炎部さんちのアーカイブス あるいは永遠的日誌Ver.3

日々是モノカキの戯言・駄文の吹き溜まり

スーパー特撮大戦200X:第6話/シーン4

 突然のルシファードの出現に眼を見開いたのは、ヒーローたちだけではなかった。

「ルシファード!? 今までどこにいた?」
「鋼帝ゼファス様がお怒りになられているわよ!」

 こちら側へと呼びかける二人を、しかしルシファードは全力で拒む。

「俺は、あの呪縛から解き放たれた! アプファロン、アテファリナ! 正気に戻った今……貴様らナガーの陰謀を許すわけにはいかないッ!」

 その眼にしっかりと宿る“意思”に、二大幹部の表情が訝しげに歪む。

「ふん……ナガーのコントールを解除したというのか? 興味深いな……」
「これは是非、生きたまま鋼帝ゼファス様の前にお連れして、原因を調べてみたいわね……」

 ぞっとしないアテファリナの言に、構えを解くことなく、ルシファードは再び言葉をぶつける。

「俺は、できる限りお前たちとは戦いたくない! 地球をあきらめて“艦(フネ)”に帰るんだ!!」
「誰に向かって口をきいている、ルシファード! 貴様が融機鋼を扱えるようになったのは誰のお陰だと!?」

 不意にアプファロンの声のトーンが1オクターブ下がる。戦場の空気が一瞬で冷え切った。

「……腕の一本でもへし折って、もう一度崇高なるナガーの精神を叩き込んでやろうか……アテファリナ」
「ええ、行くわよ……」


  ――融機鋼、着装!


 二人が手にしたカプセルをやおらに握りつぶす。それが融機鋼の入ったアンプルであると理解した刹那、解き放たれたメタリックの原核細胞が二人の身体を包み込む。
 転瞬、二人の肉体は禍々しい甲冑に彩られた。

「さぁ、再教育をはじめようか……アシッドニードルッ!」

 融機鋼殻を纏ったアプファロンの、右腕に備わったランチャーが、巨大な毒針を撃ち放つ。

「Dフィールド展か……ぐわっ!」

 とっさにバリアを張るルシファードだったが、苦も無く砕かれ、足を穿たれてしまう。

「フン……その程度、児戯にも劣る。貴様の融機鋼殻の基礎プログラミングは我らの手によるものだぞ?」
「創造主には逆らえない……大人しく眠ってなッ、この愚弟がッ!!!」

 激昂したアテファリナの、融機鋼で強化されたプラズマウィップが空気ともにルシファードの装甲を裂いた。

「ぐわあっ!?」
「どうした、ルシファード!? かつて“破滅へ導く者”とまで謳われた貴様の力はその程度なのか?」

 アプファロンの言葉に、砕けた仮面の向こうで、素顔の瞳が怒りにギラつく。

「なんだと!? そんなに俺の力が見たいのか!?」

 開いた掌を拳に変える。

「かつて、数々の星に恐怖と混沌を。破滅をまき散らしたあの“力”を……!」

 それは、正義の心を取り戻してからは二度と使うまいと封じていた力。

「だが、今の俺は躊躇うことなく貴様たちに放つことができる! 俺の融機鋼、最強の技ッを!!」


  ――融機鋼、リミッター解除!


 その言の葉が紡がれると同時に、ルシファードの周りの大気が爆ぜる。膨大なエネルギー量が、彼を取り巻くのが、後ろのヴォルテックスたちにも見て取れた。

「唸れッ、重力子の弾丸……」

 迸るエネルギーの暴風が一つに集まり、ひとつの塊を生み出す。普段は広範囲爆撃<グラビティ・ナパーム>に使用する重力子エネルギーを、さらに強化、圧縮する。

「うおぉぉぉ……っ!」

 左手が重力子の弾丸を掴む。わずかながら刺激を受けたそれは、あと一息で暴発しそうなまでにエネルギーを膨れ上がらせている。

「いくぞっ……<グラビティ・ファントム>!!!」

 掌を押し出す。解き放たれた重力子エネルギーの塊は、一直線に二大幹部へと向かい……爆裂した。

「ぐっ……これは……!?」
「融機鋼が……オーバーフローする……っ!」

 荒れ狂う重力の螺旋が、アプファロンとアテファリナの融機鋼を裂き砕く。歪む空間が元に戻ると、そこには満身創痍の二人が立っていた。

「……この威力、計算違いだ……」

 荒く息をつくアプファロンが、融機鋼殻を解く。

「だが……貴様らがどんなにあがこうと、我がナガーは目的を達成する!」
「必ずね……」

 今回はこの勝負、預けてあげるわ。
 そう呟きを残して、二人の姿が影法師となり、刹那に掻き消えた。

「逃げた……いや、“逃げてくれた”だな?」

 絞り出すようにつぶやいたルシファード。その融機鋼殻がエネルギー切れをおこして霧散する。倒れかけるその体を支えたのは、変身を解いたエイジと本郷であった。

「大丈夫ですか?」
「ああ……ちょっと無理をしただけさ。俺も……サキもな」

 ふと空を見上げ、タクマが目を細めた。



   * * *



「どうして戻ってきた?」

 戦いが終わり、面々はアミーゴへと戻ってきていた。

「……俺はかつて、戦闘船団国家ナガーの<黒騎士ルシファード>として、暴虐の限りを尽くしてきた。だがそれは、俺の本心じゃあなかった」
「どういうこと?」

 ランの問いかけに、タクマは「支配されていたのさ……」と答える。

「鋼帝ゼファス……ナガーの首魁であるそいつに、俺の意識は書き換えられていたんだ」

 そんな彼は、木星圏でギャバンと戦い、その時に受けたダメージで、偶然にもその呪縛から解き放たれたのだという。

「話はサキさんから聞かせてもらったぜ!」

 不意にカウベルが鳴り、ギャバンが顔を出す。その傍らには、力なく彼に肩を貸すサキの姿があった。

「俺は、地球の悪の組織に浸透し、決して表に出ることなく地球侵攻をたくらむナガーを、どうしても許せん! 奴らの陰謀を挫くことが、俺のせめてもの罪滅ぼしだと思っている……」
「……」

 タクマが、ギャバンに視線を向ける。

ギャバン、またしても迷惑をかけてすまない。だが、アプファロンとアテファリナの姿を見たとき、居ても立ってもいられずあんな行動を……」
「ああ、本当に許せんな!」

 不意にギャバンが大きな声で言い放った。

「おい、タクマもこんなに謝ってるじゃないか……」

 たしなめる五郎に、ギャバンは「俺が言っているのはサキさんのことだ!」ともう一つ語気を強めた。

「聞けば強制転送とやらは、ひどくエネルギーを使うらしいじゃあないか? 見ろ、サキさんがこんなに……」
「いいんです……」

 か細い声でギャバンを制止し、小さく礼を言ってから彼の肩から離れる。おぼつかない足取りで歩み、サキはそこが自分の居場所だとばかりにタクマの傍に寄り添った。

「私の使命は、タクマをサポートすること。そう造られているのです。どうかタクマを許してあげてください」
「造られてる、って……?」

 サキの目がタクマを見る。小さく首肯した彼に応え、サキは自らの素性を仲間たちに明かした。

「黙っていてごめんなさい……」
「気にしなくていーよ、サキさん。私たちみんな、どっかにヒミツ抱えて生きてるんだもん。お友達がロボットだって、関係ないよ!」
「ランさん……ありがとうございます」

 あっけらかんと彼女を肯定したランに、サキが目頭を熱くする。「たまにはいいこと言うんだな」と茶化すエイジに「いつも言ってるでしょー」と噛み付くさまもどこか嬉しげだ。

「……いくら意識を支配されていたとはいえ、俺はお前を逮捕せねばならん!」

 その空気を壊すかのように、ギャバンが堅く言い放つ。

「だが……お前が、自分のしてきたことを悔やみ、そして正義の為に戦うというのなら……。ナガーを、そして地球にはびこる悪の組織を根絶するまで、お前の身の自由を保証してやろう」

 手にしていた手錠を懐に仕舞うギャバン。わっ、と俄かにアミーゴが沸き立ち、仲間たちがタクマの自由を祝福した。

「それともう一つ!」
「?」

 ギャバンの手がタクマの腕をひっつかみ、サキの肩を抱かせる。

「もっとサキさんを大切にしろ!」

 お前には、勿体ないパートナーだぜ?

 そういって、ギャバンが不敵にウインクしてみせた。


 ・
 ・
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 ――ついに姿を見せ始めた謎の組織・ナガー。

 ルシファードは、ナガーの野望を砕くためにやってきた戦士だったのだ!

 静かに、しかし確実に悪の組織に取り入るナガーの真意とは何か?

 結束を強めた戦士たちは、その陰謀に敢然と立ち向かう決意を固めるのだった……



   -次回に続く-




 初回以来のオリジナル要素マシマシなストーリー展開となった6話、いかがでしたでしょうか。
 この後2、3版権挟んで、今度はバイオ系のオリジナルストーリーが待っております。

 両者を融合させた上に二次設定二次展開を生やしてるものですからそろそろ齟齬が出そうです(ぇ

 大人しく全シナリオ……せめてオリジナル枠だけでも……把握して時系列まとめ直した方がよさそうな気がしてきた。伏線的な意味で(


 さて、次回以降の執筆はラッシュ……と思ったんですが、ちょいpixivできゅんきゅんくるイラスト見かけたのでそちら題材に書いてみようかなどと。
 まだ当人からのGoサインはいただいてませんが(見切り発車感

 連作でもいいのですが、とりあえずは単発の予定で。1000~3000文字前後くらいのシロモノになるかな(ざっくり

 ともあれ、今後ともよろしくでございます。


 ――奇妙な笛の音。電子機器を狂わせかねない怪音波をキャッチしたヒーローたちは、そこで一人の人造人間と出会う。

 次回、スーパー特撮大戦200X! 第7話「人造人間」に、スイッチ・オン!