」 

 今行っても、見つからないんじゃないですかね? 
 タクマはサキに視線を送る。「嘘はついていないようです」という彼女の言葉にうなづき、タクマは努めて表情をやわらかくして見せた。 

「すまんな。ちょっと立て込んだ事情があるんだ」 
「はぁ……」 

 やや険悪な雰囲気を払拭せんと、サキが声をかけた。 

「と、ところで……あの改造人間たちは? あなた方と違って、ヴォル細胞は用いられていないようでしたが……」 
「うん、<ショッカー>って言う秘密結社なの。さっきのとか、蜘蛛の改造人間とかを使って世界征服をたくらんでるんだって」 

 サキの問いにはランが応えた。話題と空気が変わり、内心ホッとしながら、タクマが腕組みをする。 

「改造人間を使った世界征服か……いかにも“連中”が考えそうなことだな? もしかすると……」
「タクマさんは、誰かを探してるんですか?」 

 知った顔を浮かべるタクマに、今度はエイジが問いかける。 

「はい。タクマは……」 
「サキ! ……余計なことは言わなくていい!!」 

 代わりに応えようとしたサキに声を荒げ、彼女は「失礼しました……」と声を落とした。 

「あ、いや。話したくなければ、別に。俺たちだって、あんまり話したくないこともあるし……ここはまぁ、おあいこってことで」 

「……すまんな、エイジ」 

 タクマの謝辞に、「気にしないで下さい」と返し、エイジが握手を求める。 

「ともあれ、あなたは俺たちと一緒に戦ってくれた。本郷さんじゃないけど、それだけで十分ですよ」 

 心強い仲間が増えた。それは、本郷にとってもグッドニュースになるであろう。 
 エイジは、今の地球の情報が欲しいと言うタクマとサキを誘い、アミーゴに戻るのだった。 


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 エイジが出会った、漆黒の融機鋼を操る騎士・ルシファード。 
 彼もまた、運命に抗おうとしている戦士の一人だった。 

 ショッカーと戦う仮面ライダー、そしてヴォルテックスの新たな仲間として、謎を秘めた戦士の戦いが、再び幕を開けようとしていた……。 




   -次回に続く- 



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 今回は、原作ゲームでは存在しない、メタル系・バイオ系両主人公の邂逅。 
 無論、ここで終わりではなく、ラストまでタッグを組んでやりますぜい。 

 というか、原典においても、スパロボZ(第1次)でのランドとセツコ程度の接触があってもおかしくなかったと思うんですよねぇ。 
 バイオ系主人公のメイン敵キャラがメタル編にも普通に出てきますし、メタル系の身内ももちろんバイオ系の主要敵ですし。 

 さらには劇中で、バイオ系・ヴォルテックスの力の源・<ヴォル細胞>と、ルシファードの鎧を構成する<融機鋼>の両者は浅からぬ関係があることを示唆されていますしね。 

 このネタを使わない理由はないでしょうということで。 

 もっとも、これをすることで劇中では割かしスルーされていた疑問点が浮き彫りになったりもするので、その辺は独自設定を組み込みつつどうにか。 

 さて、今回登場のメタル系主人公・迫水タクマ/ルシファード&サキ/ファディータについて少し。 

 冒頭のギャバンとのシーンからお察しいただける通り、もともと彼は本作の敵組織である<戦闘船団国家ナガー>の一員、それも大幹部の一人。 
 ゲームをやったことがある方であればお分かりいただけると思いますが、その立ち位置は某宇宙の騎士のようなもの。変身のサポートをするという点では、サキもなんかあのロボットっぽい。 

 劇中のセリフに、「15年の間に~」というのがありますが、スパロボ系統ではおなじみの「キャラクター辞典」には、バイオ系二人には設定年齢が付与されているんですが、メタル系の彼らは設定がなく、年齢不詳。キャラビジュアル(製作スタッフ曰く、モデルは竹之内豊氏、加藤あい女史とのこと)を参考に見た目年齢を文中で表現したけど……もともとの出自考えると、実年齢30オーバーとか余裕なんだよなこの人w 
 恐らくは融機鋼の影響で肉体年齢がとまっている、という考察の元やってます。 

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 新たに仲間になった、タクマとサキ、ルシファードとファディータ。 
 TDFの協力もわずかながら得られるようになり、ショッカーとの戦いも少しずつ軌道に乗り始めた。 
 そんな中、新たな敵が台頭を始める。その名は<新人類帝国>! 

 その尖兵・イツツバンバラと遭遇したランとサキは、彼女たちを守るべく立ち上がった男、渡五郎と出会う……! 

 次回、スーパー特撮大戦200X/CRISES_OF_NAAGER 

 第3話「恐怖の新人類」 

 次回もこのチャンネルで、融機鋼、着装ッ!!

※2014年05月05日 mixi日記初出