炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第5話/シーン3

「大丈夫か、エイジ、ラン!?」
「ルシファード……タクマさん?」

 魔空空間内で身動きの取れなくなっていたヴォルテックスとランを見つけ、ルシファードが二人を抱える。融機鋼が有する空間同調システムの恩恵をわずかばかりに受けた二人が、大きく息を吐いた。

「んも~っ、なんなのこれぇ……ゼリーの中に入ってるみたいで動けないし息苦しいしさぁ……」
「ここは魔空空間。マクーの本拠地と同じ空間が、今ここに形成されているんだ。俺たちはどんな空間でも行動できる装置を持っているから動けるってわけさ」

 ずる~い! とお門違いな講義をするランをファディータに預ける。「本郷さんたちは?」と問いかけるヴォルテックスに、すでに救出したことを伝えた。

「後回しになってしまってすまないな。お前たちを回収すればひとまず終了だ」
「あ、いや待ってください。魔空空間に巻き込まれる寸前、迷彩服を着た人影が見えたんです。ひょっとしたら、警備班の人たちかも……」

 ヴォルテックスの進言に、ファディータが検索を開始する。

「確認しました。エイジくんやランちゃん以外に、人間の生体反応が5つ。TDFの警備班員です!」
「わかった。サキ、警備班たちの方へ向かえ。俺はエイジたちを外に出してから再突入する!」
「了解!」

 ルシファードがエイジたちとともに魔空空間を離脱したことを確認し、ファディータがさらに奥へと進んだ。


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「ドルファイヤーッ!」

 電子星獣ドルの口から放たれる超強力火炎放射を浴びせられたマクー円盤がそろって燃え尽きる。這う這うの体で脱出したダブルマンは同様に逃げ延びたクラッシャーを伴い今度は白兵戦でギャバンに挑む。

「くたばれっ、宇宙刑事!」

 振りかざす青竜刀に、スーツから引き抜いたブレードでギャバンが対する。

「フフフ……魔空空間で強化されるのはモンスターだけではない! このダブルマンも3倍のパワーを得るのだ!」
「ぐっ……!」

 ぎりぎりとつばぜり合いがギャバンを圧す。その背後から、シャコモンスターがぬっとあらわれる。くるりと背を向けると、背中の斑点が熱を帯び始めた。必殺の熱光線をギャバンに浴びせるつもりなのだ。
 逃れようにもダブルマンとのつばぜり合いに抑え込まれ、その周囲ではクラッシャーが牽制のナイフを振り回す。
 万事休すか、とギャバンが覚悟を決めたその刹那、異空間を切り裂く煌く刃の群れがシャコモンスターの背を切り裂いた。

「シュ~ッ!!?」
「なにっ!?」

 意図せぬ闖入者に驚き力を弱めてしまったダブルマンの隙を突き、ギャバンがブレードを振り上げて獣星人を弾き転がした。

「ぐっ……今のは、黒騎士の翼……?」

 シャコモンスターをなます切りにして飛び去る金色の羽が戻った方をレーザー・スコープが睨みつける。ほどなく黒騎士……いや、そのカラーこそ赤を基調としたものへと変化していたが、そのシルエットは紛れもなく指名手配犯である……ルシファードの姿をとらえた。

「何のつもりだ? この俺に恩を売ったところで……」
「そんなつもりはない。事情聴取ならあとで受けると言った」

 今はマクーを倒すことが先決だ。とギャバンに言い放ち、ルシファードが高周波ソードを振りかざしベム怪獣へと飛びかかっていく。

「……っ言われるまでも!」

 追っている犯罪者であるはずの男に諭され、かっと頭に血がのぼりかけるが、目の前で行われる犯罪行為は阻止しなければならない。
 マクーを倒すこと。それがギャバンに課せられた使命なのだから。

「レーザー・ブレード!」

 ギャバンの掌から送り込まれるダイナミックレーザーパワーが、刀身を青く煌かせる。正義に燃える闘志がその輝きをさらに増し、切り結んだダブルマンの青竜刀を叩き払う。


ギャバン・ダイナミックッッ!!!」


 大上段に構えた光刃が一息に振り下ろされる。躱すことも防ぐこともままならないまま、ダブルマンの身体は文字通り両断され爆発四散した。


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 ギャバンがダブルマンを斬り捨てたのと、魔空空間が消滅したのはほぼ同時であった。

 すぐ傍に視線を向けると、ルシファードもシャコモンスターを撃破した直後であったようだ。紅い鎧を脱ぎ、無防備にも生身をさらす指名手配犯に少々訝しみながら、ギャバンもコンバットスーツの定着を解除した。

「……ルシファード」

 問い詰めようとしたところで、「タクマ!」と声をかける者があった。本郷たちである。

「助かったよ。しかし、空間を自在に操るとは……恐るべき科学力を持っているようだな、マクーは……」
「今はまだいいが、万一ショッカーと連携なんか組まれちゃたまったもんじゃないな。魔空空間に対応できる改造人間とか造られちゃやっかいだぜ……」

 目的を同じとするものであるし、今回の戦いで自分たちが邪魔者であることも知れた。ともすれば共同戦線を張られる可能性もある。憂慮する戦士たちが、ふとジャケット姿の男に気づく。

「ところで、君は?」
「俺は、ギャバン……。銀河連邦警察・地球地区担当の宇宙刑事だ」

 問いかける本郷に対し、ギャバンが自らの身分を提示する。

宇宙刑事? って……宇宙の刑事だよね?」
「……まぁそうだな。ってそのまんまだぞ、ラン」

 素っ頓狂な発言をするランと冷静に突っ込むエイジを横目に、マクーを追って地球地区に赴任したことをギャバンは語る。

「ところで……この男は君たちの仲間か?」

 ふとギャバンが視線を送る。その先には先ほどから黙して語らないタクマの姿があった。

「タクマさんのことですか? この人は、サキさんと一緒に悪と戦ってる、俺たちの仲間ですよ」

 エイジが説明すると、ギャバンが小さく鼻を鳴らした。


「なるほど……うまく取り入ったもんだな、ルシファード!

 ……いや、戦闘船団国家ナガーの大幹部……と言うべきかな?」


 ギャバンの言い放ったその単語に、戦士たちが疑問符を浮かべる。

「いったい、何を言っているんだギャバン?」
「みんな騙されるな! こいつは敵だッ!!!」

 五郎の問いかけに即座に張り上げた声が返ってきた。

「なんとか言ったらどうだ……? 銀河連邦S級指名手配犯・“黒騎士”ルシファード!
 鎧のカラーまで変えて正義のヒーロー気取りのつもりか? ええ?」

 強い調子で詰問するギャバンに、表情一つ変えることなく、タクマは微動だにしない。

「タクマ……彼の言っていることは本当なのか? なんかの間違いだろう?」

 そう問う一文字に、顔を上げたタクマは「間違いなんかじゃあないさ」と首を横に振って見せた。

ギャバンの言う通りだ。俺はかつて、戦闘船団国家ナガーに身を寄せていた……」

 淡々と告げられる“事実”に、仲間たちが絶句する。隣で、あるいは背中を預けて共に戦ってきていた戦友が、悪の手先であったというのか。

「ルシファード、お前を逮捕する! 権利を読み上げる必要はないな? さぁ、おとなしく……」
「待って!」

 連行しようとするギャバンを止める者がいた。タクマのパートナー・サキだ。緑色の髪の毛を振り乱し、おそらくは仲間たちも始めてみるであろう、必死の表情で。

「タクマは、あの戦いの……あなたとの木星圏での戦いの後から人が変ったように……おそらくは、自我に目覚めています! 今は、今は正しい心を持って……!」
「……いいんだ、サキ」

 それを止めたのは、ほかならぬタクマであった。

「俺の手は、とっくに血で汚れている。……言い逃れすることはできないさ」
「タクマ……」

 諭されたランに、もう抵抗する気力はなく、ギャバンを抑えていた腕の力が緩んだ。

「……ギャバン。できれば詳しい事情を聴きたいんだ。俺たちはタクマと仲間として戦ってきた。俺たちは、彼のことを知る権利がある。もっとも……」

 タクマがそれを許してくれればだが……と本郷がちらりと視線を向ける。タクマが小さく首肯した。

「……まぁ、いいだろう。どこか腰を落ち着けられる場所はあるか? さすがに往来の真ん中でってわけにもいかないだろう?」
「あ、じゃあアミーゴに案内します。俺たちの……まぁ、基地みたいなものかな? コーヒーも出ますよ」

 基地で出るコーヒー、というみょうちくりんなワードに首をかしげながら、ギャバンがその提案を承諾し、エイジたちの案内でアミーゴへと向かうことになった。

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 ――宇宙刑事ギャバンによってもたらされた衝撃の言葉……
   果たして、彼の言う通りルシファードは敵なのか? <戦闘船団国家ナガー>とは何か?
   ヒーローたちの結束に、暗い陰りがかかっていった……



   -次回に続く-




 魔空空間の内部描写って結構いろいろありますよね。
 惑星が乱れ舞う宇宙空間風だったり(土星の輪の上で戦ったり!)、とつぜん例の石切り場に移動したり。
 「ゴーカイVS」でも登場した不思議な町風だったり(サブタイでいう「魔空都市」)。

 もともとはギャバンのスーツがめっちゃ反射して屋外での撮影が困難なための代替策だったようです。
 街中などから造成地への移動への違和感解消なんかは副次的なものですね。

 後のシリーズでも幻夢界・不思議時空と続き、スピルバンでは主人公サイドが展開するバイパススリップなるものも登場。
 少し時を経て、ビーフィアターではガオームゾーンなるものも登場しましたね。
 戦隊でもゴーゴーファイブでサイマゾーンとか出てました。影響力パネエ。


 さてさて。
 ルシファードは、ナガー時代には“黒騎士”の異名を持っていますが、そのビジュアルは到底「黒騎士」とはほど遠い赤を基調としたもの。

 実際、メタル編プロローグでは真っ黒なルシファードがギャバンと戦っているのですが……

 ボディが赤くなっていることに対しては特に言及がないんですよね。
 ノベライズ版でも言及を避けていますが。

 一応個人的な予想では、自我と正義の心を取り戻したことで色が変わったのではないかというところか。
 彼らが装備している融機鋼は、使用者の意思に応じで可塑デザインできる特性があるそうなので。(ゲーム中キャラクター辞典参照)

 ところで。
 このエピの終盤でギャバンに問い詰められるタクマに本郷がその正否を問いかけるのですが、ここで素直に話すかツン発動してそっぽ向くかで次回シナリオが変化する分岐となっています。
 おそらく性格的には素直に話すと思うんですけどねえ、このシト。
 逆に迷惑かけまいとそっぽ向く可能性もありありですが。


 ――ギャバンにより、その過去が明らかにされるルシファード=迫水タクマ。
 彼はなぜ、悪の組織に加担していたのか。そして、その悪の組織・戦闘船団l国家ナガーとはなんなのか?

 一方、ショッカーと新人類帝国に接触する二つの影。
 それは、タクマもよく知る人物であった!

 次回「スーパー特撮大戦200X」!
 第6話「邪学者、そして闘姫」に、蒸着ッ!!!